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第53話 一閃

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「マツイさんっ!」
ククリが叫ぶ。

俺が攻撃を仕掛けた瞬間だった。
マーダーゾンビは振り返り、俺の刀より一瞬早く俺の右目をひっかいたのだ。

危なかった……もう少し近付いていたら顔の肉ごと目をえぐられていたかもしれない。

「マツイさんっ、大丈夫ですかっ!」

ククリの声に俺はグーサインで返す。

それにしてもなんで俺の位置がわかったんだ? 物音は立てずに移動したつもりだったのに……。
俺は左目だけでマーダーゾンビを観察した。
するとマーダーゾンビは削げ落ちた鼻をすんすんと鳴らしている。

においか……!?

俺のにおいで居場所を探り当てたのか……?
妖刀きりがくれの効果で視覚が封じられているマーダーゾンビは嗅覚でもって俺を察知し反撃に転じたのかもしれない。
だとすると目が見えないからといってうかつには近付けない。

ぽたぽたぽた……。

さっきの一撃で俺も右目はまったく見えないし、どうする?

俺は意外と右目の痛みは感じずに平静を保てている。
よくわからないが痛みを緩和させる脳内物質でも出ているのだろうか。

すんすんと鼻を鳴らしながら少しずつだが確実にこっちに近付いてくるマーダーゾンビ。

俺は混乱効果のある黒曜の玉を持っていたことを思い出し肩にかけていた布の袋からそれを取り出すとマーダーゾンビに向かって投げた。

パリンと割れると中から黒い煙が噴き出てマーダーゾンビを取り囲んだ。

見えないながらも煙を振り払おうと大きく腕を振る。
……いや、煙を振り払おうとしているのではない、マーダーゾンビは既に煙を吸って混乱しているのだ。
その証拠に煙が消えた後もマーダーゾンビは何もないところに向かって腕を振り続けていた。


俺は刀をぐっと握り直すと混乱状態のマーダーゾンビを見据え、首を真横に一閃。マーダーゾンビの首を見事はね飛ばした。
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