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冒険者編

閑話 〈ガイア〉

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――ルノ一行が異形の土竜を倒してから数日後、帝国領地内に存在する廃村に「ガイア」が訪れていた。王国との会談の際に白原に向かっていた移動部隊を襲撃した蜥蜴人間であり、彼はルノに敗れて地中深くに沈められた(比喩ではなく、本当に埋まった)。普通の人間ならば圧死は間違いなかったが、彼の血を吸い上げた事で力を高め、更に偶然にもリディアが従えていたオオツチトカゲ達が築き上げた地下道に落ちた事で一命は取り留めた。

脱出するのに多少の時間は掛かったが、数日も費やして地中を掘り進み、地上に出現する事に成功したが、既に移送部隊は階段の場に訪れており、王国との取引を済ませていた。結局、ガイアはリディアの救出を断念し、任務失敗の報告を自分をこの姿に変化させた人物に行う。


「くそっ……人間如きがっ!!」


ガイアは悪態を吐きながら廃村の家の中でオークの肉を噛り付き、この場所に訪れる途中で捕まえた個体を持ち帰り、生のまま捕食していた。現在の彼には髑髏の水晶を繋ぎ合わせた首輪が取り付けられており、この首輪のせいで彼は現在の「姿」に追い込まれていた。


「ぐううっ!!ちっ、駄目かっ……」


力尽くで首輪を引きはがそうとするが固定されたかの様に首輪はガイアの首元に括りつけられており、彼の力でも解く事が出来ない。この首輪はリディアを救わなかった事、おめおめと負けて帰ってきた罰として取り付けられ弾道具であり、デキン大臣が装備していた髑髏のペンダントの首輪版とも言える。

この首輪には「人化」の能力が付与されており、装備した魔物は強制的に人間の姿に変化させられてしまう。しかし、デキンの場合は完全な人間に変身していたのに対し、ガイアの場合は半人半魔の姿に陥るだけで済んでいる。人化を永続的に発動させている分、効果の方も落ちている。加えて言えばデキンは髑髏の入っていた薬を飲む事で人間に化けていたが、ガイアの場合は装備するだけで現在の姿に強制的に変化している。


「あの女め、必ず殺してやる。だが、その前に……!!」


ガイアの目的は自分をこのような惨めな存在に追い込んだ「魔王軍」の幹部である「死霊使い」の女性と、自分を地中に送り込んだルノの復讐のため、帝国領地に留まっていた。現在の彼は魔王軍の配下として強制的に従わされているが、その内心は魔王軍を憎んでおり、同時に自分を敗北に追い込んだルノも恨んでいた。


「必ず俺の手で……!!」
「貴方、さっきからそればかっりね……折角人間になれたんだから楽しめばいいじゃないの?」
「ぬうっ!?」


独り言を呟いていたガイアの耳に女性の声が耳に入り、ガイアは振り返るがそこには壁が広がっているだけで何も存在しない。周囲を見渡しても気配は感じられるが姿は見えず、動揺しながらもガイアは牙を剥き出しにして怒鳴りつける。


「何者だ!!何処に隠れている!?」
「それが上司に対する態度?随分と躾がなってないわね」
「何だと!?」


室内に再び女性の声が響くが姿は見えず、ガイアは周囲に注意深く視線を向けるが、暗殺者のスキルで姿を隠している様子もない。そのため、ガイアは嗅覚で周囲に感じる臭いを嗅ぎ分け、自分とオーク以外の臭いを窓の外から感じとり、即座に窓から飛び出す。


「外かっ!!」
「何処を探しているのかしら?」
「何っ……!?」


しかし、予想に反して建物の外にも人の姿は見えず、鼻を嗅ぎ分けても先程感じたはずの臭いが感じ取れない事に気付く。仮に転移魔法の類で姿を消したとしても残り香さえ感じず、ガイアは珍しく動揺したように忙しなく首を振る。


「何故、姿が見えん……!?」
「ここよお馬鹿さん」
「ぐおっ!?」


女性の声がガイアの耳に届いた瞬間、背後から衝撃を受けてガイアは前のめりに倒れこむ。それほど強い衝撃ではなかったが、背後から攻撃を受けた事にガイアは戸惑い、攻撃の気配を全く感じなかった事に混乱する。だが、直後に不意打ちを受けた事を自覚すると頭に血が上り、起き上がると同時に両腕を振り翳す。


「ガアアッ!!」
「何をしているのかしら?」
「ウガァッ!?」


だが、攻撃を仕掛けたガイアの両腕は空振りし、逆に勢い余って地面に転がり込んでしまう。その光景を面白がるような女性の笑い声がガイアの耳に届くが、どういう事なのか姿も気配も臭いさえも全く感じられない。


「何故だ……何処に隠れている!?」
「探しても無駄よ。貴方には私を見る事は出来ないわ。確認出来ないと言った方が正しいかしら?」
「何だと……また奇怪な道具を使ったのか!!」


ガイアは自分の首に取り付けられた首輪に触れ、話しかけている女性も特殊な魔道具を装備しているのかと考えたが、それを否定するようにガイアの頭上から強烈な衝撃が叩きつけられた。


「ぐおおっ!?」
「失礼な蜥蜴ね……新しい任務をあの方から伝えるように言われただけよ。あの子供の始末は私が引き受けるわ」
「な、何だと……ぐうっ……!?」
「役立たずはもう要らないの……消えなさい」
「うおおおおっ!?」


女性の言葉がガイアの耳に届いた直後、彼の身体が浮き上がり、はるか上空まで吹き飛ばされた――
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