不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません？

剣鬼 闘技祭準備編

レミアとの邂逅

「おい、坊主。お前、何か隠し事してるな……こいつ等の正体を知っているのか？」
「それは……」
「……あれ？誰か来るよ？」


シュンがレナに問い質そうとした時、ミナが声を上げる。全員が視線を向けると、こちらに向けて近づく人物が存在した。その顔を見た瞬間、シズネが驚いた表情を浮かべる。


「……レミア」
「えっ！？レミアって……あの！？」
「大将軍だと？どうしてこんな所に……」


レミアという言葉に全員が驚き、その一方で白馬に跨りながら市場に訪れたレミアも彼等の存在に気付き、倒れているジンと少年に視線を向け、表情を曇らせる。彼女は供の兵士を同行させては折らず、馬から降りると真っすぐにレナ達の元に向かう。


「私の名前はレミア・ルトリアと申します。バルトロス王国の大将軍を務めています。ここで何が起きたのか事情を説明してくれませんか？」
「あ、あの……」
「嘘だろ……本当に大将軍がこんな街に？」
「…………」


唐突に現れたレミアに全員が戸惑いの表情を浮かべる中、シズネは気まずそうに顔を反らし、そんな彼女にレミアは視線を向け、驚いた声を上げる。


「まさか……そこにいるのはシズネですかっ！？生きていたのですね！！」
「……人違いよ」
「えっ？」


声を掛けられたシズネは決してレミアと視線を合わせようとはせず、彼女の姿にレミアは激しく動揺するが、どうやら二人は顔見知りらしい。


(そういえばナオもシズネの事を知っていたな。レミアも王国の将軍の娘らしいし、知り合いだったのかな？)


レナは不思議そうに二人のやり取りを見ていると、シズネはレミアから離れるように移動し、レナに一声かける。


「……先に戻っているわ」
「え、あの……」
「待って下さい！！貴女はシズネなんでしょう？私の事を忘れたのですか！？」
「うわっ！？」


立ち去ろうとするシズネをレミアは慌てて追いかけて彼女の腕を掴むが、シズネは反射的にその腕を振り払う。


「離しなさいっ！！」
「えっ……！？」
「あっ……貴女と話す事なんてないわよ！！」
「シズネ！？」


シズネは普段の彼女らしからぬ態度でレミアに怒鳴りつけると、その場を走り去る。その後ろ姿を呆然とレミアは見送るが、彼女は振り払われた手を見つめ、悲しげな表情を浮かべる。それでも本来のこの場所に訪れた用事を思い出し、表情を一変させてレナ達に向き直る。


「……失礼しました。私の人違いだったようです」
「えっと……」
「もう一度質問します。ここで何が起きたのかを教えてください。そこに倒れている二人は何者ですか？」
「何者と言われても……僕達も知らないんだけど」
「ああ、俺達はこいつらに襲われたんだよ。という事でジャンヌ、説明頼んだわ」
「えっ！？また私ですか？」


シュンに説明を丸投げされたジャンヌは驚くが、この場にいる人間の中では気絶中のガロを除けば彼女が最初に市場に訪れたのはジャンヌである事は間違いなく、仕方なく彼女はここで何が起きたのかを話す。


「その……私は氷雨のギルドに所属する冒険者のジャンヌと申します」
「ジャンヌ……なるほど、噂はよく耳にしています。氷雨の冒険者の中でも腕利きの剣士だと伺っています」
「そ、そうなのですか？恐縮です」


自分の事を王国の大将軍が知っている事にジャンヌは照れるが、同じく氷雨に所属する冒険者のシュンはレミアに顔を向け、違和感を抱く。


(この顔……何処かで見たことがあると思ったらあの女と似ているのか)


レミアの横顔を見てシュンは数十年前に遭遇した事がある当時の大将軍の事を思い出す。彼がまだ新米の剣士だった頃、王都にて大将軍の女性と顔を合わせた事がある。シュンはその女性と瓜二つの容姿をしたレミアを見て自分が出会った大将軍の子供か孫だと気付く。


(それにしても異様なまでにそっくりだな。だが、こいつの方が強い魔力を感じる……何者だ？)


先程からシュンはレミアから感じ取れる異様な「魔力」に眉を顰め、彼女から明らかに人間離れした魔力を感じ取る。その魔力の大きさは彼が使えるマリアにも匹敵し、シュンは冷や汗を流す。


「なるほど……貴方達は冒険者であり、街の住民に救援を求められてこの場所に赴き、暴れていた二人を取り押さえたという事ですか」
「はい。正確に言えば暴れていたのはこの男性の方だけですが、こちらの少年は男性の手助けを行っていました」
「ふむ……顔を見せて貰ってもよろしいですか？」


シュンが考え込んでいる間にもレミアはジャンヌから一通りの事情を聞き出し、倒れている二人に視線を向ける。ジンの方は彼女も初めて見る顔なので特に反応は示さなかったが、少年に関してはその顔を見た瞬間、レミアは表情を強張らせる。


「この子は……！？」
「……どうかしたのか？」
「っ……いえ、何でもありません」


彼女の反応に疑問を抱いたゴンゾウが問い質すと、レミアは慌てて否定する。しかし、少年に視線を向け続け、面倒事に巻き込まれたように頭を抑え、彼女はレナ達に振り返った。


「この二人は私が拘束します。冒険者の皆様には犯罪者の拘束の協力に深く感謝します。近いうちにすぐに謝礼金ををギルドの方へ送らせましょう」