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第72話 殺人事件の調査

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「はあっ……仕方ない。皆、私に付いて来て」
「付いて来てこいって……何処へ行くんだよ?」
「今日起きた殺人現場」
「ええっ!?」


ヒカゲに連れられてレノ達は本日起きた殺人事件の現場に向かうことになり、冒険者ギルドを後にした。向かう途中でレノは色々と事件の質問を行う。


「あの……今まで起きた事件のことを聞かせてくれませんか?」
「……分かった。でも、事件の情報は他の人に絶対に漏らさないようにして」
「分かりました」
「僕達にも聞かせろよ!!」
「殺人事件……聞くの怖いよ~」
「クゥ~ンッ……」


移動中にレノ達はヒカゲが知る限りの連続殺人事件の詳細を教えてもらう。ハルナだけは怖がってウルを抱きしめるが、事件の捜査を行う以上は情報は共有しておかなければならない。



――ヒカゲによれば最初に起きた事件から一貫しているのは殺される人間は黒虎に所属する冒険者であり、全員が銀級冒険者だった。彼等は同じ階級であること以外に共通点はなく、性別も年齢もバラバラだった。

最初に殺されたのは「セレブロ」という名前の男性冒険者で去年に銀級冒険者に昇格を果たした。20才の時に冒険者となって10年間も働き続け、一昨年に銀級冒険者に昇格した。黒虎の中では10本指に入る程の優秀な槍使いだったが、首を切られて殺害された。

次に殺されたのは「シル」という名前の21才の女性冒険者であり、彼女は18才の時に冒険者となってわずか2年目で銀級冒険者に昇格した。冒険者になる前は傭兵を勤めており、凄腕の剣士として名が知れ渡っていた。しかし、彼女も何者かに首を切られて殺されたことから連続殺人事件の可能性が浮上する。

最後に殺されたのは「ギン」という名前の40才の男性であり、元は別の冒険者ギルドに所属していたが数年前に黒虎のギルドに移籍した。銀級冒険者だが実際は階級以上の実力を持ち合わせており、他の冒険者からも慕われていた。目撃者によれば街中でいきなり剣を振り回して暴れ始めたらしく、急に首元から血が噴き出して死んだという。


「そ、そんな……あのギンさんまで死んでたなんて」
「嘘……シルさんまで殺されたの?」
「……二人の知り合いだったの?」


話を聞かされたダインとハルナはショックを受けた表情を浮かべ、二人とも殺された被害者とは面識があった。二人も殺された冒険者も黒虎に所属していたので面識があってもおかしくはないが、殺された人間の名前を聞いてダインは信じられない表情を浮かべた。


「ギンさんは階級は銀級だったけど、実力は金級冒険者にも劣らないと言われてたんだぞ!?」
「シルさんだって物凄く強いんだよ!?私と手合わせした時も全然攻撃が当たらなかったもん!!」
「でも殺されたのは事実……犯人も相当な手練れとしか考えられない」


これまで殺された人間は黒虎の中でも上位に入る実力者ばかりのため、殺害した犯人は相当な腕前だと思われた。だが、ハルナとダインは殺された人間の実力を知っているだけに簡単には信じられなかった。


「きっと汚い手を使って殺したんだ!!そうでもなければギンさんが殺されるはずがない!!」
「シルさんもセレブロさんもあんなに強いのに殺されるなんて信じられないよ……」
「二人が信じなくても殺されたことに変わりはない……犯人を侮っては駄目」
「何だよ!?ヒカゲは三人が殺されたのに悔しくないのかよ!?」
「……仕事に私情を挟まない。忍者は常に冷静でなければならない」


ヒカゲも殺された三人とは面識があるが犯人を見つけ出すために余計な感情は出さず、あくまでも冷静に犯人を見つけ出すために行動する。そんなヒカゲにレノは凄いと思った。


(年齢は俺とそんなに変わらないはずなのに……凄く冷静で頼りになるな)


