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放浪編
地下の休憩室
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「それは?」
「ここの扉はこれを使わないと開かないんです。こうすれば開きます」
『認識完了しました。ようこそ白崎様』
ネズミは指紋認証機の横に存在する穴にカードを通した瞬間、機械音声が流れて扉が左右に自動的に開かれる。その様子を確認したレナはネズミが使用したのはこの下水道の施設を利用する事が出来る「カードキー」だと判断し、カードキーの表面には日本語で名前が記されていた。
(白崎……名前の方は剥がれているから読めないな。顔写真も貼ってあったようだけど、これじゃあ分からないな)
カードキーの表面には元々の持ち主の名前と顔写真も記載されていたようだが、発行から随分と時間が経過しているのか所々が剥がれ落ちて確認出来なかった。だが、この白崎という人物がこの施設や校舎を作り出した勇者である可能性が高い。
「ほら、早く中に入りましょう。この中なら安全ですよ」
「その前にネズミはそれを何処で手に入れたのか教えてよ」
「え?これですか?これは拾ったんですよ。正確には取り出したというべきか……まあ、こっちに来てください」
ネズミは先に扉の中に入り、レナも後に続くと扉の内部には休憩室という言葉通りに身体を休めるには快適な空間が広がっていた。部屋の大きさはだいたい10人程度の人間が入っても問題はなく、長机や椅子、簡易ベッドや冷蔵庫、さらには洗面台やトイレにシャワー室まで存在した。
「どうですか?ここが僕の住処です。地上とは比べ物にならないでしょう?」
「お、おおっ……凄いな、これ。電子レンジまであるのか?」
「でんしれんじ?その変な箱の事ですか?」
壁には電子レンジまで設置されており、冷蔵庫を開くと涼しい風が流れ込む。この施設が利用されなくなってから随分と時間が経過しているはずだが未だに施設は生きている事を確認したレナはネズミに問い質す。
「ネズミ、お前は何時からここに住んでいるんだ?」
「そうですね……だいたい3年ぐらいですかね?前にこの中に送り込んだラットがここを発見したんですよ。まさか地下にこんな場所があるなんて思いもよりませんでしたよ」
「だろうね。それでそのカードキーは何処で手に入れた?」
「カードキーとはこれの事ですか?これは……あの中を見れば分かりますよ」
壁際に存在するクローゼットをネズミが指差し、不思議に思ったレナは中を開くと、そこにはネズミの着替え用の囚人服の他にステンレス製の大きな箱が置かれていた。
「その箱の中を見てください」
「どれどれ……うわ、何だこれ!?」
箱の中身は先ほどレナが通路で遭遇した掃除用のドローンの残骸が無造作に放り込まれており、何か強い衝撃を受けたのか粉々の状態で砕け散っていた。破片を拾い上げながらネズミはどのような経路でカードキーを入手したのかを語る。
「3年前、僕は連絡が途絶えたラットの1匹を心配してこの中に入りました。そして通路で壊れているこの変な物を見つけたんです。どうやらこいつが僕の飼っていたラットを飲み込んだのか見つけたときにはミンチになったラットの死骸もありました」
「うえっ……」
「せめて死骸だけでも回収しようと思ったんですけど、その時に偶然にもこいつの中からこれを発見しました。最初は用途が分からなかったんですけど、これを使えばいろんな場所の扉が開くことが分かりました」
「なるほど……」
箱の蓋を閉じるとレナはネズミが拾い上げたカードキーが掃除用のドローンが何らかの理由でゴミと間違えて回収していた事を知り、偶然にもネズミの手に渡って利用されていたという事になる。ドローンが壊れた原因もラットを飲み込んだだけではなく、このカードを内部に取り込んでいた事も原因かもしれない。
ネズミがカードキーを入手した経緯を知るとレナは改めて休憩室を見まわし、こちらの世界では見る事がないと思っていた電子機器の類を見て感動を覚える。まるで地球に戻ったような感覚に陥るが、あまり喜んでいられる状況ではない。
「ほら、そろそろ身体を洗いましょうか。お風呂はありませんけど、お湯を流す筒状の道具がこっちにあります」
「シャワーの事か。久しぶりに浴びるな……よし、行くぞネズミ」
「え?いや、僕は後で入りますよ。他人に裸を見られるなんて嫌ですし」
「女子かお前はっ――」
――結局一人でレナはシャワー室に入ると今身に着けている服を脱ぎさり、都合がいい事に洗濯機まで完備されていいたので服と下着を放り込む。洗剤や柔軟剤の類も用意されていたので有難く使わせてもらい、十数年ぶりのシャワーにレナは感動を覚えた。
「ふうっ……気持ちいいな、ここが監獄だってことを忘れるよ」
身体を洗い流しながらレナは今日起きた出来事を思い返し、これからの事を考える。反鏡剣以外の武器の奪取は成功し、後はゴンゾウの金銀の闘拳を取り返して監獄都市から脱出して冒険都市に戻らなければならないのだが、どうしてもレナはこの場所の正体が気になった。
「過去に召喚された勇者が残した場所か……そもそも勇者はどうやってこんな施設を作り出したんだ?」
コンクリート製の壁に触れながらレナは勇者という存在が気にかかり、この場所に残れば勇者に関わる手掛かりが手に入るのではないかと考えるが、当初の目的は仲間と合流し、冒険都市へ帰還する事である。
「考えてもしょうがないか……今は抜け出す事に集中しよう」
最初の目的通りにゴンゾウを連れて冒険都市を抜け出す事に決めたレナはシャワーを浴び終えると、着替えの棚の所にネズミが用意してくれたと思われる囚人服がある事に気づいた。
