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冒険者の試験

第22話 最後の指導

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――冒険者の証であるペンダントを渡された後、生徒達は寮へと戻された。試験に合格した生徒は授業を受ける必要はなくなり、一か月以内に学生寮から出て行かなければならない。

学生寮に滞在できるのは学園に通っている生徒だけであり、試験に合格した生徒は卒業となる。しかし、従来の学校と違って冒険者養成では卒業式はないため手続きを終えればすぐに出て行く事はできる。だから卒業が決まった生徒は新しく住む場所を探さなければならない。


「残りのお金はこれぽっちか……」


レノは自分の手持ちの金を確認してため息を吐き出し、三年前に荷物運びの仕事で稼いだ金は殆ど残っていなかった。もしも学生寮を出る事になればレノは宿屋で泊まるしかないが、王都の宿屋は他の街と比べても料金が高い。


「せいぜい三日……いや、二日ぐらいが限界か」


残金を確認したレノはため息を吐き出し、約一か月後には学生寮を出て行かなければならない。その後は自腹で宿屋に泊まらなければならず、早く仕事を見つけなければいけない。


「早くギルドに所属して仕事に就かないと……」


机の上に置いた推薦状を確認してレノは考え込み、どのギルドが自分に適しているのかを考える。氷雨、黒虎、金色の三つのギルドは王都が誇る冒険者ギルドだった。


(どこのギルドに入るか先生に相談してみようかな?)


レノはずっと学園で過ごしてきたので外の事はあまり詳しくはなく、三大ギルドの事も名前だけは聞いた事があるが具体的にはどのような存在なのかよく知らない。自分が所属するギルドの事を知りたいと思った彼はダガンの元に赴こうとすると、扉がノックされた。


『レノよ、部屋におるのか?』
「え?その声は……」


部屋の外から聞こえてきた声にレノは慌てて扉を開くと、そこにはイーシャンの姿があった。彼が部屋までわざわざ訪ねてきた事は初めてであり、いきなり現れたイーシャンにレノは動揺する。


「イーシャンさん!?どうしてここに……」
「……ダガンから頼まれてな、戦闘準備をして訓練場に来て欲しいそうじゃ。用件は伝えたから儂は帰るぞ」
「えっ!?ちょ、ちょっと!?」
「全く、あの小僧め。自分の立場を弁えておるのか……」


イーシャンはレノに用件を伝えるとその場を立ち去り、ぶつぶつと何事か呟きながら去っていく彼にレノは戸惑う。

ダガンがわざわざ人を寄越して訓練場で待っている事を伝えられたレノは困惑するが、戦闘準備を整えろという伝言に緊張する。


(先生……いったい何をするつもりだ?)


レノは不安を抱きながらもイーシャンに言われた通りに訓練場へと向かった――





――訓練場に辿り着いたレノはダガンを探すと、彼は訓練場内に存在する闘技場に立っていた。闘技場は石畳で構成された円形のであり、普段は授業で生徒同士が戦う場所だった。

闘技場に立っているダガンはいつもの格好と違い、彼は両腕に盾を装着していた。片腕だけではなく両腕に盾を装備しているダガンにレノは疑問を抱くが、とりあえずは彼に話しかける。


「先生!!」
「……来たか」


ダガンはレノが訪れると今までにないほどに鬼気迫る表情を浮かべており、彼の迫力にレノは気圧されそうになった。どうしてダガンが自分を呼び出したのかとレノは疑問を抱く前に彼は闘技場に上がるように促す。


「早く登ってこい」
「は、はい……」


闘技場に上がったレノは緊張した様子でダガンと向き合うと、彼は両腕を構えた状態で向き合う。二つの盾に身を隠した状態でダガンはレノと向き合い、彼を呼び出した理由を語る。


「覚えているか?俺はかつてここでお前に敗北した事を」
「え?いや……何の話ですか?」
「お前を戦えない魔術師だと侮り、俺はお前が冒険者に相応しくないと判断して厳しく指導した。だが、お前は自分の力を証明するために俺を打ち破った事を忘れたか?」
「あっ……」


