種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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真章 〈終末の使者編〉

オルトロスの鍵

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訓練場に辿り着くと、既に聖導教会の主要のメンバーが全員集まっており、地面に突き刺さったテンの大剣には背中合わせの形で鎖に雁字搦めに拘束された終末者の姿があり、さらにセンリが築いたと思われる六芒星の防御魔法陣が彼女の地面に刻まれていた。



「レノさん、良かった……姿が見えなかったから心配しましたよ」
「ちょっと確かめたい事があって……こっちの様子は?」
「全然反応が無いね。完全に気を失っちまったのか、話しかけても起きる気配がないよ」



そう言いながらテンは眼の前の終末者に視線を向け、先ほどの戦闘で負傷したとはいえ、未だに五体満足の彼女が意識を取り戻さない事を訝しむ。念のためにワルキューレの精鋭部隊が彼女を取り囲んでいるが、油断はできない。

レノは何時の間にか居眠りを始めていたコトミを下ろし、センリの横で待機していたデルタに預ける。彼女はコトミを抱き上げ、そのままの状態でレノに話しかける。



「主人。彼女は機能停止していますが、自動修復が完了したら動き出します」
「そうか……完全に壊れた訳じゃないのか」
「大分損傷をしていますが、自己修復は可能なレベルです。ですが、高圧電流を流し込まれた事で幾つかの機能が停止し、修復が完了するまで再起動はできません」
「あんたら何を話してんだい?」
「この方ついて何か知っているのですか?」



デルタの発言に傍にいたテンとセンリが首を傾げ、一体彼女が何を話しているのかは分からないが、事情を知っているのならば情報を提示してい欲しいと頼む。レノはどう説明すればいいのか悩みながら、とりあえずは彼女がデルタと同郷の人間(?)であり、どうしてこのような暴走をしたのかまでは分からない事を話す。



「同郷ね……それにしては、嫌に顔が似すぎてないかい?」
「もしや、デルタさんの親戚の方では……」
「う~ん……あながち間違ってはいないけど……」
「この方と私に血縁的な繋がりはありません。ですが、この方をモデルに私達は生み出されました。言ってみれば人間の方で言う所の母親に近しい存在です」
「え、血縁じゃないのに母親……え?」



デルタの発言にますます混乱が招き、詳しい事情はあとで説明する事を約束し、レノは拘束されている終末者に視線を向ける。胸元の装甲は破壊されているが、カラドボルグと同じ威力を誇る雷天撃を喰らいながらも完全に破壊出来なかったところ、どうやらあの魔人王と同程度かそれ以上の硬度を誇り、並の魔術師や剣士では相手にならないだろう。

仮にアルトのデュランダルならば彼女を破壊する事も可能かもしれないが、国王となってから色々と政に忙しいらしく、滅多に会う機会はない。最近では森人族との同盟の説得に励んでいるらしく、リノンを引き連れて王城から離れている事が多い。



「にしても……こいつどうするんだい? 何時までもこんな場所に放っておくわけにはいかないだろ?」
「そうですね……ですが、移動しようにも数人がかりで持ち上げるとなると不便ですね………こんな時にゴンゾウさんのような巨人族の方がいたら……」
「ゴンちゃんも最近は色々と忙しいから」



大将軍に昇格し、ゴンゾウは現在は大軍を率いる立場ではあるが、まだまだ未熟な点が多く、上に立つ立場の心構えを学んでいる。今までは基本的に他人に命令されていた立場だったが、現在は逆に他者を統率する立場となったため、色々と忙しい。



「仕方有りません……レノさんの転移魔方陣で教会内の何処かに監禁しましょう」
「それなら地下室のあそこがいいんじゃないですか? もう誰も使用していないし、あそこなら閉じ込めてしまえば何もできないでしょうし」
「なるほど、確かに悪くないかも」



テンの告げている地下室とは、以前にレノがこの聖導教会総本部に尋ねる時によく使用していた大聖堂に繋がる地下の宝物庫であり、現在は聖天魔導士の屋敷に新しい転移魔方陣を書き込んだため、今は使用されていない。

一応はまだ地下室には以前に残した転移魔方陣が残っており、すレノは転移魔方陣を地面に書き込み、彼女を移動させようとした時、不意に屈んだときに聖導の地下で発見した黒い箱を懐から落としてしまう。



「あれ? レノたん何か落ちたよ」
「あ、忘れてた」



箱を拾い上げ、埃を払うとセンリに差し出し、彼女は不思議そうな表情を浮かべながらも受け取ると、すぐに目を見開く。



「こ、これは……⁉」
「どうしたんすかセンリさん?」
「れ、レノさん‼ これを何処で発見したんですか⁉」
「大聖堂の床下から見つけた。地下に空間があって、中央の台座の上に設置されていた」
「そうですか……なるほど、どうりで今まで見つからなかったはずです……‼」



何か知っているのか、黒色の箱を握りしめながらセンリは感慨深げに頷き、彼女の反応に全員が顔を見合わせる。



「ねえセンリ……その箱がどうかしたの?」
「っ……すいません、呆けていました……」
「別に気にしてないから、その箱の事を教えてよ」
「はい……これは教皇様が隠していたオルトロスの封印を解く鍵です」
「オルトロスの?」



以前にロスト・ナンバーズがオルトロスの封印を解くために動き出した事があったが、彼等は封印を前にしながらも解放するために必要な鍵を発見できず、結局は断念して退去したと聞いていたが、



「でも、前に封印を解くには楔の一族の人間が必要だって言ってなかった?」
「その通りです。ですから、この箱の中身は楔の一族の人間の身体の部位が入っている可能性があります」
「うえっ⁉」



まさか箱の中身がそのような物だとは思いもよらず、全員が後退る。慌ててセンリが弁明するように距離を取った皆に説明を行う。



「身体の部位と言っても‼ 恐らくは肉体の一部ではなく、魔晶石が封印されていると思います。魔晶石は死して尚、死亡した人間の魔力を宿す特別な石ですから……」
「なるほどね……でも、どうしてそんな物が大聖堂の下に設置されてたんだろ?」
「恐らく……既に楔の一族は何らかの理由で全員が死亡していたのでしょう。ですが、教皇様は事前に彼らの誰かの魔晶石を回収し、大聖堂の地下に封印していたのかと……」
「なんでそこまでして……」



オルトロスの封印を解く鍵をどここまで大掛かりに封印する必要性が分からず、普通に考えればこの星の生物を絶滅に追い込みかけない魔物の封印を解除する代物など、最早、封印ではなく処分した方が良いと思えるが、不意にレノの脳裏にムメイの顔が思い浮かぶ。



彼女も最初の頃はバジリスクの封印を解くために楔の一族であるレノを執拗に狙っていた時期もあり、彼女の場合は魔王の指示を受けて万全な状態を整えてから封印を解除し、バジリスクと戦闘を迎える計画を立てていたと言っていたはず(結果的には活性化現象でバジリスクが自力に復活したために失敗に終わったが)。



もしかしたら、聖導教会側も彼女のようにいずれ封印が弱まったオルトロスが自力で封印を突破する事態も予測し、オルトロスが封印を特前に万全の準備を整えた状態でこちら側から「楔の一族」を犠牲にしてまでも封印を解除して迎え撃つ事態も考えていたのかもしれない。
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