不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ

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S級冒険者編

落ち着かない

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空間魔法の黒渦を利用してレナは地上へと帰還すると、とりあえずは外の方では特に何事も問題はなかったらしく、魔物に襲われることもなくコトミンたちが出入口の前に待機していた。レナが黒渦から抜け出すと、全員がレナが無事に戻ってきたことに安堵した。


「ただいま」
「レナ、大丈夫だった?」
「怪我はしていないようね……それで、中の様子はどうだったの?」
『勇者の研究所はありましたか?』
「何処から説明すればいいかな……」


レナはとりあえずは見た物を全て話し、とりあえずは地下に空洞が存在した事、そして古代遺跡のような建造物を発見した事を伝えると、ホネミンは興奮気味にレナの両肩を掴んで揺さぶる。


『正に資料通りです!!やっぱり、ここに勇者の残した研究所があったんですね』
「ちょ、落ち着いてよホネミン……さっきも言った通り、雰囲気が少し変わった場所なんだって」
『それがどうしたんですか!!大丈夫ですよ、勇者が扱う施設なんですよ?きっと、魔物が近づけられないような仕掛けでも施されているだけです。さあ、私達も行きましょう!!』
「あ、こら!!勝手に入ろうとするな!!」


黒渦に乗り込もうとするホネミンをレナ達は押さえつけ、まずはもう少し様子を観察してから入ろうと提案するが、自分の身体が戻れる可能性がある思ったホネミンは強硬的に黒渦の中に入り込もうとした。


『止めても無駄ですよ!!私は行きます!!とうっ!!』
「いや、俺の空間魔法は闇属性の魔力で構成されているから聖属性の魔力を纏ったホネミンは通れないんだって!!」
『ふぎゃっ!?』


しかし、黒渦を通り抜けようとしたホネミンだったが、彼女が近づいた瞬間に黒渦は消散してしまい、顔面から地面に転んでしまう。現在のホネミンの肉体を構成しているのは聖属性の魔力で構成された魔鎧術のため、闇属性の魔力で形成された黒渦とは相反する魔力なので彼女は黒渦を通る事は出来ない(但し、布の類で全身を覆いこんだ状態ならば普通に通り抜ける事は出来る)。顔面から地面に倒れこんだ彼女にレナ達は呆れるが、ホネミンは鼻頭を抑えながら講義するようにレナに振り返った。


『ちょ、痛いじゃないですか!!何ですか、いじめですか!?』
「だから俺の黒渦だとホネミンは送り届ける事が出来ないと言ったでしょ!!ほら、もう分かったからこっちから中に入るよ」
『ううっ……あ、よくよく考えたらこの身体は作り物ですから別に痛くありませんでした』
「ええっ……」
「相変わらず騒がしい娘ね……いえ、そういえば私達よりずっと年上だったわね」


忘れがちだがホネミンは数百年も生きている存在のため、レナ達どころかヨツバ王国のデブリ国王よりも年上である。それはともかく、結局はホネミンに押し切られる形でレナ達も地下の空洞に入る事が決まり、ホネミンは洞穴から入って他の者たちはレナが作り出した黒渦を通過して場所を移動した――





――地下に到着早々、レナ以外の者たちは地下の広大な空間を目の当たりにして唖然とするが、その中でもダインは真っ先に異変に気付く。彼は何かを探すように忙しなく周囲を見渡し、落ち着かない様子で皆に話しかける。


「あ、あれ……どうなってんだここ?」
「ダイン、どうした?」
「何か気になるの?」
「いや、だって……なんか、おかしくないかここ?変な感じするだろ?」
「えっ?そうかな……別に僕は何も感じないけど」
「俺もだ」
「……確かに不思議な場所だとは思うけど、別にそんなに焦る事はないでしょう?」


ダインの発言にゴンゾウ、ミナ、シズネは賛同しなかったが、魔術師であるコトミンとレナはダインの言いたいことが分かり、魔術師組だけがこの施設の異変を感じ取った。


「ダイン、俺も気持ちはわかるよ。なんか、落ち着かないんでしょ?」
「私も……ここ、何か変な感じがする」
「だ、だよな!?ほら見ろ、僕だけがおかしく感じたわけじゃないだろっ!?」
「……言われてみれば確かに妙な気分がするわね」
「俺は別に何も感じないが……」
「ぼ、僕も……」


レナ達の言葉にシズネも僅かに眉を寄せ、指摘されなければ気づかなかったが彼女も現在自分が存在する場所に違和感を感じ取る。しかし、他の3人ほどにはっきりと感じてとれるわけではなく、何となくだが少し落ち着かない程度だった。

シズネの脳裏に初めて父親が狩猟に連れて行った際、森の中で一晩過ごした事を思い出す。その時は父親が傍にいるのでどんな魔物が現れようと大丈夫だとは信じていたが、それでも初めての外でしかも魔物が生息する森の中で夜を過ごしたときの不安感を思い出させる。結局、その日は何事もなく帰ってこれたのだが、現在の状況は正にシズネにとっては幼少期に過ごした森での一晩と同じ気持ちである。

頼もしい存在が傍にいるのに不安を抱える必要ない状況なのは頭で理解しても、肉体の方が安心を得られない。そんな状況に陥ったような気分を味わい、率直にシズネは他の三人に違和感の正体を問う。
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