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第147話 割れた賢者の石
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「あ……ベアさん」
ベアさんの姿を見てククリががくんと肩を落とす。
「ベアさんっ!!」
『おお、なんだマツイ、そんな大声出して……ははーん、さてはおれを探してたな』
「はい、はいっ。その通りですっ。会いたかったですよベアさんっ」
俺はベアさんに駆け寄ると肩にかけていた異次元袋を石畳の上にどさっと置いた。
『おっ、それは異次元袋じゃねぇか。だったら沢山アイテムが入ってそうだな』
「はい。すごいお宝もありますよ」
『ほ~う、そりゃあ楽しみだ』
『ピキ~……』
スラが弱々しく鳴いた。
『ん? そいつどうした? 怪我でもしてるのか?』
「いえ、ただの空腹です。あ、何か食べられるもの売ってますか? あったら買いたいんですけど」
食べ物があればこのままの装備でもう一回ダンジョンを潜ることも可能だが……。
『悪いな、今は食べ物はねぇよ。売り物はここにあるもので全部だ』
ベアさんは床に並べてあった商品を指し示して言う。
「そうですか……」
だったらしょうがない。
「スラ、もうちょっとだけ待っててくれ。今持ち物売っちゃうからな」
スラを俺の足元にちょこんと下ろすと、
「じゃあベアさん買い取りお願いします」
俺は異次元袋から全アイテムを取り出し床に置いた。
さらに装備品を手早く脱ぐとそれらも床に置く。
『おっ、金庫があるじゃねぇか。中身は入ってるのか?』
「あ、いえ。もう開けちゃいました」
『なんだ、開けちまったのか。どこで開けた?』
「地下十三階層です」
『そっか、じゃあ百三十万円は手にしたってわけだな』
「はい」
金庫は開ける階層によって中の現金が変化するという不思議なアイテム。
俺は地下十三階層で開けたので既に百三十万円を手に入れている。
『じゃあその金庫は空っぽだから買い取れねぇな』
「そうですか……」
『なんだ、もしかしてそれがマツイの言うすごいお宝だったのか?』
ベアさんはちょっとだけ拍子抜けしたような口調で言った。
「いえ、お宝はこっちですよ」
全裸の俺はしゃがみ込むと異次元袋から最後のアイテムを取り出してみせる。
「はいっ、これです、賢者の石ですっ」
『おおぉっ! 賢者の石じゃねぇかよっ! す、すげぇじゃねぇかマツイ』
いつになくテンションの上がるベアさん。
やはりかなりのレアアイテムということか。
『まさかこれも売ってくれるのか?』
「はい。三百万円ですよね」
『ああ、そうだぜ。いやあ~ククリ、マツイを紹介してくれて今さらながら嬉しいぜ。ありがとなっ』
とベアさんがククリに顔を向けた。
ククリは不満そうに口をとがらせているがそんなのは俺の知ったことではない。
約束は約束だ。
「じゃあこれもお願いしますっ」
浮かれ気分で俺は賢者の石をベアさんの手の上に置――
「あっ!」
『おっ!』
割らないようにと力を入れずに人差し指と親指でそっと持っていたところ、ベアさんの大きな手にぶつかった拍子に賢者の石がポロっと俺の手からこぼれた。
瞬間、まるでスローモーションのように落下していく賢者の石。
俺とベアさんはそれを目で追いながらなんとか掴もうと手を伸ばす。
が、
駄目だ!
間に合わない!
落ちる!
と誰もが思ったその時だった。
ぽよん。
俺の足元で目を回してふらふらになっていたスラの体に賢者の石が当たって跳ね返る。
ラッキー。
しかしそう思ったのも束の間、バウンドして跳ね返ったその軌道は予期していなかった動きをして――
ガシャン!
