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17話:二人だけの図書室
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五月も中旬になり、志悠と江永には二回目となる図書室当番がまわってきた。放課後の図書室には、変わらず人がいない。本を読む同士がいないことは、志悠にとって寂しくもあった。
「志悠」
「なに」
すっかり江永は志悠の名前呼びが定着していた。
「俺にご褒美があっても良いと思うんだよね」
まだ五月であるにもかかわらず、夏休みの予定は着々と決まっていっている。美也が一緒になってしまうことへのご褒美ということだろうか。
「夏休みのこと?」
「そう」
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないんだ」
付き合っている二人だが、二人きりになれる時はそうそうなかった。教室や部活ではもちろん他の生徒の目があるし、部活が終わると帰りに美也がついてくる。志悠と家の離れている江永には不利だった。周りに付き合っていることを知られないようにするという約束のもと、デートにも行っていない。狭い田舎で遊べる場所は限られている。デートに行けば、知り合いと鉢合わせる可能性は十分にあった。
カウンターの席に着くと、江永は志悠に向き直り、まずは抱きしめた。
「ちょ、ちょっと江永」
「誰もこんなとこまで来ないよ」
コの字型になっている校舎の短い部分は管理棟と呼ばれている。その管理棟の三階の端っこ。三階には通常の教室がなく、最もアクセスが悪くなっている。さらに、三階まで上る階段の場所を間違えると図書室にはたどり着けない。三階だけ普通棟との連絡通路がないため、二階の管理棟から伸びる階段を上らなければ、図書室には行けないのだ。
体が離れたかと思えば、江永は志悠の頬をすりすりと撫で始めた。いつもは涼しい顔をしている江永の目には、熱い情欲の色が浮かんでいる。その目を見て、志悠はようやく江永が本気で自分を好いているのだと悟った。
「江永は本当に僕のこと好きなんだ」
「今更?」
江永は意地悪く笑った。志悠には、その表情がなんだかとても寂しいもののように感じられた。江永のときどき見せる、貼り付けたような笑みではない表情には、どことなく寂しさを感じさせる。それが大方、自分のせいであろうことは志悠も気づいていた。
江永は、もてあそぶように志悠の唇をやわやわと撫でた。
「ご褒美ちょーだい」
「ご褒美って」
「分かってるでしょ」
一連の行動から、江永が何を求めてきているのか、鈍い志悠にも察せられていた。志悠は意を決し目をぎゅっとつぶる。息が感じられるほどにまで距離が近づき、唇が触れ合う。カウンターの真後ろにある掛け時計の音が、やけに耳に響いてくる。江永は志悠の頭に手を添えて話そうとしない。江永のもう片方の手が、すり、と志悠の太ももを撫でる。まだ続けるのか。触れ合うだけのキスではおさまらなさそうな気配がする。志悠は江永の体に、押しのけるつもりで力をかけた。ようやく柔らかい感触が離れていった。志悠の視界を覆うように立ちはだかる江永は、望んだご褒美を手に入れたというのに、ちっとも嬉しそうな顔をしていない。
「そんな怯えた顔しないでよ。もうしないから」
江永の背後に、人影が差した。
「おい」
江永が振り向き志悠の視界が晴れる。志悠の顔から、すうっと血の気が引いていく。あげた視線と、その人物の視線とが、かちり、と交わる。
「み、美也、いつからいたの」
「志悠、そいつと付き合ってんのか」
質問には答えず、逆に美也は質問を返した。
「そうだよ。志悠は俺にメロメロだから」
志悠がはくはくと口を動かしているうちに、江永が先に答えてしまった。
「ち、ちがうよ」
「……違わねーだろ。この本返す」
志悠が勧めた本二冊を置いて美也はいなくなった。未だ固まっている志悠と対照的に、江永はあっけらかんとしていた。
「ははっ、見られちゃったね」
志悠の方を向いた江永の顔には、いつもの笑顔の仮面が張り付いていた。
「なんであんなこと言ったの」
「あんなことって?」
「ぼ、僕が……江永にメロメロって……」
「ね、ほんとは違うのにね」
江永はそれだけ言って、志悠の隣の椅子に腰を下ろした。もうそれ以上質問に応えるつもりはないのか、江永は本を開いた。志悠は諦めて、美也の置いていった本を機械的に返却の処理をした。ピッ、という音がやけに耳につく。
