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42章

夕暮れの公園。
子どもたちはもう帰り、誰もない滑り台は静かに公園を見下ろしている。
その公園のブランコに座ってうなだれている少年が居た。
牙忍隼だ。
牙忍はいかにも力なく脱力している様子だ。
「なんでこんなことになったんだかな」
牙忍は1人呟く。
黒山は死んだ。
だが学校内外は生徒会以外誰一人変わらず生活していた。もともと居なかったかのように。
クラスの黒山の席も確認したがそこは空き机になっていた。
クラスの人間にも確認したが誰一人黒山を覚えている者はいない。
教師にも確認したが答えは同じ。
「そんな生徒は知らない」だった。
さっきも黒山の部屋を訪ねたがやはりそこは空き部屋になっていて誰も入ってないと大家に聞かされた。
「もちろん黒山なんて人知らない」と言われた。
全員黒山のことを忘れている。
最初から全部夢だったのか。と思いたくなる。
黒山と過ごした短かった普通の高校生活。
櫻木が生徒会に入って騒がしくなり始めたこと。
ショッピングモールでメイクと戦いその圧倒的な力の差でボコボコにされたこと。
組織が襲来し、黒山と戦ったが負けてしまったこと。
捕まってしまったが生徒会のメンバーが助けに来てくれたこと。
たるんでると言われ会長に合宿へ行くと言われたこと。
合宿でやった肝試しで偽物の会長が出て気絶してしまったこと。
試練で黒山を亡くしてしまったこと。
全部夢であってほしかった。
俺がこの学校に入ってから望んだのは異人であっても普通の学校生活を送ること。
だが生徒会に選ばれ全てが狂ってしまった。
これはこれで面白い学校生活だな、とは思っていた。
刺激があって仲間が居て楽しかった。
だけどそれを楽しみすぎた。
故に仲間を亡くし、今こうして何をするべきかわからないでいる。
そこで櫻木のことを思い出す。
あいつは俺が言うのもなんだが異常だ。もしかしたら黒山が居なくなった反動で何かを起こそうと考えているかもしれない。
あいつにとって黒山は自分の命より大事な存在。
精神から壊れてしまうかもしれない。
そう思った牙忍はあることに気づく。
「あれ、俺はなんでこんなに悲しんでるんだ?」
確かに黒山を失って悲しいが、それは俺だけじゃない。
会長も幽美も咲川も一緒に戦ってきた仲間を失ったんだ。
何なら櫻木のほうが苦しんでいるかもしれない。
「俺だけが悲しんでいる場合じゃない。櫻木の家に行こう」
牙忍は悩むより行動することを選んだ。
生徒会を立て直すため全員を立ち直らせ、黒山の願いを叶えるため。
異人を組織から守るため。

