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第121話 ニートのプライド
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『まさか、そのホイッスルでおれを呼ぶとは思わなかったぜ、マツイ』
鬼のような形相のベアさんが隠し部屋に現れた。
かなり険しい顔で俺を見ている。
「あの、もしかして怒ってます?」
『怒ってなんかねぇよ、この顔は生まれつきだ。いちいち言わせんなっ』
「す、すいません」
まぎらわしい顔だな、もう。
『おいククリ、マツイに話さなかったのか、そのホイッスルが三十万円だってこと』
「伝えようとしましたよ。でもでも伝えようとした時にはもうマツイさん、ベアさんホイッスル吹いちゃってたんですもん」
『なんだそういうことか。マツイはそそっかしい奴だなまったく』
「そうなんですよ~。私の話を最後まで聞いてくれないことがあるんです。金塊のことだって――」
ククリがそこまで言った時『それよりだな……』とベアさんがククリの話がまだ途中なのに喋り出した。
なんだよ、ベアさんだって人のこと言えないじゃないか。
『マツイ、おれを呼んだってことは買い物するんだろ。ちょっと待ってろ今商品を出すからよ』
そう言うとベアさんは背負っていた荷物を『よっこらせっと』と床に置いて並べていった。
『さあ、まずはどうするよ。何か売ってくれるのか?』
「はい。あの……ちなみにこのベアホイッスルは?」
『それは一回吹いちまったんだろ。だったらもう使い物にならねぇから買い取れないぜ、悪いな』
「いえ、じゃあ……」
俺はベアホイッスルを皮のズボンのポケットにしまうとククリとスラが横でみつめる中布の袋からアイテムを取り出し順番に床に置いていく。
ひのきの棒と地獄のかなづちと白い仮面と金塊をベアさんの前に並べてみせた。
『おおっ! また金塊を手に入れたのかっ。マツイは運がいいな』
「へへっ、まあ……」
これで百万はまず確定だ。
『ひのきの棒はアレだがほかの二つもなかなかのレアアイテムだぞ』
と期待の持てる言い方をするベアさん。
自然と胸の鼓動が早まる。
『ひのきの棒が十円、地獄のかなづちが十万円、白い仮面が一万円、金塊が百万円で占めて百十一万十円だな、これでいいよな?』
「はい、もちろんですっ」
意気揚々と答えると俺は分厚い札束と十円玉を受け取った。
よっしゃ、よっしゃー!
やったぜ、やったぜー!
まだダンジョンに潜って二日も経っていないのに合計で百十三万三千二百三十円の儲けだ!
顔には出さないが心の中では笑いが止まらない。
『よし、その調子で買い物も頼むぜマツイ』
「はい」
大金が手に入ったんだ、よさそうなアイテムがあったら多少高くても買ってしまおうかな。
俺は大金を手にしたと同時に気も大きくなる。
はやる気持ちを抑えながら商品に目を落とした。
「このかっこいい盾はなんですか?」
目に留まった盾を手にする。
『そいつは防御力+20の海賊の盾だ。三万円だぜ』
「三万か……」
百万なんて大金を持っているせいか三万が高いのか安いのかわからなくなってくる。
キマイラロードとの戦いを控えている俺に果たして必要なものなのだろうか?
「ククリ、スラどう思う?」
自分の金銭感覚に自信がなくなりふたりに助言を求めた。
「そうですねぇ、そもそもマツイさんなら私は今のままの装備でもキマイラはもとよりキマイラロードにも充分勝てると思いますけどね~」
『ピキー』
「ふんふん、そうか。悪い、スラはなんて言ってるんだ?」
ククリに向き直る。
「スラさんはどうせ買うなら武器の方がいいんじゃないのって言ってます」
「ふーん、武器ねぇ……」
俺の今の武器は攻撃力+5の銅の剣。
確かに少し頼りない気もする。
俺は数ある商品の中からよさげな武器を手に取ってみた。
「これはどんな武器ですか?」
ベアさんに訊ねる。
『そいつは前も見ただろ。攻撃力+10の妖刀ししおどしだ。五万円だぞ』
「妖刀ししおどし……」
「マツイさん、その刀は斬りつけた相手の手足を麻痺させる特殊な効果がありますよ」
「へー、なかなかいいな」
元剣道部だった俺にとって剣や刀は使いやすい。
五万円という値段は少し気になるが……うーん、どうだろうか。
「どう思う? ククリ、スラ」
またもやふたりに意見を求めると、
『おいおいマツイ、子どもじゃないんだ、自分で使う物くらい自分で決めたらどうなんだ』
ベアさんに至極当たり前のことを言われてしまった。
しかもこの一言は意外と俺に突き刺さった。
というのもニートにとって自立していない子どもと比較されるというのは非常に心を揺さぶられることなのだ。
俺は自尊心をひっかかれたような気になり、
