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エルフ王国 決戦編

ガルル王子の行方

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「ルノ殿は今回の何の用事でここに訪れたのですか?様子を見る限り、この男を捕まえようとしていたように見えますが……」
「あ、そうだった。ガウ王子の手紙を預かってるんです。どうぞこちらを日の国の御殿様に渡してくれませんか?」
「ガウ王子……獣人国の第二王子からの手紙?」
「はい。実は獣人国では――」


ルノはこの時のためにガウから書状を受け取っていた事を思い出し、タダカツに渡す。書状の内容は既に獣人国の領地はガオンとコネコの二人の将軍を仕えさせたガウが奪還した事、今回の出兵がガルル王子(正確にはガルファン)の独断行為である事、獣人国は日の国で争うつもりはない事が記されていた。

此度の出兵が獣人国の本意ではない事を伝えるのと同時に魔王軍という存在の仕業が動き出している事もルノ達は説明すると、タダカツは難しい表情を浮かべながらも書状を受け取る。


「ふむ、御二人の話は理解した。この手紙は確かに我が主君にお渡ししよう。だが、最終的な判断は主君が決める……場合によっては獣人国に多額の賠償金を要求する事になるがよろしいか?」
「別にいいんじゃないの?基を正せばあの馬鹿王子ともう一人の王子の喧嘩のせいでこんな事になったんでしょ?そもそも私達は部外者なんだからどうでもいわよ」
「う~ん……色々と関わっているから部外者と言い切れるのかな?」
「あいわかった。この書状は必ず主君に届けよう。それで、御二人はこれからどうするつもりか?」


タダカツの言葉にルノとリディアは顔を見合わせ、ガルファンを捕まえた時点で獣人国への義理は通した。ならば本来の予定通りに帝国へ引き返すべきかと考えたが、ルノは有る事を思い出した。


「あ、そういえば王子は見かけてませんけど……もう既に捕まえたんですか?」
「王子?ああ、ガルル王子の事ですか?それならば日影の部隊が誘拐に向かったはずだが……」
「お~い!!そこにいるのはもしかしてルノの旦那かい!?」


会話の最中に3人の元に人間が入れる程の大きな布袋を抱えた黒装束の老婆が現れ、それを見たルノは日影の副頭領であるハットリである事に気付く。


「サルトビさん!!お久しぶりです!!」
「いや、違うけど……あたしの名前はハットリだよ!!というか、上の文章でハットリだと気づいたとかいてあるじゃないかい!?」
「何の話よ?」


素で名前を間違えたルノにハットリが突っ込むが、彼女は布袋を地面に下ろしてタダカツに頷くと、中身を晒す。


「おっと、話は後だよ。その前に将軍に任務の報告をしないといけないからね」
「という事は……成功したのか?」
「ええ、ご希望通りにガルル王子を拘束してきましたよ」
「んん~!?」


袋を開くと中に猿轡を噛んで全身を縛り付けられたガルルが現れ、それを見たタダカツは感心した声を上げ、ルノとリディアは袋からガルルが現れた事に驚く。


「おお、まさか本当に成功させるとは……流石だな」
「そいつはどうも、だけどこっちも苦労させられましたよ。この馬鹿王子、途中でしょんべんを漏らしたせいで袋が汚れちまった」
「ふぐぐっ!?」


そんな事はしていないとばかりにガルルは首を振るが、残念ながら袋に黄色いしみが出来ている事で誤魔化しきれず、全員が少し距離を取る。その一方でガルルはルノとリディアが存在する事に気付き、恐怖の表情を浮かべて袋から抜け出そうとする。


「んぐっ!?ふうっ、んん~!!」
「おい、暴れるんじゃないよ!!たく、仕方ない……当身!!」
「ふぐぅっ!?」


逃げ出そうとしたガルル王子の腹部にハットリは強烈な打撃を与えると、そのまま気絶したのかガルルは地面に倒れ込む。それを確認したタダカツはため息を吐き出し、ほんの短い間とはいえ一国の王の座に近付いた男の情けない姿に嘆く。


「……これが本当にガルル王子なのか?噂で聞くよりも酷い男に見えるが……」
「間違いないわよ。こいつが馬鹿王子よ、私達も顔を見ているから見間違えるはずがないわ」
「でも、前に会った時より随分と痩せ細っているような……何でだろう?」
「当り前でしょうがっ」


ルノは自分のせいでガルルが精神的に追いつかれて痩せた事に気付かず、リディアが呆れた表情を浮かべるがこれでガルルとガルファンの捕縛に成功した。後は気になる事があるとすれば獣人国の大将軍のウォンの事だが、ガオンやコネコが警戒していた割には二人の傍にウォンの姿ない事にルノ達は疑問を抱く。

ここまでの道中で二人はウォンらしき人物の姿を見ておらず、そもそも今回の獣人国の行動自体が理に適っていない。もしも優れた将軍ならば国の内乱が収まらない間に他国に攻め込むなどという無謀な真似をするはずがなく、この場にウォンが存在しないのかを地中に埋まったガルファンに尋ねた。


「すいません、ウォン大将軍は何処にいるんですか?」
「ひいっ!?た、助けてくれ!!」
「話を聞いてるだけでしょうが!!質問に答えればなにもしないわよ!!」


唐突にルノに話しかけられたガルファンは悲鳴をあげ、それを見たリディアが呆れながらガルファンに怒鳴りつける。
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