最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ

文字の大きさ
50 / 207
スラム編

最後の賭け

「あいつは……まだ見失ってるのか」
『何処~?』


レナは足首の負傷を付与魔法で治療を施し、壊れた窓から外の様子を覗き込み、カトレアが瞼を擦りながら屋根の上を歩いている姿を確認する。意外と先ほどの目晦ましの効果が続いており、今の内ならば逃げる事も出来るかも知れないが、ここで退いてもカトレアは嗅覚を頼りにレナを追跡するだろう。

彼が所持している鞄の中には吸魔石と回復薬の類しか存在せず、攻撃手段に利用できるのは各属性の魔力を封じた吸魔石程度であり、ヴァンパイア戦の時の様に魔石を暴発させる方法で倒せる保証はない。それでも戦わなければ彼が生き残る保証はなく、対抗する手段を必死に考える。時間に余裕はないが、それでも考えて行動しなければ生き残れない。


「……これしかない」


レナは自分の覚えたスキルを全て確認し、利用できるスキルを全て使用してカトレアに攻撃を仕掛ける事を決めた。もしも彼の考えた方法が通じなければレナに勝ち目はなく、最後の賭けに挑む覚悟を決める。右拳の白銀拳と肉体に聖属性の付与魔法を発動させ、レナは左手に闇属性の魔力を封じ込めた吸魔石を握りしめる。体力的にも肉体的にも次の攻撃が最後になるのは確実であり、窓から飛び出そうとした瞬間、屋根の上を移動していたカトレアの姿が消えている事に気付く。


「見つけたぁっ」
「……くそっ」


彼女は既にレナの隠れている建物の前に移動しており、蝙蝠の翼を羽ばたかせて壊れた窓から覗き込む。覚悟を決めたとはいえ、まさかこれほど早く相手に見つかるとは予想外であり、レナの足が緊張で震える。それでも状況的に考えれば絶好の機会であり、レナは敢えて後方に下がる。


「お邪魔しま~す」
「いらっしゃい……お帰りはこちらです」
「え~」


カトレアは余裕なのか警戒した様子もなく窓から入り込み、右腕を構えると爪先が刃物のように鋭利に研ぎ澄まされ、マニキュアのような赤色の爪を見せつける。すぐにレナは彼女の爪に付着しているのはマニキュアではなく、人間の血液だと気付いた。


血の鉤爪ブラッディネイル……痛みなく殺してあげるね」
「……本当に痛くしないでね」
「あはは~君、本当に面白いね~」


先ほどまでの笑顔を保ち続けていたカトレアの顔に変化が生じ、彼女は無表情にレナを見つめる。雰囲気が明らかに先ほどと変わり、カトレアが本気で自分を殺す気になった事に気付きながらもレナは怯えない。次の彼女の行動によって運命が決まり、彼は吸魔石を構える。


「魔石……?まあ、別にいいや」
「…………」


レナが魔石を握りしめている事に気付いたカトレアが眉を顰めるが、すぐに気にした風もなく自分の爪を舐めとり、室内に緊張感が漂う中、レナは右腕を構えて戦技を発動する準備を行う。



「――行くよ」



遂にカトレアは動き出し、その速度はレナが遭遇した敵の中でも恐らくは最高速度であり、普通ならば幾ら聖属性の付与魔法で身体能力を強化させていようとレベルが20にも満たない現在のレナのステータスでは反応できない速度で襲い掛かる。




――だが、レナの視界には彼女の動作が徐々に「遅行化スローモーション」し、ヴァンパイアとの戦闘のようにカトレアの動作が完全に捉えられる。この能力の正体が彼の異能の「思考加速」である事は本人も薄々気付いており、この能力は危機的状況に最も発動しやすい能力であり、接近してくるカトレアの動作を見極める。




彼の思考加速の能力は肉体面にはまでは影響は及ばず、幾ら相手の動向が遅行化したとしても、逆に言えば自分自身の肉体も遅行化している状態なのだ。それでもレナは左手を前に突き出し、握りしめている闇属性の吸魔石を構え、カトレアの爪の先端が吸魔石を衝突させる事は出来た。

