【本編完結】黒歴史の初恋から逃げられない

ゆきりんご

文字の大きさ
19 / 25

18話:氷解

しおりを挟む
 図書室での一件以来、美也は志悠に話しかける頻度が目に見えて減った。一緒に帰ることもしなくなり、志悠は江永と二人で帰っている。勉強会だけは続いているが、会話も必要最低限だ。美也の行動が気遣いからくるものなのか、はたまた関わりたくないという思いからくるものなのか、志悠には判別できなかった。
 六月の大会が目前に迫っているが、美也のコンディションは崩れたまま。一向になおる気配がない。得意のジャンプサーブはコントロールを欠き、アタックとブロックでは跳ぶタイミングがずれるといったミスが続いていた。志悠はそんな美也の様子をマネージャーとしてただ見守ることしかできない。

「丸っち、浜辺とどうしたの」
「どうしたって言われても、別になにもないよ」

 スコアボードを片手に、桜庭は顎に手を当てていた。マネージャー候補として呼ばれた当初こそ江永の反感を買っていたものの、仕事を覚えるのがはやくてきぱきと動けている。本人も適正を感じたのか、桜庭は正式にマネージャーとなった。一方で二本柳は長続きせずにやめていった。聞けば「アルバイトが俺を呼んでいる!」とのことだった。

「なにもないなんてこと、ないでしょ。喧嘩してるんならはやく仲直りしてよね」
「喧嘩でもないと思うんだけど」

 この状態は喧嘩なんだろうか。別にどちらが悪いことをしたということではない。美也が謝るようなこともなければ、こちらが謝ることもない。ただ一つ志悠に話したいことがあるとすればそれは、誤解を解きたいということだけだった。だが美也は桜庭や他の人たちから指摘されるほどまで志悠を避けており、なかなかその機会が訪れない。約束していたはずの夏休みはどうするつもりなのだろう。

「浜辺のコンディションが丸山とのことで変わるってことは、この二か月弱で分かってる。今回のことも何らかのことがあって、ああなってるんでしょ。そしたら、何とかしてもらわないと。大切なエースなんだから」

 志悠の隣で芹沢が言う。今回ばかりは、江永が発破をかけるわけにもいかず、美也のコンディションを取り戻すことは難航していた。
 志悠が美也を見れば、ジャンプサーブをしようとしているところだった。放たれたボールは綺麗な弧を描く軌道から大きく外れ、「危ない!」という芹沢の声が聞こえた直後、大きな衝撃が志悠の体に走った。皆がばたばたと駆け寄ってくるのを薄目で見たが、志悠の意識はそこでブラックアウトした。
 温もりを感じて志悠は目が覚めた。ほんの少しだけぼんやりとしているが、意識を失っていたのはほんの僅かの間だけだったようだ。温もりの正体は人の背中であった。志悠は今の自分がどうなっているのか、段々に理解した。誰かにおんぶされて運ばれているのだ。逞しい腕と太い首が視界に入る。

「……美也?」
「目が覚めたか。ごめん、ボールが当たっちまって。今、保健室まで行くとこだから」
「うん」

 保健室に着くと、美也と保健医の間で話が進んでいった。脳震盪を起こしているかもしれないから、この後すぐに病院に行くことを指示された。親に連絡を取ってくると言って、保健医は保健室から席を外した。

「ごめん」

 美也は今にも泣き出しそうな顔をして謝った。

「いいよ、別に」
「いいわけねぇだろ。俺がずっとコンディションを戻せなかったせいだ」
「でもそれは僕が……僕たちが原因でしょ?」

 今回に限っては、自惚れとも思えなかった。

「誰のせいとかねぇえよ。そういうのに左右されない強い心が俺に無かったって話なんだ」
「ごめんね、気持ち悪くて」
「は、そんなこと一言も、ひとっことも言ってねぇえよ。ショックだろ。自分の好きな相手が他のやつと付き合ってて、しかもその相手にメロメロだって聞かされたら」

 語気を荒げる美也の言葉に、志悠は困惑した。

「え、ええ……?」
「江永のこと好きなのかって聞いたとき、志悠が否定したからほっとしてたのに、気づいたら付き合ってるとかショックだろ。約束の日まであと二年だったのにな……」
「ま、まってまって」
「んだよ」
「えっと、美也は僕のこと好きなの?」
「やっぱ、志悠の方がなんも覚えてねぇじゃんか。幼稚園の時に志悠から『ケッコンしよう』って言ってきたのに」
「いや、そのことは覚えてるよ。それで美也が『セイジンしても好きだったらいいよ』って答えたことも覚えてる」
「そこまで覚えててどうして『美也は僕のこと好きなの』になるんだよ」
「美也に好きって言われたことないし、女の子をとっかえひっかえしてたし」
「志悠が俺を避けるから自棄になってたんだよ」
「小学校の時にクラスメイトから「男が男を好きになるなんておかしい」って言われたり、父親に否定されたりして、大っぴらにできなくなったんだよ」

