不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

文字の大きさ
267 / 2,090
闘技祭 決戦編

予選試合 〈休憩〉

しおりを挟む
――午前中の予選試合が終了し、1時間の休憩を挟む。多くの観客は食事を行うために闘技場の周囲に建設されている屋台や建物内の食堂に向かい、中には冒険都市に引き返す者も居た。特等席の選手達には希望者には豪勢な食事が用意され、シズネ達は氷雨の冒険者が運んできた食事を行う。


「シズネ、見事な勝利だったぞ」
「そうかしら?私としては恥ずかしい試合を見せてしまったわ……どうも雪月花で無い事を忘れて魔法を使おうとしてしまうわ」
「ああ、だから最後の方は変な動きしてたわけ?距離があるのに剣を突き刺してた時は何してんだろうと思ったけど……」
「うるさいわね……」
「ぷるぷるっ」


観客席にはダインとゴンゾウも降り立ち、ヒトミンを抱えたシズネと机を挟んで座り込む。特等席に残った選手はそれほど多くはなく、剣聖組は全員席を外している。マリアへの報告と闘技場内の調査を行っているらしく、表向きは部外者のシズネ達は休憩を行う。


「あの、シズネ様……試合の関係者以外の御方はこちらの席を使用するのはご遠慮願いたいのですが……」
「む、すまない……」
「いいわよ。別に残っても問題はないでしょう?何か不都合でもあるのかしら?」
「その、他のお客様から抗議が……」
「別に試合は行っていないのだから問題も何もないでしょう。清掃員が働いている姿を楽しめと言うの?」


休憩の間に破損した試合場の修復が行われており、兵士が罅割れた地面を修正していた。シズネが指摘すると注意を行う兵士は苦々し気な表情を浮かべ、黙って引き下がる。その姿を見たゴンゾウは彼等に申し訳なさげに頭を下げた。


「シズネ、やはり俺達は元の席に戻る」
「駄目よ。ここは敵地なのよ?兵士に同情なんかしないで、彼等も王妃の手先なのよ」
「ゴンゾウは優しすぎるんだよな……あれ、そういえばレナとコトミンは?」
「あの二人なら例の彼女の元へ向かっているわよ。スラミン君も一緒にね」
「ああ……あいつか」


シズネの言葉にダインは深いため息を吐き出し、ゴンゾウが黙って彼の肩を叩く、そんな彼の態度にシズネは不思議に思い、落ち込んでいる理由を尋ねる。


「どうしたのよ?あの娘と何かあったの?」
「別にそんなんじゃないけどさ……ほら、今のあいつって外見がさ」
「ああ、確かに驚いたわね。馴れ馴れしく話してきたから変な宗教の勧誘かと思ったわ」
「うむ。あの姿は驚いたな」
「本当、中身がああじゃなければ凄い好みだったのになぁっ……」


溜息を吐きながら机にうつ伏せるダインにシズネは納得し、彼が落ち込んだ理由を悟る。半ば呆れながらも同時に彼に対して同情心も抱き、シズネも黙って肩を撫でる。


「儚い初恋だったわね……」
「いや、別にそんな大層なもんじゃないけどさ……はあ、外見だけは本当に美少女なのにな……」
「何だい?一体何を落ち込んでいるんだい?」


話し込んでいる3人の背後に女性の声が響き、振り返るとそこには黒虎のギルドマスターのバルが存在した。彼女は試合には参加していないはずだが何故か武装しており、背中には大剣が抱えられていた。


「バル!?どうしてここに……それになんだよその恰好」
「何だい、久しぶりに会ったていうのに素っ気ないね。少しは成長したのかい?」
「ば、馬鹿にするなよ!!僕だって強くなったんだ!!この日のために新しい影魔法も覚えたし……」
「あ~はいはい、後でちゃんと話を聞くから今は私の話を聞きな」


ダインの頭を力任せに撫でながらバルは堂々と座り込み、彼女も部外者なので本来ならば特等席に立ち寄る事は禁じられているのだが、本人は気にせずに話しかける。


「試合見てたよ。ジャンヌとロウガと忍者娘の奴は残念だったね、まあとっちも相手が悪かったね」
「レナと大将軍が相手ならな……おっと、今はルナか」
「別に正体を隠す必要なんてあると思わないけどね……まあいい、それより気になるのは王妃の奴だね。てっきり、あたしはこの予選であんた達を同士討ちにさせると思ったのに……結局は戦ったのはレナとジャンヌだけで他の奴等は不自然な程に別々に試合を分けられたね」


バルの言葉にダインとゴンゾウも頷き、彼等は予選試合が乱戦方式で行われると聞いて王妃は氷雨の冒険者がヨツバ王国側の選手を戦わせると思っていた。しかし、結果はレナとジャンヌが同じ試合で戦っただけで他の人間達は今のところは仲間達とは戦っていない。ハンゾウとロウガは同じ試合だったが相手は大将軍のミドルであり、どうしてわざわざ同じ冒険者ギルドに所属する二人を王国側の最大戦力であるミドルと戦わせたのも気にかかる。


「敵の狙いが読めないとこっちも動きにくいね……あの王妃、何を考えているのやら」
「……これはあくまでも私の予測だけど、あの王妃はこの闘技祭に関してはそれほど重要視していないのではないかしら?」
「どういう事だい?」


シズネの発言にバルは驚き、他の二人も彼女の顔を見る。長年の間、王妃と付き合いがあったシズネはこの中では一番の王妃のやり方を把握しており、彼女なりに推察する。
しおりを挟む
感想 5,092

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
 毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 連載時、HOT 1位ありがとうございました! その他、多数投稿しています。 こちらもよろしくお願いします! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。