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第14話 高木こずえ

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「……んん……」

ベッドに突っ伏しながら俺は朝を迎えた。

目を開けると部屋には太陽の光がさんさんと差し込んできていてまぶしい。
昨夜は遮光カーテンを閉めずに寝てしまったらしい。

「んー、いてててっ……!」
体を起こそうとすると全身が悲鳴を上げた。
普段運動をしない俺にとって昨日のダンジョンでの冒険は筋肉痛を引き起こすには充分だったようだ。

俺は両手に握りしめていた三万円とダンジョンのすすめという本を見て確信する。

「やっぱり夢じゃなかったんだな……俺全裸だし」

二回服を着るのも面倒なので昨日入り損ねた風呂に入るため俺は裸のまま風呂場に向かった。

「わんわんっ」
一階に下りると既に起きていたポチが足元にすり寄ってくる。

「ポチ、おはよう」
「わんわんっ」
「お前は筋肉痛にはなってないみたいだな」
俺がポチの頭を撫でるとポチは気持ちよさそうに目を細めその場で伏せをした。
その隙に俺は風呂場へ入る。

「いてててっ……あれ?」
風呂場の鏡に映った上半身はなんとなくだが胸の筋肉が少しだけ盛り上がっている気がした。影の出来方が昨日までとは違う感じだ。

「うーん……まあいっか」
とりあえず風呂に入って汗を流そう。
俺は昨日の夜にためていた風呂のお湯を追い焚きして湯船に浸かった。


二十分ほど風呂に入っていただろうか、その後半日ぶりの服を着て風呂から上がるとポチは風呂場の前でまだ伏せをしながら待っていた。
「あ、やば。エサまだだっけ。ごめんなポチっ」
「わんっ」

普段はポチの朝ご飯は八時くらいにやっているのだが今日はもう太陽が南に昇っている。
俺は急いでドッグフードをお皿に出した。

「お昼の分もあるからいつもより多めにやるからな~。慌てずに食べるんだぞポチ~」

俺の言うことがわかっているのかそれとも老犬だからなのかポチはゆっくりと口の中のドッグフードを咀嚼しながら食べていく。

「さて、俺もご飯にするかな」

風呂に入り幾分やわらいだ筋肉痛を我慢しながら立ち上がり、キッチンへと向かうと冷蔵庫を開けた。
冷蔵庫の中には牛乳と卵とマーガリンと豆腐、それと調味料。

「我ながらろくなものが入ってないな」

いつもならこの時間はパチンコから帰ってきてネットサーフィンとネットショッピングに興じている頃だが、
「……パンでも買いに行くか」
俺は食パンを買いにスーパーへ出かけることにした。

東京といってもここは名ばかりの東京。田舎中の田舎。
コンビニの数が圧倒的に少なく家からコンビニまで行くよりスーパーに行く方が断然近い。
筋肉痛のせいで事故っても困るので俺は車は使わず徒歩で家をあとにした。

平日の昼間からのんびり田舎道を歩くというのは気持ちいい反面どこか罪悪感を覚える。
変に知り合いにみつかると面倒なので外出時は必ずマスクを着用する。これはニートの鉄則。

若干の息苦しさを感じつつ俺は十五分ほどでスーパーへとたどり着いた。

臨時収入もあったことだし、
「パン以外にもなんか買って帰るか」
そう思い俺はスーパーのカゴを手に取ると店内を歩いて回る。


四枚切りの食パンを二つカゴに入れていると、
「安いよ安いよ、大安売りだよー! 今なら国産米がなんと十キロ二千円! 今日限りの大安売りだよー!」
威勢のいい声が店内に響いた。

すると、
「二千円ですって!」
「あら、すごい安いじゃないの~!」
「絶対買わなきゃ損よっ!」
「あたし今日来てよかったわ~!」
まるでさくらかと思うほど声を大にしたおばさんたちがお米売り場に殺到する。

十キロ二千円か……確かにかなり安い。が今日はあいにく車じゃないんだよな。
俺は後ろ髪引かれる思いでお米売り場を通り過ぎようとした。

とその時だった。
「ゴジラくん?」
俺の中学時代のあだ名を誰かが口にした。

反射的に振り返ってしまう。
「やっぱり、ゴジラくんだ~」
とそこには中学時代の同級生、高木こずえが昔と変わらぬ笑顔を浮かべ顔の横で小さく手を振っていた。
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