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王都編

第19話 魔法の実験

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――食事を終えた後にマオは宿屋の裏庭に移動し、事前に用意した的を庭に生えている樹に吊るす。ちなみに的に利用するのは宿屋の風呂場で使われていた桶であり、女主人《バルル》に頼んで古くて痛んだ桶を貰い受けた。


「これでよし、後は上手く当てられるかどうかだな……」


桶にロープを繋げて上手い具合に樹の枝の部分に吊るすと、ランタンを地面に置いて下から的を照らす。これならば夜でも的を見る事はできるため、まずは離れた場所からマオは小杖を構えた。


(さっきよりも遠いけど……当てられるかな)


部屋の中よりも裏庭の方が広いため、標的に定めた的にマオは小杖を構えた。ランタンに照らされた的の中心部に目掛けてマオは狙いを定め、魔法を発動させる。


「アイス」


時間帯は夜であるため、あまり大きな声を上げると他の客や従業員に迷惑をかけるかもしれない。そう思ったマオは小声で呪文を唱えると小杖から青色の光が灯る。

小声でも呪文を唱えれば発動する事も判明し、小杖の先端部から出現した氷の欠片は真っ直ぐに樹に吊るした的の中心部に目掛けて突っ込む。桶に突っ込んだ氷の欠片は砕け散り、ロープに吊るされた桶は大きく揺れた。


(よし、この距離からでも当てられる……相手が動いていなければこの距離なら外さないか)


氷の欠片は狙った通りに当たった事にマオは喜び掛けるが、気を引き締め直して練習を続ける。この程度で喜んでいる暇はなく、今度は的と自分の間に障害物を設置する。


「こんな感じかな……」


裏庭には様々な小道具が置かれており、今回利用するのは選択に利用する物干し竿と毛布だった。物干し竿に毛布を掛けてマオは的と自分の間に置き、的が見えない状態で的に魔法を当てる練習を行う。


(今までは魔法は真っ直ぐにしか飛ばなかった。この位置から撃ったとしても毛布が邪魔で的には当たらないけど……)


毛布に視界を阻まれた状態でマオは精神を集中し、毛布の向こう側に確かに存在するはずの的を意識して小杖を構える。今までは氷の破片を直線状に飛ばして攻撃する事しかできなかったが、今度は途中で軌道を変化させられないのかを試す。

これまでので氷の欠片はマオの意思に反応して操作する事は判明している。そこでマオは今回は氷の欠片の軌道を変えられないのかを試す事にした。


(これが成功すれば色々と使い道がありそうだけど……上手くいくかな?いや、信じるしかない!!)


マオは必ず氷の欠片が軌道を途中で変更すると信じ、毛布で見えないが的の位置は把握している。彼は小杖を握りしめて先ほどよりも気合を込めて魔法を放つ。


「アイス!!」


小杖から再び青色の光が灯り、氷の欠片が射出された。普通ならば物干し竿にかけた毛布に的中するはずだが、氷の欠片は途中で弧を描くように軌道を変更させ、毛布を飛び越えて樹に吊るしていたロープを切り裂く。


「まっ……曲がった?」


狙いから随分と離れてしまったが、氷の欠片の軌道を途中で曲げる事に成功したマオは呆然とする。彼は慌てて毛布の向こう側に移動を行うと、そこにはロープが切れた状態の桶が地面に転がっていた。

マオはロープではなく桶その物を狙って撃ったのだが、結果から言えば狙いは多少はずれたが軌道を曲げる事には成功した。その後もマオは練習を行い、毛布を飛び越えて氷の欠片が樹に吊るした的に当てられるようになるまで魔法を繰り返す。


「はあっ、はあっ……よし、大分狙い通りに当てれるようになったぞ」


10回ほど練習を行うとマオは毛布越しでも的に適確に当てられるようになった。これで射線上に障害物があったとしても標的の位置を事前に把握していれば当てられる自信はできた。


「ふうっ、流石に疲れてきたな……でも、気絶するほどじゃないかな」


昨夜は初めて魔法を使った時は意識を失ってしまったが、今日だけで15回近くの魔法を使ったが、まだ余裕はあった。リオンによるとマオは普通の人間よりも魔力量が少ないらしいが、彼が生み出す魔法は「氷の欠片」であり、普通の氷の塊よりも小さいので魔力消費量が少ないのかもしれない。


「……アイス」


今日の実験を切り上げる前にマオは最後に魔法を発動させ、杖の先端に氷の欠片を留める。そしてゆっくりと杖を振り下ろすと、氷の欠片は彼の元をと離れていく。

実験を繰り返していく事に判明したが、氷の欠片はマオの意思に反応して速度を自由に変化する事ができる。マオがゆっくりと進むように念じればその通りに進み、逆に早く動くように念じると欠片も早く移動する。但し、遅くするのも早くするのも限界があるらしく、無制限に早くなるというわけではない。


「今日はこれぐらいかな……明日は魔法学園に言って入学手続きをしないと」


リオンが宿屋に支払った代金は3日分であるため、宿代が尽きる前にマオは魔法学園に入学して寮に入らなければならない。しかし、マオは魔法学園に入学する前に自分の魔法のを持ちたいと思った。

魔法学園に入学すれば否応でもマオは他の魔術師の素質を持つ生徒と競う事になる。そして魔力量が少ない彼は魔術師として大成する可能性は一番低い。しかし、それでもマオは両親のため、そして自分自身のために諦めるわけにはいかなかった。


(魔力量が少なくても……絶対に魔術師になってやる!!)


自分が唯一に扱える「アイス」の魔法を極め、必ずやマオは魔法学園に入学する事を改めて心の中で誓う――
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