次の瞬間、吸魔石に込められていた闇属性の魔力が放出され、黒煙が室内を覆いこむ。その光景にカトレアは目を見開き、一方でレナは「暗視」のスキルで黒煙に覆われた室内でも正確にカトレアの位置を把握し、右拳を振り被る。


「はぁあああっ!!」
「っ!!」


黒煙の中でレナは敢えて声を上げて右拳を振り被り、カトレアは笑みを浮かべて右腕を構え、声がした方向に爪を振り抜く。だが、その行動もレナは予測済みであり、予想通りに視界が塞がれたところでカトレアは止まらない。それでも攻撃を誘う為に声を上げたのはもう一度先ほどの感覚を呼び覚ます事が狙いであり、彼女の動作が遅行化する。


「ばぁいばぁ……!!」


黒煙の中でカトレアは勝利を確信したように口を開くが、レナは迫りくる彼女の右腕に対して戦技の「回避」を発動させ、更に同時に「反撃」を発動する。カトレアの爪を回避するのと同時に右腕の白銀拳を振り翳し、姿が完全に見えない以上は暗殺者の「不意打ち」のスキルも発動し、更に戦技の「弾撃」を叩き込む。


「らあぁああああああっ……!!」
「っ……!?」


複数のスキルを思考加速の能力が落ちる前に発動させ、全身の筋肉を使用して白銀拳を振り抜く。聖属性の付与魔法で身体能力を限界まで上昇させ、更に白銀拳の腕鉄甲にも聖属性を付与させた状態で打ち込む。それは最早「打つ」ではなく「撃つ」であり、拳銃の弾丸のように捻り込みながら金属の拳がカトレアの腹部に叩き込まれ、そのまま破壊された窓に彼女の身体が吹き飛んだ。
感想 263

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位 転生者のブルーノは絶大な力を持っていたが、その力を隠してダンジョンの荷役として暮らしていた。だが、教会の力で勇者を騙る卑怯下劣な連中に、レットドラゴンから逃げるための生贄として、ボス部屋に放置された。腐敗した教会と冒険者ギルドが結託て偽の勇者パーティーを作り、ぼろ儲けしているのだ。ブルーノは誰が何をしていても気にしないし、自分で狩った美味しいドラゴンを食べて暮らせればよかったのだが、殺されたブルーノの為に教会や冒険者ギルドのマスターを敵対した受付嬢が殺されるのを見過ごせなくて・・・・・・

出戻り勇者は自重しない ~異世界に行ったら帰って来てからが本番だよね~

TB
ファンタジー
中2の夏休み、異世界召喚に巻き込まれた俺は14年の歳月を費やして魔王を倒した。討伐報酬で元の世界に戻った俺は、異世界召喚をされた瞬間に戻れた。28歳の意識と異世界能力で、失われた青春を取り戻すぜ! 東京五輪応援します! 色々な国やスポーツ、競技会など登場しますが、どんなに似てる感じがしても、あくまでも架空の設定でご都合主義の塊です!だってファンタジーですから!!

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

【完】転職ばかりしていたらパーティーを追放された私〜実は88種の職業の全スキル極めて勇者以上にチートな存在になっていたけど、もうどうでもいい

冬月光輝
ファンタジー
【勇者】のパーティーの一員であったルシアは職業を極めては転職を繰り返していたが、ある日、勇者から追放(クビ)を宣告される。 何もかもに疲れたルシアは適当に隠居先でも見つけようと旅に出たが、【天界】から追放された元(もと)【守護天使】の【堕天使】ラミアを【悪魔】の手から救ったことで新たな物語が始まる。 「わたくし達、追放仲間ですね」、「一生お慕いします」とラミアからの熱烈なアプローチに折れて仕方なくルシアは共に旅をすることにした。 その後、隣国の王女エリスに力を認められ、仕えるようになり、2人は数奇な運命に巻き込まれることに……。 追放コンビは不運な運命を逆転できるのか? (完結記念に澄石アラン様からラミアのイラストを頂きましたので、表紙に使用させてもらいました)