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冒険者の試験
第15話 三つの戦闘法
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――冒険者養成学園にてレノは収納魔法を研究し、彼は三つの戦闘法を編み出す。一つ目は異空間に取り込んだ物体を高速射出させる「黒射」二つ目は敵の攻撃を黒渦で跳ね返す「反射」そして最後に黒渦その物を相手にぶつけて拡散させて煙幕のように視界を封じる「黒旋」の三つだった。
三年の間にレノは三つの戦闘法を磨き、接近戦において一番役立つのは「反射」だった。収納魔法の練習を行う際、レノは魔力が増えると物体を弾き飛ばす力も自然と強くなっていく事に気が付く。
魔法の練習を毎日欠かさず練習してきたお陰でレノの魔力量は三年前とは比べ物にならず、今の彼は何十トンの物体も異空間に吸収する事ができる。そして反射の力も格段に強くなっており、ゴブリン程度の相手ならば十分に通じた。
「はあっ!!」
「ギィアッ!?」
「ギャウッ!?」
「ギギィッ!?」
掌底を繰り出す際にレノは一瞬だけ黒渦を生み出し、触れた相手を吹き飛ばす。その光景は傍から見た人間には彼がまるで拳法の達人のように思える。
「す、すげぇっ!!あいつあんなに強いのか!?」
「そういえばさっきもオークを殴り飛ばしてたな……」
「ただの魔術師じゃなかったのか!?」
「く、くそっ……こっちだって負けてられるか!!」
ゴブリンを次々と吹き飛ばすレノを見て他の生徒は驚愕する中、ダンは対抗心を抱いて無我夢中にゴブリンに切りかかる。やがて自分達が不利な状況に陥ったと判断したゴブリン達は逃走を開始する。
「ギィイイッ!?」
「ギギィッ!?」
「ギィアッ!?」
悲鳴をあげながらゴブリン達は一目散に逃げ出し、それを見た生徒達は驚く。ダンは逃げているくゴブリン達の姿を見て追いかけようとした。
「追うぞ!!全員ぶっ殺してやる!!」
「止めろ!!深追いするな!!」
「うるさい!!怖いならお前は下がってろ!!」
ゴブリンを追いかけようとしたダンをレノが呼び止めるが、彼はそれを無視して駆け出す。だが、他の生徒は彼の後に付いて行かず、誰も追いかけて来ない事に疑問を抱いたダンは振り返って怒鳴りつける。
「なにやってんだ!?早く来いよ!!」
「ダン……あいつの言う通りだ。別に追いかける必要なんてないだろ」
「そうそう、追っ払ったんだから十分だろ」
「だいたいなんでお前が指示してんだよ」
「お、お前等!?」
ダンの提案を他の生徒は受け入れず、彼等はレノの元へ赴く。自分ではなく、レノの元へ向かった他の生徒を見て彼は衝撃を受けた。
レノ以外の生徒はダンと同じく第二学園の生徒であり、普段から行動を共にする仲間だった。ダンを含めてこの場に集まった生徒は第二学園の生徒の中では素行が悪い者ばかりであり、実力はあるのだが性格に問題があって教師でも手を焼く人間ばかりである。しかし、これまでの行動でダン以外の生徒はレノに礼を告げた。
「あ、ありがとな。さっきは助けてくれ……」
「お前、本当に凄いよ。マジで魔術師なのか?」
「荷物持ちなんて言って悪かったな」
「え、いや……別に」
「お、おい!!何を話してるんだ!!そいつは第一学園の生徒なんだぞ!?」
「もうそういうの辞めようぜ。こいつのお陰で助かったんだぞ?」
ダンを除いた生徒達はレノに感謝すると、まさか彼等からお礼を言われると思わなかったレノは呆気に取られた。それを見たダンは信じられない表情を浮かべるが、すぐに怒りの表情へ変えた。
「お前等恥ずかしくないのか!!そんな第一学園の生徒に媚びやがって……」
「てめえの方が恥ずかしいと思わないのかよ!!一番助けられているのはお前だろうが!!」
