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真・闘技祭編

漂流者

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「へえ、俺が来る前にそんな奴がいたのか……でも、その派閥争いはどうなったんだ?」
「それは酷かったぞ、奴を迎え入れた派閥が一時的にこの島を支配していたんだ。だが、ある時に変な奴等が現れてな。そいつらにジンが連れ去られたんだ」
「変な奴等?何処のどいつだよ。まだ生きてるのか?」
「いや、それが囚人じゃないんだよ。この島には一年に一度の割合で各国の兵士が様子を見に訪れるんだが、その時に来たのはバルトロス王国の船でな。なんか変なガキどもを連れた女と、エロい格好をした女と、これまた何処ぞの貴族のような恰好をした女がいたな」
「どういう集団だよそれ……」


老人の話によると前にある時にこの監獄島にバルトロス王国の飛行船が降りたらしく、普段ならば兵士が様子を伺うのだが今回に限っては兵士ではなく、変わった格好をした女子供が訪れたという。島に訪れたその人間達の正体がまさかバルトロス王国の王妃であるイレアビトと、彼女の配下の子供たち、そして大将軍のカノンである事を知る由もない。

監獄島に訪れたイレアビトはジンの存在を知り、彼に興味を抱いた彼女はジンと出会い、そのまま彼を監獄島から連れ出したという。この事によってジンという圧倒的な暴力を失った派閥は崩壊し、激しい争いが勃発したという。


「ジンがいなくなった後は大変だったぞ。切り札を失った派閥は内部分裂、結局は自滅した。その後は平和が戻るかと思われたが、結局は囚人同士が次の島の主の座を巡って争い始めやがった」
「そ、そんな事が起きたのか……でも、結局どうなったんだ」
「そうだな、ジンがいなくなってから一か月後ぐらいにこの島に漂流者が訪れたんだよ」
「ひょ、漂流者?この島に?そんなのあり得るのか!?」


若手の囚人は老人の言葉に驚き、この海獄島は大陸から距離があり、しかも海竜リバイアサンの生息地域である。そんな場所に漂流者が流れ着く事自体が普通ならばあり得ない。


「何でも船に乗っているとき、嵐に襲われて船が沈没したらしい。その時に海に放り出されて何日も流れ着いたところ、この島に辿り着いたと本人は言っていたよ」
「そんな事があり得るのか!?よく海に流されているときに襲われなかったな……よほど、運が良い奴なんだ」
「いや、違うな。その漂流者の恐ろしい所は自分が海に流されている間、襲い掛かってきた奴等を喰らって生き延びていたらしい」
「はあっ!?」


老人の言葉に増若手の囚人は信じられない表情を浮かべ、漂流者が漂流中に襲い掛かってきた魔物を逆に捕食するなど聞いた事もない。だが、老人の囚人は真面目に答え、その漂流者の恐ろしさを告げた。


「その漂流者はな、元々はこの島を目指してきたらしい。乗ってきた船に関しても自分で用意した代物だ。信じられないかもしれないが、そいつは猟師が乗るような小舟に乗ってこの島を目指していたんだ」
「そんな馬鹿なっ!?どうしてそんな無謀な事をしたんだよ!!」
「俺も本人に聞いてみたんだが、なんでもこの島は生まれ故郷らしい。知ってるだろ?この島でガキが生まれたら強制的に連れ出される事を」
「あ、ああ……そういう話があるのは聞いてる」


監獄島では囚人同士が子供を作った場合、その子供は強制的に連れ出されてしまう。理由としては囚人の子供には罪はなく、引き取られた子供は兵士が取り上げ、世界各国のいずれかの国に送還される。一年に一度、各国の兵士が監獄島に送り込まれる理由の一つでもある。

引き取られた子供たちは基本的には孤児院に保護され、世話を見られる。そして漂流者はかつてこの島で生まれ、その後に「和国」に送り込まれた。だが、色々と会って和国を離れる事になったその人物は自分の故郷に自力で戻ってきたという。


「そいつはな、この島に帰ってきた途端に囚人共の争いを目にして嘆いてな。あろうことか暴れていた囚人全員を一人も残らずに「黒焦げ」にしやがった」
「えっ!?」
「ジンも強かったが、正直に言えば俺の目から見たら流れ着いてきた奴の方がやばかったな。はっきり言って桁違いだ、あいつに勝てる人間はいない」
「い、いったい誰なんだよそいつは!?」
「さあな、結局はここへ居たのは一か月ぐらいだからな。名前も教えてくれなかったし、勝手に自分で船を作り上げて帰っちまったよ。まあ、生きているとしたら今頃は大陸に戻ったんじゃないのか?」
「出て行ったのか!?」


この監獄島に流れ着いたのも奇跡だというのに、その後に島を自力で抜け出したという漂流者の話を聞いて若手の囚人は動揺を隠せず、最後に老人は思い出したように告げた。


「ああ。そういえばそいつは名前は教えてくれなかったが、俺達が自分を呼ぶ時はこう呼べと言っていたな……「雷帝」だとよ」
「ら、雷帝?」
「まあ、ともかく変わった奴だったよ。でも、そいつのお陰でこの島に存在した凶悪な連中は一人残らず海の藻屑と化した。ある意味ではこの島の救世主かもな……さあ、話はここまでだ。飯を食いに行くぞ」


老人の言葉に若手の囚人は「雷帝」という言葉の意味が分からなかったが、一つだけ言える事はその漂流者はもうこの島にはおらず、大陸を目指して消えてしまったという事だけだった――
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