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第155話 衝撃

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午後五時半。

「俺、高木さんのところにポチ引き取りに行ってくるから留守番よろしくな」
『いってらっしゃーい』
テレビの教育番組に夢中のスラは俺の方を振り向こうともせず声だけ返した。

スラについてこられたら困るのだがあっさりとしているのはそれはそれで妙に寂しかったりするものだ。

俺はニート必須アイテムのマスクを着用すると玄関の鏡で髪型をチェック。
財布にはとりあえず四万円をしのばせた。

俺の家から高木さんが住むアパートまでは歩いて十五分くらいか。
今出ていけば約束の六時には充分間に合う。

遅れるよりは早い方がいいだろうと考え、俺はそれなりに余裕をもって家を出たのだった。


下校途中だろうか自転車に乗った男子高校生と女子高校生が二人、仲良さげに俺の横を通り過ぎていく。

「今の二人とは十も年が離れているのか……まさか高校生の時は自分がニートになるなんて思ってもいなかったけどな~」
将来ある若い二人を見て今さらながらニートであることに少しへこむ俺。

だが今の俺にはトウキョウダンジョンがある。

「今に見てろ。一生分の大金稼いでやるからな」
俺は誰にも気づかれないように小さくガッツポーズをした。

もしも大金持ちになれたらかっこいい肩書きが欲しいから株のデイトレーダーでも名乗ろうかな。


景色を眺めながらゆっくりと歩いていたせいか高木さんが住むアパートに着くまで二十分近くを要した。
それでもまだ約束の時間よりは十分も早いのだが。

「直接部屋に押しかけても平気かな?」

飼い犬を一日五千円で預ける程度の仲というのはどの程度の仲なのだろう。
家にお邪魔しても平気な仲なのかな?

「……まあ、部屋番号教えてくれたってことは大丈夫だよな」
自分を納得させるように鼓舞すると俺は高木さんがいるであろう202号室のドアの前に立ちチャイムを鳴らした。

ピンポーン。

「……はーい。今出まーす」
ドア越しに高木さんの声が返ってくる。

高木さんがいる。
もうすぐ出てくる。
俺は取り忘れていたマスクを素早く外す。

「あっゴジラくん。いらっしゃい」
ドアを開けた瞬間いい香りがふわっと漂ってきた。
部屋の匂いだろうかそれとも高木さんの匂い?

「ご、ごめん、早かった」
「そんなことないよ。今ちょうどお風呂から出たところだけどね」
そう言った高木さんの髪はまだ少し濡れている。
シャンプーの香りかもしれないな。
……ってなんか俺さっきからにおいばっかりかいで変態みたいだ。

高木さんはピンク色でもこもこした素材のなんとも可愛らしい部屋着を着ていた。
そして玄関から見える高木さんの部屋は小さいながらも整理整頓が行き届いていて清潔感のある部屋だった。

と、
「わんっ」
奥にいたポチと目が合うとポチが駆け寄ってきた。

「おお、ポチ。五日、いや六日ぶりか」
「くぅーん」
俺の足元まで来ると顔をこすりつけてくる。

「ポチ久しぶりにゴジラくんに会えて嬉しいみたいだね」
「おーよしよし、いい子にしてたかポチ」
俺はポチの頭とあごの下を同時に撫でてやった。

「しばらくはポチと一緒にいてあげられるの?」
「そうだね。次の出張は三日後だからそれまでは一緒にいられるよ」
「そうなんだ。ゴジラくん仕事忙しいんだね」
「うん、まあ」

もちろん仕事はしていないし出張など行ったこともない。
出張ってこうも頻繁にあっても疑われないものなのかな? ……ちょっと不安だ。

「そうだ、これポチを預かってくれたお礼ね」
「あ、うん。ありがとうね。今日はポチの散歩できていないけどごめんね」
「いいよいいよ」

俺は三万円を高木さんに手渡すとポチの首輪にリードをつけた。

「悪いけどその時はまたポチの面倒お願いできる?」
「うん。平気だよ」
「じゃあ二日後の夜ポチを連れてくるよ」
「わかった」
「じゃあね」
「うん、またねゴジラくん」

部屋の入り口で高木さんと別れの挨拶を済ますと俺はポチを連れてアパートをあとにした。


あたりはもう暗いのだろうが俺の目は自動的に暗視モードになっているため暖色系の明かりがついたように明るく見えている。

「ポチ、高木さんとの生活は楽しいか?」
「わんっ」
「そうかそうか。うらやましいぞポチ――」

久しぶりのポチとの時間を満喫しながら路地を歩いていると不意に――

ゴッ!

「……っ!?」

後頭部に強い痛みが走り俺はそのまま前に倒れたのだった。
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