ハルナとダインからすれば知り合いが死んでいるのに冷静に振舞うヒカゲに思う所はあるが、彼女の行動自体は間違いではない。犯人に怒った所で状況が好転するわけではなく、冷静に徹して犯人探しを行う。


「今の所は殺されたのは黒虎の冒険者だけなんですか?」
「そう、警備兵に調べて貰ったけどこの一週間に死んだ人間はこの三人だけ……犯人は黒虎に恨みのある人間の可能性が高い」
「恨み?例えばどんな人間が恨んでるんですか?」
「……一番可能性があるのは他所のギルドの冒険者」


黒虎に恨みを抱く人間がいるとすれば同じ街に存在するギルドの冒険者であり、黒虎の存在で他のギルドの冒険者は肩身の狭い思いをしている。街の人間は黒虎を頼りにしており、他の冒険者ギルドはあまり当てにされていない。

元黄金級冒険者のバルがギルドマスターを勤める黒虎は世間の人間からの信頼は厚く、実際に彼女の指導で育てられた黒虎の冒険者は優秀な人材が多い。元々はこの街には多数の冒険者ギルドが存在したが、現在は殆どのギルドが黒虎に合併されている。残されている冒険者ギルドは二つだけであり、どちらも黒虎よりも規模が小さくて人材も少ない。


「この数年で黒虎の知名度が広がったせいで街の人間の殆どは黒虎に仕事を依頼する。そのせいで他所のギルドの仕事は激減して、黒虎に恨みを抱く人間が現れてもおかしくはない」
「じゃあ、ヒカゲは他のギルドの奴等がギンさんたちを殺したと思ってるのか!?」
「声が大きい、もっと静かに話して……可能性としては十分に有り得る」
「冒険者が冒険者を殺すなんて……」


所属するギルドは違えども冒険者は本来は魔物から人々を守るため、そして警備兵と同様に街の治安維持のために必要な存在でもある。その冒険者同士が殺し合うなど信じられないが、ヒカゲによれば他所の冒険者を疑う理由は他にもあった。


「これまで殺されたのは黒虎の中でも一流の冒険者ばかり、全員が簡単に殺されるような人たちじゃない。もしも殺せる人間が街の中に居るとしたら相当な強者……つまり、腕利きの冒険者かもしれない」
「た、確かに……」
「なら……シルさん達を殺したのは他のギルドの冒険者さんなの?」
「断定はできない。けど、私はそれ以外にあり得ないと思う」


殺された冒険者が黒虎内でも腕利きの冒険者であり、もしも彼等を殺せる存在がいるとすれば他のギルドの冒険者以外に考えられないとヒカゲは語る。レノはその言葉を聞いて納得しかけたが、少しだけ引っかかりを覚えた。


(犯人は他所のギルドの冒険者……それが一番可能性が高いとは思うけど、何でかしっくりこないな)


自分でも不思議なことにレノはヒカゲの推理が間違っているとは思わないが、どことなく違和感を抱く。何かを見落としているような気がするが、それが何なのかはっきりと分からない。そんなことを考えている内にレノ達は殺人現場に到着した。


「あ、ヒカゲさん!!急にいなくなるからびっくりしましたよ!!」
「……ギルドマスターの報告のために戻っていた」


殺人現場には十数名の警備兵が今だに待機しており、彼等は一般人が近付けないように封鎖していた。ヒカゲが訪れると兵士達は道を開いて殺人現場に入れてくれた。この街では警備兵よりも冒険者の方が市民の信頼が厚く、見た目は子供であるにも関わらずに銀級冒険者のヒカゲに対しても兵士は敬語で話しかける。


「調査の結果は?」
「それが……目撃者の事情聴取では全員がやはり被害者が急に暴れ出したという証言しか得られませんでした。一応は現場も調べてみましたが、怪しい点は見つからず……」
「そう」


兵士の報告を聞いてもヒカゲは特に反応せず、彼等から有力な情報を得られることは期待していない様子だった。殺害現場に残っていた死体は既に運ばれた後らしく、現場には殺された被害者の血の染みだけが残っていた。
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