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第34話 廃村と狼 ※連載再開しました。

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――アルと別れたレノは荷物の中から地図を取り出す。こちらの地図はアルが用意した物であり、森から一番近い村を探す。


「えっと……この村が一番近いみたいだな」


アルが用意してくれた地図を確認してレノは森から北の方に村があることを確認するとまずはそこへ向かう。徒歩での移動だと数時間はかかる距離だったが、これから旅を続けるのであればどこかで馬など調達しなければならない。


「お金は父さんと母さんが残したのがあるし、食料や水も余裕があるから大丈夫かな」


両親が死んだ際に金銭の類もしっかりとアルが保管してくれていたお陰で当分の間は生活に困ることはなさそうだった。だが、旅をする以上はレノも自分で金を稼ぐ手段を身に付けなければならず、どのような方法で金を稼ぐのかを考える。


(とりあえずは村に着いて宿を確保してから考えよう。まずは村に目指すことだけ集中するか)


旅に出たばかりで色々と不安はあるがレノは余計なことを考えずに村に向かうことだけに専念する。だが、この数時間後にレノは思いもよらぬ事態に陥る――




――時刻は昼間を迎え、ようやくレノは目的地の村へと辿り着いた。だが、そこで見たのは予想外の風景だった。


「ど、どうなってるんだこれ……ここで間違いないはずだよな?」


レノは古びた地図を取り出して目的地を確認し、この場所が地図に記されている村であることを確かめると、力が抜けて膝を着く。辿り着いたのは村というよりも「廃村」という表現が正しい。

地図に記されていた村の建物はどれも倒壊しており、人の気配は一切感じない。既に人間が離れてから数十年は経過しているらしく、慌ててレノは地図を確認すると発行日がの日付だと判明した。


「し、師匠ぉっ……いったい何時の地図を渡してるんですかぁっ!?」


自分が貰った地図がまさかの100年前の地図だと判明し、今更ながらにレノはアルがエルフであることを思い出す。彼女は人間よりも寿命が長いエルフであり、しかも普段は人間と接触しない森の中で生活していたことを思い出す。恐らくアルが地図を買った当時は村は存在したのだろうが、何らかの理由で村に住んでいた人間はいなくなって廃村と化した。


「ど、どうしよう……」


村に辿り着ければ休めると思っていただけにレノのショックは大きく、とりあえずは地図をもう一度確認してみるが他の村まで移動する時間はなく、今から出発しても今日中に辿り着ける保証はない。


「はあっ……しょうがない、今日はここで一晩明かすしかないか」


深いため息を吐きながらレノは廃村を一通り確認し、せめて雨風を防げる場所は残っていないのか調べることにした――




――村を調査した結果、倒壊していない建物が一つだけ残っていた。その建物は馬小屋であり、今夜はここで過ごすしかないと思った夜営の準備を行う。


「はあっ……旅ってこんなに苦労するのか」


馬小屋の中でレノは干し肉に嚙り付き、食料と水はまだ余裕はあるが今日のところは干し肉を一切れだけ食べて我慢することにした。まさか旅の初日で廃村に泊まることになるとは思いもしなかった。

アルから渡された地図を見て他の村も廃村になっていないのか心配するが、とりあえずは無駄な体力の消耗を抑えるためにレノは早々に休むことにする。しかし、疲れているはずなのに妙に緊張して眠れない。


(ううっ……落ち着かない。人がいないのは分かってるんだけど)


廃村を調査した結果、やはりここには人間は誰一人住んでいないのは確認済みである。それでもレノは落ち着いて休むことができず、仕方ないので弓を手にして外へ出た。


「もう少しだけこの村を調べてみようかな……」


眠くなるまでの暇つぶしも兼ねてレノは廃村を調査するために小屋を出た。念のために武器だけは手放さず、用心のために魔力感知を発動して周囲の様子を伺う。だが、人間の魔力は感じられなかった。


(やっぱりこの村には誰も……ん?何だこの魔力?)