背後で、掛け時計の音だけが正確に時を刻んでいた。
「志悠」
「なに」
すっかり江永は志悠の名前呼びが定着していた。
「俺にご褒美があっても良いと思うんだよね」
まだ五月であるにもかかわらず、夏休みの予定は着々と決まっていっている。美也が一緒になってしまうことへのご褒美ということだろうか。
「夏休みのこと?」
「そう」
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃないんだ」
付き合っている二人だが、二人きりになれる時はそうそうなかった。教室や部活ではもちろん他の生徒の目があるし、部活が終わると帰りに美也がついてくる。志悠と家の離れている江永には不利だった。周りに付き合っていることを知られないようにするという約束のもと、デートにも行っていない。狭い田舎で遊べる場所は限られている。デートに行けば、知り合いと鉢合わせる可能性は十分にあった。
カウンターの席に着くと、江永は志悠に向き直り、まずは抱きしめた。
「ちょ、ちょっと江永」
「誰もこんなとこまで来ないよ」
コの字型になっている校舎の短い部分は管理棟と呼ばれている。その管理棟の三階の端っこ。三階には通常の教室がなく、最もアクセスが悪くなっている。さらに、三階まで上る階段の場所を間違えると図書室にはたどり着けない。三階だけ普通棟との連絡通路がないため、二階の管理棟から伸びる階段を上らなければ、図書室には行けないのだ。
体が離れたかと思えば、江永は志悠の頬をすりすりと撫で始めた。いつもは涼しい顔をしている江永の目には、熱い情欲の色が浮かんでいる。その目を見て、志悠はようやく江永が本気で自分を好いているのだと悟った。
「江永は本当に僕のこと好きなんだ」
「今更?」
江永は意地悪く笑った。志悠には、その表情がなんだかとても寂しいもののように感じられた。江永のときどき見せる、貼り付けたような笑みではない表情には、どことなく寂しさを感じさせる。それが大方、自分のせいであろうことは志悠も気づいていた。
江永は、もてあそぶように志悠の唇をやわやわと撫でた。
「ご褒美ちょーだい」
「ご褒美って」
「分かってるでしょ」
一連の行動から、江永が何を求めてきているのか、鈍い志悠にも察せられていた。志悠は意を決し目をぎゅっとつぶる。息が感じられるほどにまで距離が近づき、唇が触れ合う。カウンターの真後ろにある掛け時計の音が、やけに耳に響いてくる。江永は志悠の頭に手を添えて話そうとしない。江永のもう片方の手が、すり、と志悠の太ももを撫でる。まだ続けるのか。触れ合うだけのキスではおさまらなさそうな気配がする。志悠は江永の体に、押しのけるつもりで力をかけた。ようやく柔らかい感触が離れていった。志悠の視界を覆うように立ちはだかる江永は、望んだご褒美を手に入れたというのに、ちっとも嬉しそうな顔をしていない。
「そんな怯えた顔しないでよ。もうしないから」
江永の背後に、人影が差した。
「おい」
江永が振り向き志悠の視界が晴れる。志悠の顔から、すうっと血の気が引いていく。あげた視線と、その人物の視線とが、かちり、と交わる。
「み、美也、いつからいたの」
「志悠、そいつと付き合ってんのか」
質問には答えず、逆に美也は質問を返した。
「そうだよ。志悠は俺にメロメロだから」
志悠がはくはくと口を動かしているうちに、江永が先に答えてしまった。
「ち、ちがうよ」
「……違わねーだろ。この本返す」
志悠が勧めた本二冊を置いて美也はいなくなった。未だ固まっている志悠と対照的に、江永はあっけらかんとしていた。
「ははっ、見られちゃったね」
志悠の方を向いた江永の顔には、いつもの笑顔の仮面が張り付いていた。
「なんであんなこと言ったの」
「あんなことって?」
「ぼ、僕が……江永にメロメロって……」
「ね、ほんとは違うのにね」
江永はそれだけ言って、志悠の隣の椅子に腰を下ろした。もうそれ以上質問に応えるつもりはないのか、江永は本を開いた。志悠は諦めて、美也の置いていった本を機械的に返却の処理をした。ピッ、という音がやけに耳につく。
背後で、掛け時計の音だけが正確に時を刻んでいた。
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