「じゃあ、これ買います」
と半ば売り言葉に買い言葉のようなスピードで気付くと口から言葉を発していた。
鬼のような形相のベアさんが隠し部屋に現れた。
かなり険しい顔で俺を見ている。
「あの、もしかして怒ってます?」
『怒ってなんかねぇよ、この顔は生まれつきだ。いちいち言わせんなっ』
「す、すいません」
まぎらわしい顔だな、もう。
『おいククリ、マツイに話さなかったのか、そのホイッスルが三十万円だってこと』
「伝えようとしましたよ。でもでも伝えようとした時にはもうマツイさん、ベアさんホイッスル吹いちゃってたんですもん」
『なんだそういうことか。マツイはそそっかしい奴だなまったく』
「そうなんですよ~。私の話を最後まで聞いてくれないことがあるんです。金塊のことだって――」
ククリがそこまで言った時『それよりだな……』とベアさんがククリの話がまだ途中なのに喋り出した。
なんだよ、ベアさんだって人のこと言えないじゃないか。
『マツイ、おれを呼んだってことは買い物するんだろ。ちょっと待ってろ今商品を出すからよ』
そう言うとベアさんは背負っていた荷物を『よっこらせっと』と床に置いて並べていった。
『さあ、まずはどうするよ。何か売ってくれるのか?』
「はい。あの……ちなみにこのベアホイッスルは?」
『それは一回吹いちまったんだろ。だったらもう使い物にならねぇから買い取れないぜ、悪いな』
「いえ、じゃあ……」
俺はベアホイッスルを皮のズボンのポケットにしまうとククリとスラが横でみつめる中布の袋からアイテムを取り出し順番に床に置いていく。
ひのきの棒と地獄のかなづちと白い仮面と金塊をベアさんの前に並べてみせた。
『おおっ! また金塊を手に入れたのかっ。マツイは運がいいな』
「へへっ、まあ……」
これで百万はまず確定だ。
『ひのきの棒はアレだがほかの二つもなかなかのレアアイテムだぞ』
と期待の持てる言い方をするベアさん。
自然と胸の鼓動が早まる。
『ひのきの棒が十円、地獄のかなづちが十万円、白い仮面が一万円、金塊が百万円で占めて百十一万十円だな、これでいいよな?』
「はい、もちろんですっ」
意気揚々と答えると俺は分厚い札束と十円玉を受け取った。
よっしゃ、よっしゃー!
やったぜ、やったぜー!
まだダンジョンに潜って二日も経っていないのに合計で百十三万三千二百三十円の儲けだ!
顔には出さないが心の中では笑いが止まらない。
『よし、その調子で買い物も頼むぜマツイ』
「はい」
大金が手に入ったんだ、よさそうなアイテムがあったら多少高くても買ってしまおうかな。
俺は大金を手にしたと同時に気も大きくなる。
はやる気持ちを抑えながら商品に目を落とした。
「このかっこいい盾はなんですか?」
目に留まった盾を手にする。
『そいつは防御力+20の海賊の盾だ。三万円だぜ』
「三万か……」
百万なんて大金を持っているせいか三万が高いのか安いのかわからなくなってくる。
キマイラロードとの戦いを控えている俺に果たして必要なものなのだろうか?
「ククリ、スラどう思う?」
自分の金銭感覚に自信がなくなりふたりに助言を求めた。
「そうですねぇ、そもそもマツイさんなら私は今のままの装備でもキマイラはもとよりキマイラロードにも充分勝てると思いますけどね~」
『ピキー』
「ふんふん、そうか。悪い、スラはなんて言ってるんだ?」
ククリに向き直る。
「スラさんはどうせ買うなら武器の方がいいんじゃないのって言ってます」
「ふーん、武器ねぇ……」
俺の今の武器は攻撃力+5の銅の剣。
確かに少し頼りない気もする。
俺は数ある商品の中からよさげな武器を手に取ってみた。
「これはどんな武器ですか?」
ベアさんに訊ねる。
『そいつは前も見ただろ。攻撃力+10の妖刀ししおどしだ。五万円だぞ』
「妖刀ししおどし……」
「マツイさん、その刀は斬りつけた相手の手足を麻痺させる特殊な効果がありますよ」
「へー、なかなかいいな」
元剣道部だった俺にとって剣や刀は使いやすい。
五万円という値段は少し気になるが……うーん、どうだろうか。
「どう思う? ククリ、スラ」
またもやふたりに意見を求めると、
『おいおいマツイ、子どもじゃないんだ、自分で使う物くらい自分で決めたらどうなんだ』
ベアさんに至極当たり前のことを言われてしまった。
しかもこの一言は意外と俺に突き刺さった。
というのもニートにとって自立していない子どもと比較されるというのは非常に心を揺さぶられることなのだ。
俺は自尊心をひっかかれたような気になり、
「じゃあ、これ買います」
と半ば売り言葉に買い言葉のようなスピードで気付くと口から言葉を発していた。
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