昼間に探索した時は感じなかった魔力を感知し、疑問を抱いたレノは魔力が感じる場所へ向かう。


(もしかして誰かがここへ来たのか?いや、この魔力は……)


魔力を感知した場所に辿り着くと、そこには白色の毛皮に覆われた狼が倒れていた。狼は身体のあちこちに怪我を負っており、それを見たレノは急いで駆けつける。


「狼!?どうしてこんなところに……」
「クゥ~ンッ……」
「酷い怪我をしてるな……」


狼はレノを見ても逃げる素振りはなく、怯えた様子で鳴き声を漏らす。それを見てレノは可哀想に思ったが狼を助けるべきか悩む。


(どうしよう。これぐらいの傷なら治せなくないはないと思うけど……)


アルが渡してくれた荷物の中には薬草の類も入っており、それらを調合すれば薬も作れる。しかし、狼を治すために貴重な薬を使うことに躊躇した。

怪我をしている狼は別にレノが飼っているわけではなく、仮に治した所で逃げ出すかあるいは襲い掛かってくるかもしれない。それでも自分に助けを求めるように見つめる狼にレノは冷や汗を流す。


「……助けてほしいのか?」
「クゥンッ……」
「ああ、もう……仕方ないな!!」


レノは急いで自分の荷物を取りへと戻り、狼の治療のために薬草を調合して傷薬を生み出す。怪我をした箇所に傷薬を塗った後、包帯代わりに大きな葉を張り付けて狼に動かないように注意する。


「いいか、死にたくなかったら大人しくしてるんだぞ」
「ウォンッ……」
「はあっ……もしも襲ってきたら返り討ちにするからな」


警戒しながらもレノは狼が大人しく眠るまで傍に居てやり、その日は夜明けまで共に過ごした――





――翌朝、いつの間にかレノは眠っていたらしく、目を覚ますと狼の姿が消えていることに気が付く。まだ怪我は完全に治ってはいないはずだが、消えた狼を探してみたが既に村から出て行ったのか見つからない。


「あいつ……出て行くなら礼ぐらい言えよ」


勝手に消えてしまった狼にレノはため息を吐くが、姿が見えないということは動けるまでに回復したことは確かであり、自分が調合した薬が効いたことに安堵する。

疲れは多少残っているがレノは早々に村から出ることにした。こんな廃村に残っていても人が来るとは思えず、急いで次の村に向かう必要があった。あまり当てにできないがアルから貰った地図を確認して次の村がある方向を確認する。


「ここから北西の方角か……はあっ、次の村は廃村じゃないといいけど」


この村のように次の村も人間がいなくなっていないことを祈りながらレノは村を出ようとすると、村の出入口に昨日助けた狼が待ち構えていた。


「ウォンッ!!」
「うわっ!?何だお前、こんな所にいたのか?」
「ウォンウォンッ!!」


狼はレノを見ると尻尾を振って鳴き声を上げ、襲い掛かってくる様子はないのでレノは近づいてみると、狼の足元に魚が落ちていることに気が付く。よく見ると狼は全身が濡れており、昨日張り付けた薬草の葉が全部剥がれ落ちていることに気が付く。


「まさかお前、川に入って魚を獲ってきたのか!?なんて無茶な真似を……」
「クゥンッ?」


どうやら狼は川の中に潜って魚を捕まえてきたらしく、その魚をレノに届けに来たらしい。怪我の治療のために張り付けた葉は川に潜った際に剥がれたらしく、それを知ったレノは困惑する。


(こいつ、自分が怪我をしてるのに俺のためにわざわざ川まで出向いて魚を獲ってきたのか?なんでそこまでして……)


落ちている魚を拾い上げてレノは狼からのお礼を受け取ると、狼は嬉しそうに尻尾を振る。その様子を見てレノは苦笑いを浮かべながら狼に礼を告げた。


「ありがとな」
「ウォンッ♪」


狼はレノが魚を受け取ったのをみて嬉しそうに鳴き声を上げ、その様子を見てレノはこの狼が妙に人に懐いている気がした。もしかしたら猟犬のように人間に飼育されていた可能性もあり、言葉もある程度理解しているように思えた。
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