「そうだそうだ!!オークに襲われた時に助けたのはこいつなんだぞ!!」
「ちゃんと礼ぐらい言えよ!!」
「う、うるさい!!そいつの力なんて借りなくてもなんとかできた!!」
「できるわけねえだろ!!助けてもらってなかったらお前は今頃死んでたんだぞ!!」
「……もういいよ」
仲間と言い争いを始めたダンを見てレノはため息を吐き出し、彼に対して色々と思う所はあったがレノはダンの元に赴く。近付いてくる彼を見てダンは慌てて剣を構えた。
「な、何だ!?やる気か!!」
「その怪我は痛くないのか?」
「怪我?何を言って……うっ!?」
レノに指摘されてダンは最初にゴブリンに投石を仕掛けられたとき、自分の足が負傷している事を思い出す。戦闘中は夢中で気づかなかったが、自分が怪我をしている事を自覚した途端に痛みがぶり返す。
痛そうに足の怪我を抑えるダンを見てレノはため息を吐き出し、収納魔法を発動させて異空間から傷薬と包帯を取り出す。出発前に怪我を治療する道具は一通り揃えており、彼はダンの元に訪れて怪我の治療を行う。
「ほら、足を見せろ」
「や、止めろ!!お前の手なんか……」
「うるさい!!そんな足で王都まで帰れると思ってるのか!?冒険者になりたいなら我慢しろ!!」
「うっ……」
「ダン、意地を張るなよ」
「治してもらえよ」
他の仲間もダンを説得して怪我の治療を行って貰い、慣れた手つきでレノは治療を行う。彼は普段からよく怪我をして医師のイーシャンの世話になり、面倒くさがりなイーシャンは自分の仕事の負担を減らすためにレノに自分で怪我を治す方法を色々と教えてくれた。そのお陰で簡単な怪我の治療ならばレノもできる。
怪我をした箇所を消毒して傷薬を塗った後に包帯を巻く。それだけでダンは足の痛みがなくなり、普通に動ける程に回復した。レノが所有する薬はイーシャンから分けてもらった特別な薬なので効果は高い。
「痛みが引いた……」
「これでよし、もう歩けるよ」
「……ちっ」
「おい、ダン!!直して貰ったのになんだその態度は!?」
治療を終えるとダンは不機嫌そうに立ち上がり、黙って背中を向けて歩き出そうとする。そんな彼の態度に流石に他の者も黙っていなかったが、ダンは振り返らずにレノに答えた。
「……助かった」
「え?」
「この借りは必ず返す」
「ダン……そこはありがとうでいいだろ」
「うるせえっ!!」
素直にお礼を言わずに怪我を治して貰った事を「借り」と言い張る彼に他の生徒は呆れてしまうが、レノとしてはダンが初めて自分に感謝した事に驚きを隠せない。
――試験を受ける前は第二学園の生徒は自分達が第一学園の生徒であるレノと組んで冒険に挑む事に反感を抱いていた。彼が収納魔術師だと知ってダン以外の者は納得したが、ダンはそれが気に入らなかった。
第一学園の生徒であるレノは自分が第二学園の生徒の補助役を任せる事に不満を抱いたが、第二学園の生徒からすればいきなりに他の学園の生徒と組まされる事を知らされて動揺する。これから大事な試験の時に素性も知らない生徒といきなり組まされ、それも相手が魔術師の中で攻撃魔法も扱えない収納魔術師だと知って混乱する。
収納魔術師は攻撃魔法が使えない代わりに異空間にあらゆる物を吸収できるため、長く旅をする相手なら最適な人材である。しかし、今回の試験は魔物との戦闘を前提とした試験のため、攻撃魔法を使えない魔術師を連れて歩くなど危険だった。
ダンはレノと組んだ時に最初は教師の嫌がらせかと思った。自分達の普段の素行が悪いから他の学園の生徒を押し付け、試験を不利に追い込んで自分達を合格させないつもりかと勘繰った。だが、実際にはレノのお陰で試験中に何度も助けられる事態に陥る。
一番の役立たずだと思い込んでいた相手に何度も助けられたダンは悔しく思い、それはレノに対する悔しさではなく、自分のあまりの弱さに彼は悔しくて素直に礼もいう事ができなかった。
「ちくしょう……」