 美也は目を丸くした。美也にはきっと、志悠と違って同性を好きになることについて否定されるような経験がなかったのだろう。傍から見れば、志悠だけが美也のことを好きなように見えていただろうから。今だって美也は「好きだ」という三文字を口にしていない。

「僕は今でも美也のことが好きだよ。江永とは告白されたから付き合ってるだけ」

 美也は自身の髪をくしゃくしゃと掻きまわした。

「あー、かっこわり。先に言われちまった」

 居すまいを正すと、美也は真っ直ぐに志悠を見据えた。

「俺は志悠が好きだ。ずっと志悠だけが好きだった。だからどうか江永と別れて、俺と付き合ってほしい」

 逞しい腕が志悠の体を包み込んだ。
 志悠は目尻に涙を浮かべながら、黙ってこくこくと頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嘘をついたのは……

hamapito
BL
――これから俺は、人生最大の嘘をつく。 幼馴染の浩輔に彼女ができたと知り、ショックを受ける悠太。 それでも想いを隠したまま、幼馴染として接する。 そんな悠太に浩輔はある「お願い」を言ってきて……。 誰がどんな嘘をついているのか。 嘘の先にあるものとはーー?

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

あと
BL
「よし!別れよう!」 元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子 昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。 攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。    ……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。 pixivでも投稿しています。 攻め:九條隼人 受け:田辺光希 友人:石川優希 ひよったら消します。 誤字脱字はサイレント修正します。 また、内容もサイレント修正する時もあります。 定期的にタグ整理します。ご了承ください。 批判・中傷コメントはお控えください。 見つけ次第削除いたします。

もしも願いが叶うなら、あの頃にかえりたい

マカリ
BL
幼馴染だった親友が、突然『サヨナラ』も言わずに、引っ越してしまった高校三年の夏。 しばらく、落ち込んでいたが、大学受験の忙しさが気を紛らわせ、いつの間にか『過去』の事になっていた。 社会人になり、そんなことがあったのも忘れていた、ある日の事。 新しい取引先の担当者が、偶然にもその幼馴染で…… あの夏の日々が蘇る。

双葉の恋 -crossroads of fate-

真田晃
BL
バイト先である、小さな喫茶店。 いつもの席でいつもの珈琲を注文する営業マンの彼に、僕は淡い想いを寄せていた。 しかし、恋人に酷い捨てられ方をされた過去があり、その傷が未だ癒えずにいる。 営業マンの彼、誠のと距離が縮まる中、僕を捨てた元彼、悠と突然の再会。 僕を捨てた筈なのに。変わらぬ態度と初めて見る殆さに、無下に突き放す事が出来ずにいた。 誠との関係が進展していく中、悠と過ごす内に次第に明らかになっていくあの日の『真実』。 それは余りに残酷な運命で、僕の想像を遥かに越えるものだった── ※これは、フィクションです。 想像で描かれたものであり、現実とは異なります。 ** 旧概要 バイト先の喫茶店にいつも来る スーツ姿の気になる彼。 僕をこの道に引き込んでおきながら 結婚してしまった元彼。 その間で悪戯に揺れ動く、僕の運命のお話。 僕たちの行く末は、なんと、お題次第!? (お題次第で話が進みますので、詳細に書けなかったり、飛んだり、やきもきする所があるかと思います…ご了承を) *ブログにて、キャライメージ画を載せております。(メーカーで作成) もしご興味がありましたら、見てやって下さい。 あるアプリでお題小説チャレンジをしています 毎日チームリーダーが3つのお題を出し、それを全て使ってSSを作ります その中で生まれたお話 何だか勿体ないので上げる事にしました 見切り発車で始まった為、どうなるか作者もわかりません… 毎日更新出来るように頑張ります! 注:タイトルにあるのがお題です

不倫の片棒を担がせるなんてあり得ないだろ

雨宮里玖
BL
イケメン常務×平凡リーマン 《あらすじ》 恋人の日夏と福岡で仲睦まじく過ごしていた空木。日夏が東京本社に戻ることになり「一緒に東京で暮らそう」という誘いを望んでいたのに、日夏から「お前とはもう会わない。俺には東京に妻子がいる」とまさかの言葉。自分の存在が恋人ではなくただの期間限定の不倫相手だったとわかり、空木は激怒する——。 秋元秀一郎(30)商社常務。 空木(26)看護師 日夏(30)商社係長。

楽な片恋

藍川 東
BL
 蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。  ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。  それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……  早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。  ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。  平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。  高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。  優一朗のひとことさえなければ…………

処理中です...