種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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大迷宮編 〈前半編〉

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「長老会が反乱……⁉」
「貴女は……レフィーア様の側近の方だと伺っていますが、長老会の事をご存じなのですか?」
「え、ええ……一応は」
「…………」


ジャンヌの話を聞き終え、ミアは顔色を青くする。彼女が長老会の差し金でレノの事を調査し、場合によっては暗殺するように指示を受けている事を知っているのは、彼女の配下と標的であるレノだけであり、ミアは動揺を隠せないように頭を抑える。そんな彼女の態度に何人かが気遣いの視線を向け、すぐにライオネルがジャンヌに問い質す。


「し、しかし……事情は分かったが、たった3万人の軍隊で王国に攻め入るのか?無謀としか思えんぞ……」
「……それはどうでしょうか」
「なに?」


ライオネルの発言にミアが首を振り、彼女はまだ動揺が隠せないのか震える声で呟く。


「地方の戦士と近い、アトラス大森林の守護戦士(ガードナー)たちは格が違います……彼等の1人1人が100人の部隊に匹敵する武芸と魔法を極めています」
「聞いたことがある……森人族最強の守護戦士、彼奴等は決して大森林の外に出ないと聞いていたが、それほどまでに凄いのか?」
「実際、私達が住むアトラス大森林は幾たびも攻め込まれたことがあります。ですが、1000年前の魔王を除き、大森林に侵入を試みた者は一人も残さずに打ち倒しています」


アトラス大森林は過去に他種族の軍隊に何度も攻め込まれたが、その度に守護戦士ガードナーが彼らを駆逐し、実際に10万人のバルトロス王国の軍隊が大森林に突入した事もあるが、結果は誰一人として帰還出来なかったと言われている。1000年前の魔王も、彼女の従えるセンチュリオンの大半を犠牲にして征服を果たした場所だった。


「しかし、そんなに凄い奴等がどうして今までの戦争に参加しなかった? それほどの強大な戦力を誇るならばもう少し有名であっても可笑しくないだろうに……」
「彼等はあくまでも神聖なアトラス大森林を守護する立場の人間です。影の一族が暗殺に特化した存在ならば、彼等は戦闘に特化した部隊です。森人族にとっては最後の切り札であり、同時に最強の矛と盾を担う役割の持ち主なんです」
「聞けば聞くほど恐ろしい奴等だな……」
「そんな存在が3万人もいるんですか~」
「そして王国に向かっている……アルトはどう対処する気だ?」
「既にカノン将軍と共に一軍を引き連れて国境に向かっているそうです」
「センリ?」



リノンの疑問を答えたのはジャンヌではなく、全員分のお茶を運んできたセンリであり、彼女は机の上に茶瓶を並べると、自分も椅子に座る。



「ようやく一段落つけました……どうやら、だいたいの事情はジャンヌさんから聞き終えたようですね」
「うむ。だが、これからどうする? 王国に森人族が攻め入るとなると、最早大迷宮の調査どころではないな」
「今回の件は王国以外の勢力も既に動いています。獣人族と巨人族は王国との同盟を果たすため、軍を編成しているとの事です」
「そんな……また戦争が起きるのか?」
「悲しいです……」
「いえ、まだ希望はあります」


センリの言葉に全員が視線を向け、彼女は俯いているミアに視線を向けると、


「ミアさん、貴方はレフィーア様の側近ですね?」
「え、ええ……それがなにか?」
「今回の長老会の暴走、何か心当たりはありますか?」
「そう言われても……」


ミアは考え込むが、特に大きな心当たりがなく、彼女としてもどうして今のこの時期に長老会がレフィーアを拉致して王国に攻め入る様な真似をしたのか理解できない。だが、不意にある事を思い出す。


「……そう言えば、この調査に参加するために長老会のムジン様と出会った時……」
「ムジン?」
「あ、長老会の頂点に立つ御方です。元々は種族代表を勤め、レフィーア様の祖父に当たるお方です」
「えっ⁉ ま、まだご存命だったんですか⁉」
「知ってるのセンリ?」
「は、はい……1000年前の森人族代表を務め、魔王軍に最後まで抗ったと聞いていますが……まさか今も尚、生きているとは……」
「確かに世間では死亡されたように思われていますが、ムジン様はご健在です。ですが、両脚が不自由なので滅多に大森林から出る事はありませんが……」


ムジンは代表を辞した後も「長老会」を設立し、影で動いで森人族という種族の威厳を保ってきたという。彼の息子(レフィーアの父親)の世代から表世界には姿を出さず、影の一族を生み出して秘密裏に動いていたらしい。


「私が調査部隊に参加する前、アトラス大森林でムジン様が直接会いに来てくれました」
「ん? お前と、そのムジン……殿はどういう関係だ?」
「ムジン様は私が赤ん坊の頃から目を掛けてくれていました。私以外もレフィーア様の護衛隊長を務めるカイザン様や、他の側近数名も同じように小さい頃からムジン様から色々とお世話になっています」
「ほう、興味深い話だな」
「それで?」
「……出発の際、ムジン様は直接私の元にまで出向くと、今回の調査の激励を行ってくれました。重要な任務を受ける際、ムジン様は必ず皆の顔を見に来てくれます」


ミアは一度だけレノに目配せを行い、どうやらその時に今回の調査の際の「任務」を請け負ったらしく、すぐに話を戻す。


「あの時のムジン様はいつもの側近ではなく、見知らぬ黒いフードを被った人物を連れて訪れました。あくまでも私の直感ですが……只者ではありません」
「その人物が今回の件と関わりがあると?」
「分かりません。ですが、ムジン様とは80年以上の付き合いですが、あの日に限っていつもとは違う側近だった事が気になります」
「はちじゅっ……」
「……お婆ちゃんだった」
「し、失礼な‼森人族は貴方達とは寿命が違うんです‼」
「まあまあ……それにしても魔術師か」


コトミの発言に憤るミアを宥めながら、レノは考え込む。ミアの話が事実だとしたらその魔術師も怪しいが、今現在の情報だけでは推測に過ぎない。単純にその日だけ別の護衛を付けていただけかもしれない。だが、フードで全身を覆い隠すなど怪しすぎるが。


「どちらにしろ、帰還しようにも飛行船がこの状態では難しいですね……修理にどれくらいかかりますか?」
「僕の見立てでは一週間かな……」
「それじゃあ、間に合わない‼」


森人族の守護戦士ガードナーが王国に辿り着くのは五日後であり、しかも時間帯から考えても既に半日近くは経過している。残り四日と半日以内に王国に戻らないといけないにも関わらず、肝心の飛行船がこれでは戻る手段が無い。


「ここから獣人族の王都までどれくらいかかる?」
「そうですね~私達なら3日か4日ぐらいですけど、他の方々だと一週間ですかね~」
「くっ……‼」


この大迷宮から獣人族の領土までには距離があり、更に言えば飛行船ではなく地上を移動する分、途中で山岳地帯なども通過せねばならず、時間が掛かり過ぎる。


「一体どうすれば……‼」
「あの~……ちょっといい?」



全員が暗い顔を浮かべる中、レノが恐る恐る挙手を行い、その手には十字架鍵が握りしめられ、



「俺ならすぐに聖導教会の方に戻れること、言ってなかったっけ?」
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