「ダン?どうかしたか?」
「うるさい!!もういいだろ、早く王都へ帰るぞ!!」
「……そうだな」
王都へ戻らなければ試験は合格と認められず、レノは彼のいう事に賛同して全員で王都までの帰途に就く――
三年の間にレノは三つの戦闘法を磨き、接近戦において一番役立つのは「反射」だった。収納魔法の練習を行う際、レノは魔力が増えると物体を弾き飛ばす力も自然と強くなっていく事に気が付く。
魔法の練習を毎日欠かさず練習してきたお陰でレノの魔力量は三年前とは比べ物にならず、今の彼は何十トンの物体も異空間に吸収する事ができる。そして反射の力も格段に強くなっており、ゴブリン程度の相手ならば十分に通じた。
「はあっ!!」
「ギィアッ!?」
「ギャウッ!?」
「ギギィッ!?」
掌底を繰り出す際にレノは一瞬だけ黒渦を生み出し、触れた相手を吹き飛ばす。その光景は傍から見た人間には彼がまるで拳法の達人のように思える。
「す、すげぇっ!!あいつあんなに強いのか!?」
「そういえばさっきもオークを殴り飛ばしてたな……」
「ただの魔術師じゃなかったのか!?」
「く、くそっ……こっちだって負けてられるか!!」
ゴブリンを次々と吹き飛ばすレノを見て他の生徒は驚愕する中、ダンは対抗心を抱いて無我夢中にゴブリンに切りかかる。やがて自分達が不利な状況に陥ったと判断したゴブリン達は逃走を開始する。
「ギィイイッ!?」
「ギギィッ!?」
「ギィアッ!?」
悲鳴をあげながらゴブリン達は一目散に逃げ出し、それを見た生徒達は驚く。ダンは逃げているくゴブリン達の姿を見て追いかけようとした。
「追うぞ!!全員ぶっ殺してやる!!」
「止めろ!!深追いするな!!」
「うるさい!!怖いならお前は下がってろ!!」
ゴブリンを追いかけようとしたダンをレノが呼び止めるが、彼はそれを無視して駆け出す。だが、他の生徒は彼の後に付いて行かず、誰も追いかけて来ない事に疑問を抱いたダンは振り返って怒鳴りつける。
「なにやってんだ!?早く来いよ!!」
「ダン……あいつの言う通りだ。別に追いかける必要なんてないだろ」
「そうそう、追っ払ったんだから十分だろ」
「だいたいなんでお前が指示してんだよ」
「お、お前等!?」
ダンの提案を他の生徒は受け入れず、彼等はレノの元へ赴く。自分ではなく、レノの元へ向かった他の生徒を見て彼は衝撃を受けた。
レノ以外の生徒はダンと同じく第二学園の生徒であり、普段から行動を共にする仲間だった。ダンを含めてこの場に集まった生徒は第二学園の生徒の中では素行が悪い者ばかりであり、実力はあるのだが性格に問題があって教師でも手を焼く人間ばかりである。しかし、これまでの行動でダン以外の生徒はレノに礼を告げた。
「あ、ありがとな。さっきは助けてくれ……」
「お前、本当に凄いよ。マジで魔術師なのか?」
「荷物持ちなんて言って悪かったな」
「え、いや……別に」
「お、おい!!何を話してるんだ!!そいつは第一学園の生徒なんだぞ!?」
「もうそういうの辞めようぜ。こいつのお陰で助かったんだぞ?」
ダンを除いた生徒達はレノに感謝すると、まさか彼等からお礼を言われると思わなかったレノは呆気に取られた。それを見たダンは信じられない表情を浮かべるが、すぐに怒りの表情へ変えた。
「お前等恥ずかしくないのか!!そんな第一学園の生徒に媚びやがって……」
「てめえの方が恥ずかしいと思わないのかよ!!一番助けられているのはお前だろうが!!」
「そうだそうだ!!オークに襲われた時に助けたのはこいつなんだぞ!!」
「ちゃんと礼ぐらい言えよ!!」
「う、うるさい!!そいつの力なんて借りなくてもなんとかできた!!」
「できるわけねえだろ!!助けてもらってなかったらお前は今頃死んでたんだぞ!!」
「……もういいよ」
