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第60話 ペットホテル

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俺は本腰入れてトウキョウダンジョンに潜るためにポチをペットホテルに預けることにした。
家に置いていくよりペットホテルの方が安心できるしポチのためにもいいだろうと判断してのことだが……。

「一泊五千円か……結構するんだな」

俺はパソコンを使いネットで大型犬の一泊当たりの代金を調べてみた。

「これにオプションとかつけると……うーん」

ダンジョンに何日潜るかわからない以上いくらかかるか見当もつかないな。

こういう時にペットを預かってくれる友達がいればいいのだが残念ながらそもそも俺に友達はいない。
スマホの電話帳には二人の姉の番号しか登録されていないのだから。
まったく、スマホの持ち腐れだな。

「ポチ、お前の好みのホテルはどれだ?」
パソコンの画面をポチに見せながら訊いてみる。
「これか? こっちか? それともこれか?」
「わんっ」
ポチが反応したのは一泊一万円の高級ペットホテル。

「おいおい、これはさすがに手が出ないなぁ」
お金を稼ぎにダンジョンに潜るのに赤字が出てしまったら本末転倒だ。
ニートの俺には一泊五千円だってきついんだぞ。

「くぅ~ん」
おねだりしているのかポチは俺にすり寄りながら悩ましい声で鳴く。

「そんな声で甘えてもだな~」
「くぅ~ん、くぅ~ん」
「……あ~わかった、わかったよ。ここで手を打とう」
「わんっ」
「……時々お前が本当に俺の言葉を理解しているんじゃないかと思うよ」

俺はポチの頭を撫でながらつぶやいた。


◇ ◇ ◇


朝ご飯を済ませた後仮眠をとりさらに昼ご飯を食べてから俺はポチを連れてペットホテルへと向かった。
もちろんニート必需品のマスクを装着して。

俺はペットホテルに初めて訪れるとあってかなり緊張していた。
もともと人見知りの上、ニートで他人とほぼ接触がない。そんな中初めて行くペットホテルだ。
勝手がわからないので内心不安でいっぱいだった。

そんな俺を勇気づけるようにポチはリードを引っ張りながら俺を先導して歩く。
これではどっちが飼い主かわからないが俺はポチのなすがままポチの後ろをついていった。

ちなみに車で行かないのはポチが車酔いをするためだ。
ポチには悪いが車の中には二度と吐かれたくないのだ。


「あ、待ってくれポチ、今のとこ左だった」
しばらく歩いてからスマホの道案内を確認すると曲がらなければいけない道を真っ直ぐ来てしまっていたことに気付く。
やっぱりポチに任せて歩いていた俺がバカだったと考え直し俺はリードを持つ手を強めた。

「おい、待てってポチ。そっちじゃないから」
だがポチは俺の意思に反して真っ直ぐ進もうと俺を引っ張る。

「おいってばっ……」
もちろん今の俺が本気を出せばポチを強引に力で引っ張ることはできるだろうがポチを引きずってまで無理矢理言うことを聞かせようとは思わない。

「……ったく」

俺はしばらく散歩してやれていなかったという後ろめたさもあってポチの気の赴くまま歩かせてやることにした。


「おーい、どこまで行くんだー?」
「わんわんっ」
「わんわんじゃわかんないだろ」


軽やかな足取りで俺を先導しながら歩くこと三十五分、ようやくポチが歩みを止めた。

「ここどこだよ……」

俺は来たことのない場所に来ていた。
周りは大きな家が立ち並び一見すると高級住宅街のようにも見える。
そして目の前には大きな建物がそびえ立っていた。

「わんっ。わんわんっ。わんっ。わんわんっ」
ポチがその建物を向いてしきりに鳴き出すので、
「おい、静かにしろって」
注意するが、
「わんっ。わんわんっ。わんっ。わんわんっ」
一向に鳴き止まない。

しつけはそれなりにしているつもりなのだがこんなにいうことを聞かないのは珍しい。
この建物から何か美味しそうなにおいでもしているのだろうか?
俺は建物を見上げた。

すると俺の目に[ラグジュアリーペットホテル]の文字が入ってきた。

「え? この建物ってペットホテルなの?」
「わんわんっ」
俺がつぶやいた直後ポチがペットホテルに向かって駆け出す。

「あっ、ポチっ……!」
油断していてリードを放してしまった俺は後を追いかけた。

さすがラブラドールレトリバー、その立派な体格で難なくペットホテルの自動ドアを開けると勝手に中に入っていく。
「ポチっ!」
だが俺も飼い主として人様に迷惑はかけられない。
俺は閉まりかけた自動ドアをするりと通り抜けるとペットホテルの玄関ホールでポチをつかまえた。

「まったく、駄目じゃないかポチっ」
「わんっ」

俺はポチを従えペットホテルの従業員の人に一言謝ろうと顔を上げた。
すると、

「え……ゴジラくん!?」

そこで受付カウンターの中に立つ高木さんとみたび偶然の再会を果たしたのだった。
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