ダガンに言われてレノは二年生の時に収納魔法を利用して彼に一撃を与えた事を思い出す。あの時は自分を執拗に痛めつける教師に復讐も兼ねて彼は戦ったが、ダガンはレノに敗北して以来に彼の実力を認めた。

以前の時はダガンもレノも素手の状態で戦っていたが、今回のダガンは両腕に盾を装着していた。普通は盾などの防具は片腕に装着するのだが当たり前なのだが、ダガンは何故か両腕に装備している事にレノは疑問を抱く。


「先生……どうして両腕に盾を付けてるんですか?」
「それが俺の戦闘方法スタイルだ。15年前、俺がまだ冒険者だった頃の渾名を知っているか?」
「え?」
「俺の渾名は……盾騎士だ!!」


両腕に盾を装着した状態でダガンは腕を大きく振りかざすと、盾同士が衝突した瞬間に激しい金属音と闘技場に振動が走る。両腕を叩きつけただけで軽い衝撃波が走り、それを見たレノは冷や汗を流す。


「レノ、お前は優れた生徒だ。だが、これから冒険者として生きていくのならば退に後れを取るようでは先はないぞ」
「ちょ、ちょっと先生!?」
「さあ、構えろ!!これが俺の最後の指導だと思え!!お前が三年間磨き上げた技術を俺に見せて見ろ!!」


ダガンはレノの力を見極めるために彼は本気で戦う事を決意し、冒険者を辞めてからは封印していた盾を構える。かつてダガンは「金級」の冒険者であり、彼の異名は「盾騎士」は盾を扱って戦う事からそのように名付けられた。



――どうしてダガンは普通の武器ではなく、盾を利用して戦うようになったのかというと彼は不器用な戦士だった。剣や槍などの武器を扱った事はあるがどれも完璧に使いこなす事ができず、唯一に彼が得意としたのは盾を利用した防御だけだった。

武器を扱う技術は苦手だったが盾などの防具を利用した技術ならばダガンは誰よりも優れ、いつの間にか彼は盾を防具として扱うのではなく、まるで武器のように利用して戦うようになった。不思議と普通の武器で戦うよりも盾で戦う事の方がよく馴染み、いつしか彼は「盾騎士」という異名が付けられていた。



「どこからでも掛かってこい!!本気で俺を倒すつもりでこなければ俺はお前を叩きのめすだけだぞ!!」
「せ、先生……」
「どうした!?来ないのならばこちらから行くぞ!!」


未だに戸惑っているレノにダガンは自分が本気である事を示すため、彼はレノの元に向かって駆け出す。ダガンは大柄ながらに動きも素早く、まるで猛牛の突進を想像させる勢いで突っ込んできた。


「ふんっ!!」
「うわぁっ!?」


自分に突進を仕掛けてきたダガンにレノは慌てて回避するが、ダガンは闘技場を飛び下りると勢いを付けたまま駆け出す。そして訓練場に生えている樹木に衝突すると、彼の突進の威力に耐え切れずに樹木はへし折れた。それを見たレノは顔色を真っ青にして叫ぶ。


「こ、殺す気ですか!?」
「この程度の攻撃で死ぬようならば冒険者の資格はない!!」
「そんな無茶苦茶な……うわっ!?」
「ふぅんっ!!」


会話の際中にダガンは跳躍してレノの元へ降り立ち、彼を上から盾で押し潰そうとしてきた。レノは慌てて後ろに下がると、ダガンが振り下ろした盾が石畳に衝突して亀裂が走る。もしもレノの反応が遅れていた場合、彼は確実に圧死していた。


(先生は本気で俺を殺そうとしている!?)


レノはダガンが本気で自分を殺しにかかっている事を知って戦慄し、彼とは色々とあったが自分に協力してくれるダガンの事を信頼していた。だが、理由は分からないが自分と戦おうとするダガンにレノも覚悟を決める。
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