上 下
150 / 233

第150話 遅めの夕ご飯

しおりを挟む
「じゃあまたな、ククリ」
「はい。マツイさんもスラさんもお元気で。マツイさん、家に帰ったら早くスラさんに何か食べさせてあげてくださいね」
「ああ、そうするよ」

さっきまでの自由奔放な態度は空元気だったのかスラは俺の腕の中で腹が減りすぎて気絶してしまっていた。
早いとこ何か食べさせてやらないと。

写し鏡の門の前でククリに別れを告げた俺はスラを抱いたままいそいそと鏡を通過したのだった。


◇ ◇ ◇


鏡のそばに脱いで置いていた服をささっと着ると俺は石階段を駆け上がる。

外は夜だった。
曇っていて月も星も見えない。
だが俺の目には暖色系の明かりであたりが照らされているように見えているので足元もばっちり見える。

夜の静けさを堪能するのもそこそこに、
「さあ、我が家だぞ」
俺はスラを連れて家に入っていった。

家に上がると俺はスラを起こす。

「おーいスラ、帰ってきたぞ。何が食べたい? ん?」

するとスラはかすれた声で、
『……な、なんでもいいから早く~』
と答えた。

「時間がかからないものだとお菓子か缶詰くらいしかないけど……あっ、あとドッグフード」
『……マツイさん、マジなんでもいいから~』
「わ、わかった。じゃあ……」
俺は近くにあったドッグフードの袋を持ち上げるとスラの口にどばどばっと流し入れた。

ばりぼり。
ばりぼり。

ごくん。

『……ぷはぁー、生き返ったしマジでー!』
スラはさっきまで合っていなかった目の焦点がばっちりと俺に合うと、
『マツイさーん!』
俺の胸に飛び込んできた。

『ありがとー! でも結構ヤバめだったんだからね、次からは気をつけてよー』
「あ、ああ。悪かった」
『あたしまだ食べ足りないからもちっともらうね』
「ああ、好きにしろ」

スラはぴょんと床に飛び下りるとドッグフードの袋に顔を突っ込んでばりぼりと音を立てて食事を再開する。
俺はそれを尻目にキッチンに向かうと冷蔵庫を開けた。

「食パンは~っと……あ、駄目だ。消費期限切れてるわ」

ちらっと時計を確認すると夜の十時。

「スーパーはもう閉まってるよなぁ」
コンビニは遠いしなぁ……。

「……焼けばなんとかなるか」

俺は牛乳と両面こんがりと焼いたトーストを夕ご飯代わりに胃の中に流し込んだ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

mの手記

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

葉桜よ、もう一度 【完結】

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:67

そこまで言うなら徹底的に叩き潰してあげようじゃないか!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:43

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,096pt お気に入り:3,737

BLはファンタジーだって神が言うから

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:29

ある公爵令嬢の生涯

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,144pt お気に入り:16,124

箱入りの魔法使い

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:9

EDGE LIFE

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:20

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:1

親友彼氏―親友と付き合う俺らの話。

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:19

処理中です...