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 アルヤがコレッティ子爵家に戻れたのは、それから四日後だった。

 お世話になっていたのはタルコット公爵家だった。
 タルコット公爵家の前当主は王弟だ。
 しがない子爵令嬢のアルヤからしてみれば、タルコット公爵家は王家と変わらない。

 タルコット公爵家では至れり尽くせりの生活を送らせてもらった。
 帰るころには、雨で泥だらけになっていたはずのドレスとハンカチを綺麗にしてもらい、何度頭を下げても返しきれないほどの恩を感じた。

 茶色い眼鏡までご丁寧に持たされたが、それは帰宅してすぐ家令に捨てるよう命じた。

 帰ってきたアルヤを見たネネは号泣し、祖父と父のゴットロープへの怒りは凄まじく、アルヤはほとほと参ってしまった。

 母もアルヤの一大事だと、領地から帰る準備を始めたと聞いた。
 一時期は髪がごっそり抜けるほどだったらしく、心労は想像以上のものだったらしい。

(お母様は繊細だからなぁ……)

 兄も寮から帰ってくる予定だとか。

「お嬢様、これからはお出かけの際、このネネが必ずやお供いたしますからね!」

「全くだ。何が『うちの護衛を信用していないのか』だ。我が家の護衛と侍女がそばにいたら何か不都合があったというだけではないか!! 大体、一番頼りにならないのは貴様だろうと言ってやりたい。ベルツ子爵家の子息ごときが、我が孫娘を愚弄しおって……」

 祖父がアルヤとゴットロープの不仲を嘆いてドレスを仕立ててくれたのはひと月前だ。
 不仲とはいっても、ここまでとは思っていなかったのだと嘆き悲しまれた。
 どうして相談してくれなかったのかとも。

(ここでお祖父様とお父様が荒れていて言えなかった、なんて言ったら、こじれるだけよねぇ……)

 アルヤはそっと溜息をつく。
 祖父と父はある意味ではそっくりなのだ。
 余計なことを言えば、また二人の言い合いが始まってしまう。

「だから私は最初からベルツ子爵家との婚約は嫌だと言ってたんです。父上は伴侶選びの才能がないのでは?」

「何だと!?」

 アルヤがせっかく余計なことをのみ込んだというのに始まってしまった。
 これが嫌なのだ。
 もう争いはうんざりだ。

「もうお二人ともおやめください。ゴットロープ様は私の容姿や性格をお気に召さなかったのです。おそらく他の多くの殿方も同じ意見だと思います。学園の令息たちも、私をたんぽぽ令嬢と呼び、蔑んでいましたから……ですから私は、修……」

「あぁ、確かに学園はかなり風紀が乱れておるようだな」

「はぁ……まぁ、そうですね……いえ、今はその話ではなく……」

 ゴットロープに彼女がいたことを突き止めた祖父は、ゴットロープのこれまでの素行を調べ上げていた。ついでに学園内の知り合いに頼んで、学園全体の風紀まで調べつくしたとか。

(お祖父様って猪突猛進だし、極端なのよねぇ……)

 イマドキの貴族子女は、自由に恋愛を楽しんでいる。
 それを風紀の乱れと取るかどうかは難しいところだ。

「あんな小僧のことはさておき。お前にいい縁談がきている」

「やめてください。婚約はもうこりごりなんです……私は、」

「安心せい。今度はいい男だ!!」

 ぜんっぜん安心できない!!
 祖父の男を見る目は節穴なのだ。
 叔母を見て欲しい。

 今でこそ幸せだが、バルト男爵はメイドとの間にクリスティーヌをこさえたではないか!!
 祖父の見る目の無さは折り紙付きだ。
 父だって先ほど、同じことを口走ったではないか!!

 父に止めて欲しいという願いを込めて見つめれば、父まで腕を組んで頷いていた。

(……お父様も見る目なさそうなの……どうにかしないと……)

 アルヤはぐっと手を握りしめ、立ち上がった。
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