仲間と言い争いを始めたダンを見てレノはため息を吐き出し、彼に対して色々と思う所はあったがレノはダンの元に赴く。近付いてくる彼を見てダンは慌てて剣を構えた。
「な、何だ!?やる気か!!」
「その怪我は痛くないのか?」
「怪我?何を言って……うっ!?」
レノに指摘されてダンは最初にゴブリンに投石を仕掛けられたとき、自分の足が負傷している事を思い出す。戦闘中は夢中で気づかなかったが、自分が怪我をしている事を自覚した途端に痛みがぶり返す。
痛そうに足の怪我を抑えるダンを見てレノはため息を吐き出し、収納魔法を発動させて異空間から傷薬と包帯を取り出す。出発前に怪我を治療する道具は一通り揃えており、彼はダンの元に訪れて怪我の治療を行う。
「ほら、足を見せろ」
「や、止めろ!!お前の手なんか……」
「うるさい!!そんな足で王都まで帰れると思ってるのか!?冒険者になりたいなら我慢しろ!!」
「うっ……」
「ダン、意地を張るなよ」
「治してもらえよ」
他の仲間もダンを説得して怪我の治療を行って貰い、慣れた手つきでレノは治療を行う。彼は普段からよく怪我をして医師のイーシャンの世話になり、面倒くさがりなイーシャンは自分の仕事の負担を減らすためにレノに自分で怪我を治す方法を色々と教えてくれた。そのお陰で簡単な怪我の治療ならばレノもできる。
怪我をした箇所を消毒して傷薬を塗った後に包帯を巻く。それだけでダンは足の痛みがなくなり、普通に動ける程に回復した。レノが所有する薬はイーシャンから分けてもらった特別な薬なので効果は高い。
「痛みが引いた……」
「これでよし、もう歩けるよ」
「……ちっ」
「おい、ダン!!直して貰ったのになんだその態度は!?」
治療を終えるとダンは不機嫌そうに立ち上がり、黙って背中を向けて歩き出そうとする。そんな彼の態度に流石に他の者も黙っていなかったが、ダンは振り返らずにレノに答えた。
「……助かった」
「え?」
「この借りは必ず返す」
「ダン……そこはありがとうでいいだろ」
「うるせえっ!!」
素直にお礼を言わずに怪我を治して貰った事を「借り」と言い張る彼に他の生徒は呆れてしまうが、レノとしてはダンが初めて自分に感謝した事に驚きを隠せない。
――試験を受ける前は第二学園の生徒は自分達が第一学園の生徒であるレノと組んで冒険に挑む事に反感を抱いていた。彼が収納魔術師だと知ってダン以外の者は納得したが、ダンはそれが気に入らなかった。
第一学園の生徒であるレノは自分が第二学園の生徒の補助役を任せる事に不満を抱いたが、第二学園の生徒からすればいきなりに他の学園の生徒と組まされる事を知らされて動揺する。これから大事な試験の時に素性も知らない生徒といきなり組まされ、それも相手が魔術師の中で攻撃魔法も扱えない収納魔術師だと知って混乱する。
収納魔術師は攻撃魔法が使えない代わりに異空間にあらゆる物を吸収できるため、長く旅をする相手なら最適な人材である。しかし、今回の試験は魔物との戦闘を前提とした試験のため、攻撃魔法を使えない魔術師を連れて歩くなど危険だった。
ダンはレノと組んだ時に最初は教師の嫌がらせかと思った。自分達の普段の素行が悪いから他の学園の生徒を押し付け、試験を不利に追い込んで自分達を合格させないつもりかと勘繰った。だが、実際にはレノのお陰で試験中に何度も助けられる事態に陥る。
一番の役立たずだと思い込んでいた相手に何度も助けられたダンは悔しく思い、それはレノに対する悔しさではなく、自分のあまりの弱さに彼は悔しくて素直に礼もいう事ができなかった。
「ちくしょう……」
「ダン?どうかしたか?」
「うるさい!!もういいだろ、早く王都へ帰るぞ!!」
「……そうだな」
王都へ戻らなければ試験は合格と認められず、レノは彼のいう事に賛同して全員で王都までの帰途に就く――
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