牙忍は電話ボックスに入ってどこかへ電話を掛ける。
何コールかして相手が出た。
そして要件を伝える。
電話から反応が聞こえてくる。
「…あいつの家か」
電話の相手は奏臣だ。
牙忍が櫻木の家がどこにあるかを聞いている。
しかし奏臣は気の進まないような声で出すのを渋る。
「なんで教えてくれないんですか?あいつを説得しに行くんです」
牙忍は電話に向かって言う。
奏臣は変わらない態度のままこう告げる。
「…諦めろ。お前には無理だ」
それはきっぱりと言い切った感じだった。
その返答に少しいらっときた牙忍は「どうしてですか!?」と軽く叫ぶ。
それに奏臣は「…お前のためだ」と言った。
牙忍がその言葉の真意をわからず混乱していると奏臣は牙忍を諦めさせるため説明を始める。
「…お前の気持ちもよく私は理解している。私も同じだ。だがな、今櫻木は狂っている。自傷行為や自殺未遂を何回も繰り返している。だがあいつは死ねない体質だ。黒山の元へ逝こうとしても不可能、黒山が死んでしまった原因であるライも黒山と相打ちで死んでしまっている。だからこそあいつは方法を探している。そんな不安定な心情の中にお前が割り込んだらどうなると思う。間違いなく狂った櫻木にお前は殺される。だから私が諦めろと言っているんだ」
牙忍は電話のを耳に当てながらワナワナと震える
そして今度は叫ぶ。
「それを乗り越えないと俺たちはまた分裂する!あいつが心から信頼してから生徒会は始まる!これからスタートラインに立つんですよ!」と。
だが奏臣は変わらず
「…諦めろと言ってるだろう」と変わらない声のトーンで言う。
しかし牙忍は食い下がらない。
これが自分のやるべきことだと確信を持っているから。
辺りは暗くなり始めていて電話ボックスの光がだんだんと外に漏れ出していく。
そして牙忍は言った。
「会長はなんでそんなに俺を止めるんですか?」と。
それに対し奏臣は言う。
「…部下の身の安全を守るため。ただそれだけだ」
昔の過ちを償うため、旧生徒会と同じ道には辿らせないため。
奏臣自身のために。
牙忍はそれに対して言った。
いやずっと言いたいことだった。さっきは自己中に当たってしまったが本当は思っていたこと。
それは
「俺たちは会長に守られるだけの存在じゃない!」
思春期の反抗によくあるようなことだった。
「会長は生徒会長です!それを補佐するのが生徒会の仕事じゃないんですか!?
電話の向こうで奏臣が言葉を飲む。
電話ボックスの光が完全に外で感じられるようになった時間に電話ボックスから声を発する。
そして
「…わかった」
奏臣が折れた。がさごそと向こうで何かを漁る音が聞こえる。
牙忍はそれをただ聞く。
「…あいつの住所だけお前に渡しに行く。少し待っていろ」
奏臣がそう言うとすぐに電話が切れる。
やっと通じたのか。と牙忍は受話器をおいて大きな息を吐く。
だがここからが戦場だ。
牙忍は思うと、電話ボックスを出る。
辺りはもう暗く、街灯と家などの光が牙忍を照らす。
牙忍が入っていた電話ボックスは図書館と市役所近くにあり、夜でもそれなりに明るい。
今から行っても迷惑だろうかと思ったが、そんなことを考えることすら必要ないとも思い、電話ボックスによりかかって奏臣を待つ。
適当に考え事をしながら数分が経過すると牙忍のよりかかっていた方向とは反対側から足音が聞こえた。
来たかなと牙忍は思い、普通に立ちその方向へ振り返る。
その瞬間
牙忍の真横を超高速で槍が通過していった。
最初は理解が追いつかず混乱しているが、冷静になってからこの攻撃を知っていることを思い出す。
始まりの襲撃者。
俺が一度殺された相手。
「よっ久しぶりだな異人」
そいつは前と変わらない姿で立っていた。
「キング。なんでお前がここに居る」
街灯に照らされたキングは頭をかくと、
「いやなに宣戦布告だよ」と言った。
宣戦布告?と牙忍が考える。
すると今度は牙忍の頭上から何本もの日本刀がキングに向かって放出された。
キングはそれをかったるそうにのらりくらりと避ける。
その日本刀の主は牙忍の頭上に飛び上がっていた奏臣だ。
奏臣は着地すると牙忍とキングに間に立つ。
キングは奏臣を見たが特に顔色を変えることなく、地面に刺さった刀を蹴る。
蹴られた刀は簡単にポキっと折れ手持ちの部分が奏臣の足元に転がる。
「ここに来ることは知ってたぜ。会長さん」
とキングは言う。
そして彼の後ろからもう1人の人物が姿を表す。
行方不明のはずだったもう1人の奏臣。メイク。
メイクもまた最初に対峙したときの服装でトゲトゲしいパンクな服を着ている。
「やっほ奏臣。あんたの考えてることなんてなんでも分かるんだからね~」
メイクはそう言った。
その発言は彼女らがもともと1つだったからこそ出る発言だが、それを知るものはここには当人たちしかいない。
奏臣はそれを無視し、刀を構えながら聞く。
「…何の用だ」
それに対しメイクはキングと同じ様に返す。
「ただの宣戦布告」
奏臣はそれを聞くと一度ため息をついて刀を虚空へ消す。
戦う意思はないと判断したためだ。
「…ということは今は私たちに危害を加えないということだな」
一応聞いてみる。
それにはキングが答えた。
「そうだな。だがいずれお前たち全員を抹殺する。それがただ伸びるだけだ。組織改め『ディスト』の名に賭けて誓う」
ディストそれが新しい組織名か。
奏臣はそう思う。
「…好きにしろ。とにかく私たちは急いでるんだ。さっさとどこかに行ってくれ」
少しイライラしたような口調で奏臣はキングたちに言う。
メイクはそれを聞いてすぐに「おー怖い怖い」と言い、闇の中に消えていく。
キングも「それじゃあな」とだけ言って同じく闇の中に消えていった。
その場には牙忍と奏臣が残される。
そして奏臣は2人が居なくなったことを確認すると
「…牙忍これが地図だ」とポケットから出した折られた1枚の紙を牙忍に手渡す。
普通そんな冷静で居られる?と牙忍は思ったが、紙を渡され、それを開き家の場所を確認するとその場所に驚愕した。
「え?ここ一帯が櫻木の家?」
そこに映っていたのは住宅街を上から見た図なのだが、明らかそこに1つだけスペースが広すぎる場所があった。
しかもそこに二重丸が書かれている。
奏臣は「…そうだ。あいつの家は結構な資産家だ」とあっさり言う。
牙忍はそれを聞いてまずこう思った。
どうしてそんないい家の生まれなのにあんな残念な性格になってるんだ。と。
そしてもう1つ牙忍は疑問点を見つけた。
「よく考えたらいま夜ですし、そんなお金持ちの家ならセキリティ玄関開けてくれないんじゃないですか?」と奏臣に聞く。
それに奏臣は、
「…こっちで通してある。お前はどうやったら櫻木を治せるかだけ考えていろ」と言う。
さっすが用意が速い。と牙忍は思う。
「じゃあ行きます」
牙忍がそう言うと、奏臣は最後にもう一度忠告する。
「…死ぬなよ」と。
今の櫻木は不安定だ。誰振り構わず殺してしまうかもしれない。
牙忍だって例外ではない。
だが、それを考慮した上で櫻木の力は必要なのだ。
なにせ「フランマ」を持ってるんだからな。

「櫻木さん。もうやめましょう。こんなことをしても相棒は喜びません」
櫻木の心のなかでフランマは櫻木に呼びかける。
だがそれに応答する声はない。
「はぁ…。あなたのせいですよ相棒。あなたが置いて死んでしまうから…」
フランマは変わらない現状に飽き始めている。
こんなことならあのときこっちに意識を移すんじゃなくてあのまま相棒と一緒に消えてしまえばよかったと思うほどに。
だがそのときに相棒が「お前は助ける」と言ったせいで押し付けられですよ。嫌になります。
暇そうに外の世界の様子を眺めていると。
動きがあった。
外から誰かの声が聞こえる。
「この声は牙忍さん?」
姿はドア越しで見えないが確実に牙忍だ。
これが救世主となるか愚者になるか。
結末を変えられるのは1人だけ。
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