獣を宿す世界

この世界では、感情は目に見える“層”として存在している。空を覆う感情層は人間の内面と直結し、怒りは最も強く、最も危険で、そして最も効率的な“燃料”として世界を駆動させていた。都市はその怒りによって動き、文明はその激情によって加速していく。

少年レジスは、ある日その仕組みの中で“暴走する怒り”に巻き込まれる。人を救いたいという想いから生まれた怒りは、赤い獅子の姿となって暴走し、世界を破壊しかける。しかしその瞬間、彼の内側に現れる白銀の存在――観測者シルヴァが語る。「怒りを否定するな。だが、選べ」。

怒りは悪なのか。それとも力なのか。レジスはその答えを知らぬまま、破壊と救済の狭間で揺れ続けることになる。

やがて彼の前に現れるのは、黒き獅子を従える男ヴァルグリム。彼は怒りを制御し、選別し、弱者を切り捨てることで世界の安定を保つ現実主義者だった。彼の思想は冷酷だが、そこにはかつて理想を信じ、そして失った過去があった。レジスは彼との衝突を通じて、怒りを抑えることでも、暴走させることでもない第三の道を模索していく。

その背後で、すべてを観測し続ける謎の存在ディーザが静かに世界を見つめている。かつてアルカディア王国の研究者だった彼は、希望よりも怒りが高出力であるという“事実”に基づき、世界そのものを実験場として設計していたのだ。

王国の崩壊、ノクティス連邦での実験、そして無数の感情の暴走。それらはすべて偶然ではなく、感情をシステムとして解明しようとした果ての必然だった。怒りは世界を壊す力であると同時に、世界を最も効率よく動かすエネルギーでもあった。

だがレジスは、その構造に対して別の答えを見つける。怒りを消すのではない。支配するのでもない。怒りの奥にある恐れ、悲しみ、守りたいという願いを切り離し、感情そのものを“多層的な力”として再定義すること。それは世界の歯車そのものを書き換える行為だった。

白銀の狼シルヴァ、黒き獅子ヴァルグリム、そして金色の共鳴へと変化していく感情の連鎖。異なる立場と思想が交差する中で、世界は崩壊と再生の境界へと向かっていく。

これは、怒りを否定する物語ではない。
怒りと共に生きるために、その意味を問い直す物語である。

そして世界は問う。
――怒りは、破壊か。それとも選択か。
24h.ポイント 235pt
0
小説 6,748 位 / 220,538件 ファンタジー 1,200 位 / 51,160件

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

亡き姉の身代わりとして嫁いだ私ですが、離縁状を置いた翌朝、夫が私の「真実」に気づいたようです』

まさき
恋愛
「サインはもう、いただきました。あとは私がこの屋敷を出るだけです」 ​五年間の結婚生活。侯爵令嬢エルゼが演じ続けたのは、亡き姉・ロザリーの「身代わり」という配役だった。 夫であるカイル公爵が愛していたのは、かつて雪の中で自分を救ってくれた初恋の少女・ロザリー。 生き写しの妹であるエルゼを娶りながらも、彼は一度も彼女を「エルゼ」と呼ぶことはなかった。 ​冷淡な視線、姉と比較される日々。 「君はどこまでいっても、ロザリーの代わりにはなれない」 その言葉を最後に、エルゼは静かに離縁状を置き、屋敷を去る決意をする。 ​しかし、彼女が消えた翌朝。 カイルは、エルゼが大切に遺していった古い小箱を見つける。 そこにあったのは、十五年前のあの日、彼が「命の恩人」に預けたはずの片方のカフスボタン。 そして、幼いエルゼが綴った、あまりにも切ない真実の日記だった。 ​――「あの日、雪の中で貴方を抱きしめていたのは、お姉様ではなく、私だったのです」 ​真実を知り、絶望の中でエルゼを追うカイル。 だが、すべてを捨てて「自分」を取り戻したエルゼは、もう二度と、彼の隣で微笑む仮面の妻には戻らない。 ​これは、名前を奪われた女が自由を掴み、愚かな夫が真実の愛を失うまでの、静かで鮮やかな再生の物語。

思いを込めてあなたに贈る

あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。