上 下
102 / 261
魔法学園編

第100話 僕は諦めない

しおりを挟む
「ちっ、逃がすか!!」
「くっ!?」


マオは無事に地上に着地する事に成功したが、その後に続いてすぐにガイルも地上へ降り立つ。人間ならば落ちれば大怪我をするような高度でも獣人族のガイルは何事もなく着地し、再びマオを追い詰める。

運が悪い事にマオが降り立った場所は裏路地でしかも行き止まりだった。今度こそ逃げ場を失ったマオは建物の壁に背中を預け、震える腕で小杖を構える。それを見たガイルは鉤爪を構えて獰猛な笑みを浮かべた。


「さあ、ここまでだ!!安心しろ、殺しはしない……但し、一生奴隷として暮らしてもらうがなっ!!」
「くぅっ!?」


ガイルが駆け出した瞬間、マオは咄嗟に自分が空中から落下する際に作り出した氷塊を思い出す。二つの氷塊を一つに合体させた事で通常よりも倍の大きさを誇る氷塊をガイルに放つと、ガイルはそれを見て煩わしそうに鉤爪を振り抜く。


「邪魔だ!!」
「うわっ!?」


鉤爪が氷塊に触れた途端にに分かれてしまい、そのまま左右に弾かれてしまう。それを見たマオはある事に気付き、ガイルを倒せるかもしれない方法を思いついた。


(この方法なら……でも、時間がない!!やれるか!?)


マオは二つの小杖に視線を向け、やるしかないと判断して片方の小杖をガイルに向け、もう片方の小杖を天に向ける。その行為にガイルはマオがまた何かを仕出かそうとしている事に気付き、彼は慌てて止めようとした。


「このっ……いい加減に悪あがきは諦めろ!!」
「嫌だ!!」


悪あがきだろうと何だろうとマオはガイルを倒すためならば手段は問わず、彼は右腕の小杖で氷弾を発射させてガイルに放ち、その一方で左手の小杖から氷塊を作り出す。

氷弾を発射させた所で獣人族のガイルには通じない事は分かっているが、それでも時間を稼ぐ程度の事はできた。右手の小杖で氷弾を連射してガイルが接近するのを防ぎ、もう片方の左手の小杖で次々と新しい氷塊を作り出す。


(意識を集中しろ、残りの魔力なんて考えるな……これしか方法はないんだ!!)


追い詰められながらもマオは決して諦めず、絶望に屈したりはしない。これまでに何度も窮地を生き延びる事ができたのはマオは自分の魔法の力のお陰だと知っており、今回も魔法の力を信じて最後まで諦めずに行動する。


「うおおおおおっ!!」
「くそがっ!!こんなちゃちな魔法でこの俺を……!?」


氷弾を全て弾きながらマオに接近していたガイルだったが、この時に彼の視界に思いもよらぬ光景が映し出される。何時の間にかマオの頭上には7個の氷塊が作り出され、それが互いに重なり合っていく。

複数の氷の塊が合体する事で徐々に大きさが増していき、最終的には人間一人を押し潰せる程の大きさの氷塊と化す。それを見たガイルは足を止めて後退り、嫌な予感を浮かべる。


「な、何だぁっ!?」
「はあっ、はあっ……質と量」


バルルから言われた言葉を思い出し、彼女はマオに「質と量」のどちらかを選択して魔法を磨くように忠告した。しかし、マオは片方を選ばず、両方を選択した結果、通常の何倍もの大きさの氷塊を作り出す事ができるようになった。


「喰らえぇえええっ!!」
「くっ……こんな物っ!!」


上空に出来上がった巨大な氷塊をマオはガイルに向けて放つと、逃げ場が少ない路地裏では避ける事はできず、それでもガイルは諦めずに鉤爪を振りかざす。

彼の「雷爪」は相手を感電させるだけではなく、威力の方も岩石を破壊するほどの力があった。牛型の獣人族であるガイルは腕力が優れており、彼がその気になれば岩石をも持ち上げる事ができる。


(ガキが!!こんな物で俺を止められると思ってるのか!!)


マオの作り出す氷塊は既にガイルは破壊できる事は知っており、岩石ほどの大きさになろうと彼の自慢の怪力ならば破壊できる自信はあった。ガイルはマオの攻撃を正面から破壊する事で彼に今まで一番の絶望を味わわせようとした。


「馬鹿がっ!!」


全力の力を込めて右腕に装着した鉤爪を振り払い、ガイルは正面から岩石ほどの大きさの氷塊を切りつける。その結果、氷塊は砕けて複数の氷の塊が周囲に散らばる。それを確認したガイルは勝利を確信した。




――しかし、すぐに彼は勘違いをしていた事を思い知らされる。ガイルが破壊した思った氷塊は彼の周囲を取り囲んだ状態で停止し、動く様子を見せない。違和感を抱いたガイルはマオに視線を向けると、そこには小杖を構えた彼が立ち尽くしていた。




自分の身に何が起きたのかガイルは理解するのにそれほど時間は掛からず、彼は背筋が凍り付く。先ほどの鉤爪の一撃で破壊されたと思われた氷塊だったが、現実は彼が破壊した事で氷塊が砕けたのではなく、攻撃を当てた瞬間にマオは氷塊を「分離」させて複数の氷塊でガイルを取り囲んだに過ぎない。

先ほどマオは二つの氷塊を組み合わせて攻撃を行った時、ガイルの鉤爪を受けた氷塊は二つに割れてしまった。しかし、現実はガイルが真っ二つに割ったわけではなく、そもそも鉤爪の刃の性質上、物体をに切り裂く事などできない。

つまり、マオの放った氷塊が二つに切れて別れた様に見えたのはガイルの攻撃の衝撃で合体していた氷塊が再び離れただけに過ぎず、彼の攻撃で破壊されたわけではない。それを見抜いたマオは複数の氷塊を作り出し、それを利用してガイルに攻撃すると見せかけて敢えて分離させて彼を取り囲む。


「……もう、終わりだ」
「ふ、ふざけるな!!こんな物で俺が……この俺がぁっ!!」
「遅いっ!!」


完全に氷塊に取り囲まれたガイルは慌てて逃げ出そうとしたが、それを逃すはずもなくマオは氷塊を同時に操作してガイルに放つ。一つや二つならばともかく、しかも周囲を取り囲まれた状態で多方向から同時に攻撃されてはガイルも反応できず、次々と氷塊が彼の身体に衝突した。


「ぐはぁああああっ!?」
「はあっ、はあっ……これで、終わり!!」
「うぐぅっ!?」


身体中に氷塊が衝突した事でガイルは悲鳴を上げ、更に彼が倒れ込んだ所にマオは最初に吹き飛ばされた二つの氷塊を引き寄せ、彼の頭に叩き込む。ガイルは白目を剥いて身体を痙攣させ、完全に気絶した事を確認するとマオは尻餅を着く。


「か、勝った……!!」


声を絞り出してマオは自分が勝利した事を実感すると、嬉しさのあまりに握り拳を作ってしまう。だが、何時までも喜んでいる場合ではなく、先ほどガイルの攻撃で感電したミイナを救うために慌てて彼は起き上がった――
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

進芸の巨人は逆境に勝ちます!

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:170pt お気に入り:1

桜天女

恋愛 / 完結 24h.ポイント:773pt お気に入り:1

EDGE LIFE

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:1,065pt お気に入り:20

真面目だと思っていた幼馴染は変態かもしれない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:373

幼馴染は私を囲いたい!

恋愛 / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:1,417

転移先は薬師が少ない世界でした

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,959pt お気に入り:23,097

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:42pt お気に入り:2,947

処理中です...