結局賢者の石は床に落ちて粉々に割れてしまった。
「え……」
『あ……』
「あ~……」
俺とベアさんとククリは口を開けたまま床に散らばった緑色の結晶の残骸をただみつめていた。
ベアさんの姿を見てククリががくんと肩を落とす。
「ベアさんっ!!」
『おお、なんだマツイ、そんな大声出して……ははーん、さてはおれを探してたな』
「はい、はいっ。その通りですっ。会いたかったですよベアさんっ」
俺はベアさんに駆け寄ると肩にかけていた異次元袋を石畳の上にどさっと置いた。
『おっ、それは異次元袋じゃねぇか。だったら沢山アイテムが入ってそうだな』
「はい。すごいお宝もありますよ」
『ほ~う、そりゃあ楽しみだ』
『ピキ~……』
スラが弱々しく鳴いた。
『ん? そいつどうした? 怪我でもしてるのか?』
「いえ、ただの空腹です。あ、何か食べられるもの売ってますか? あったら買いたいんですけど」
食べ物があればこのままの装備でもう一回ダンジョンを潜ることも可能だが……。
『悪いな、今は食べ物はねぇよ。売り物はここにあるもので全部だ』
ベアさんは床に並べてあった商品を指し示して言う。
「そうですか……」
だったらしょうがない。
「スラ、もうちょっとだけ待っててくれ。今持ち物売っちゃうからな」
スラを俺の足元にちょこんと下ろすと、
「じゃあベアさん買い取りお願いします」
俺は異次元袋から全アイテムを取り出し床に置いた。
さらに装備品を手早く脱ぐとそれらも床に置く。
『おっ、金庫があるじゃねぇか。中身は入ってるのか?』
「あ、いえ。もう開けちゃいました」
『なんだ、開けちまったのか。どこで開けた?』
「地下十三階層です」
『そっか、じゃあ百三十万円は手にしたってわけだな』
「はい」
金庫は開ける階層によって中の現金が変化するという不思議なアイテム。
俺は地下十三階層で開けたので既に百三十万円を手に入れている。
『じゃあその金庫は空っぽだから買い取れねぇな』
「そうですか……」
『なんだ、もしかしてそれがマツイの言うすごいお宝だったのか?』
ベアさんはちょっとだけ拍子抜けしたような口調で言った。
「いえ、お宝はこっちですよ」
全裸の俺はしゃがみ込むと異次元袋から最後のアイテムを取り出してみせる。
「はいっ、これです、賢者の石ですっ」
『おおぉっ! 賢者の石じゃねぇかよっ! す、すげぇじゃねぇかマツイ』
いつになくテンションの上がるベアさん。
やはりかなりのレアアイテムということか。
『まさかこれも売ってくれるのか?』
「はい。三百万円ですよね」
『ああ、そうだぜ。いやあ~ククリ、マツイを紹介してくれて今さらながら嬉しいぜ。ありがとなっ』
とベアさんがククリに顔を向けた。
ククリは不満そうに口をとがらせているがそんなのは俺の知ったことではない。
約束は約束だ。
「じゃあこれもお願いしますっ」
浮かれ気分で俺は賢者の石をベアさんの手の上に置――
「あっ!」
『おっ!』
割らないようにと力を入れずに人差し指と親指でそっと持っていたところ、ベアさんの大きな手にぶつかった拍子に賢者の石がポロっと俺の手からこぼれた。
瞬間、まるでスローモーションのように落下していく賢者の石。
俺とベアさんはそれを目で追いながらなんとか掴もうと手を伸ばす。
が、
駄目だ!
間に合わない!
落ちる!
と誰もが思ったその時だった。
ぽよん。
俺の足元で目を回してふらふらになっていたスラの体に賢者の石が当たって跳ね返る。
ラッキー。
しかしそう思ったのも束の間、バウンドして跳ね返ったその軌道は予期していなかった動きをして――
ガシャン!
結局賢者の石は床に落ちて粉々に割れてしまった。
「え……」
『あ……』
「あ~……」
俺とベアさんとククリは口を開けたまま床に散らばった緑色の結晶の残骸をただみつめていた。
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