「ここの扉はこれを使わないと開かないんです。こうすれば開きます」
『認識完了しました。ようこそ白崎様』
ネズミは指紋認証機の横に存在する穴にカードを通した瞬間、機械音声が流れて扉が左右に自動的に開かれる。その様子を確認したレナはネズミが使用したのはこの下水道の施設を利用する事が出来る「カードキー」だと判断し、カードキーの表面には日本語で名前が記されていた。
(白崎……名前の方は剥がれているから読めないな。顔写真も貼ってあったようだけど、これじゃあ分からないな)
カードキーの表面には元々の持ち主の名前と顔写真も記載されていたようだが、発行から随分と時間が経過しているのか所々が剥がれ落ちて確認出来なかった。だが、この白崎という人物がこの施設や校舎を作り出した勇者である可能性が高い。
「ほら、早く中に入りましょう。この中なら安全ですよ」
「その前にネズミはそれを何処で手に入れたのか教えてよ」
「え?これですか?これは拾ったんですよ。正確には取り出したというべきか……まあ、こっちに来てください」
ネズミは先に扉の中に入り、レナも後に続くと扉の内部には休憩室という言葉通りに身体を休めるには快適な空間が広がっていた。部屋の大きさはだいたい10人程度の人間が入っても問題はなく、長机や椅子、簡易ベッドや冷蔵庫、さらには洗面台やトイレにシャワー室まで存在した。
「どうですか?ここが僕の住処です。地上とは比べ物にならないでしょう?」
「お、おおっ……凄いな、これ。電子レンジまであるのか?」
「でんしれんじ?その変な箱の事ですか?」
壁には電子レンジまで設置されており、冷蔵庫を開くと涼しい風が流れ込む。この施設が利用されなくなってから随分と時間が経過しているはずだが未だに施設は生きている事を確認したレナはネズミに問い質す。
「ネズミ、お前は何時からここに住んでいるんだ?」
「そうですね……だいたい3年ぐらいですかね?前にこの中に送り込んだラットがここを発見したんですよ。まさか地下にこんな場所があるなんて思いもよりませんでしたよ」
「だろうね。それでそのカードキーは何処で手に入れた?」
「カードキーとはこれの事ですか?これは……あの中を見れば分かりますよ」
壁際に存在するクローゼットをネズミが指差し、不思議に思ったレナは中を開くと、そこにはネズミの着替え用の囚人服の他にステンレス製の大きな箱が置かれていた。
「その箱の中を見てください」
「どれどれ……うわ、何だこれ!?」
箱の中身は先ほどレナが通路で遭遇した掃除用のドローンの残骸が無造作に放り込まれており、何か強い衝撃を受けたのか粉々の状態で砕け散っていた。破片を拾い上げながらネズミはどのような経路でカードキーを入手したのかを語る。
「3年前、僕は連絡が途絶えたラットの1匹を心配してこの中に入りました。そして通路で壊れているこの変な物を見つけたんです。どうやらこいつが僕の飼っていたラットを飲み込んだのか見つけたときにはミンチになったラットの死骸もありました」
「うえっ……」
「せめて死骸だけでも回収しようと思ったんですけど、その時に偶然にもこいつの中からこれを発見しました。最初は用途が分からなかったんですけど、これを使えばいろんな場所の扉が開くことが分かりました」
「なるほど……」
箱の蓋を閉じるとレナはネズミが拾い上げたカードキーが掃除用のドローンが何らかの理由でゴミと間違えて回収していた事を知り、偶然にもネズミの手に渡って利用されていたという事になる。ドローンが壊れた原因もラットを飲み込んだだけではなく、このカードを内部に取り込んでいた事も原因かもしれない。
ネズミがカードキーを入手した経緯を知るとレナは改めて休憩室を見まわし、こちらの世界では見る事がないと思っていた電子機器の類を見て感動を覚える。まるで地球に戻ったような感覚に陥るが、あまり喜んでいられる状況ではない。
「ほら、そろそろ身体を洗いましょうか。お風呂はありませんけど、お湯を流す筒状の道具がこっちにあります」
「シャワーの事か。久しぶりに浴びるな……よし、行くぞネズミ」
「え?いや、僕は後で入りますよ。他人に裸を見られるなんて嫌ですし」
「女子かお前はっ――」
――結局一人でレナはシャワー室に入ると今身に着けている服を脱ぎさり、都合がいい事に洗濯機まで完備されていいたので服と下着を放り込む。洗剤や柔軟剤の類も用意されていたので有難く使わせてもらい、十数年ぶりのシャワーにレナは感動を覚えた。
「ふうっ……気持ちいいな、ここが監獄だってことを忘れるよ」
身体を洗い流しながらレナは今日起きた出来事を思い返し、これからの事を考える。反鏡剣以外の武器の奪取は成功し、後はゴンゾウの金銀の闘拳を取り返して監獄都市から脱出して冒険都市に戻らなければならないのだが、どうしてもレナはこの場所の正体が気になった。
「過去に召喚された勇者が残した場所か……そもそも勇者はどうやってこんな施設を作り出したんだ?」
コンクリート製の壁に触れながらレナは勇者という存在が気にかかり、この場所に残れば勇者に関わる手掛かりが手に入るのではないかと考えるが、当初の目的は仲間と合流し、冒険都市へ帰還する事である。
「考えてもしょうがないか……今は抜け出す事に集中しよう」
最初の目的通りにゴンゾウを連れて冒険都市を抜け出す事に決めたレナはシャワーを浴び終えると、着替えの棚の所にネズミが用意してくれたと思われる囚人服がある事に気づいた。
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