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人の気持ちが分からない私に友達など皆無だった。
しかしそんな私にも幼い時には友人と呼べるかもしれない人が、たった一人だけいた。
それがミルエルという男の子だった。
「ジル。久しぶりだね。色々君のことは聞いているよ……大変だったね」
鏡で見る自分のように、彼の瞳は影を帯びていた。
幼少期に見たあの瞳と全く同じだった。
あれからもう長い年月が経っているというのに、私たちはずっと同じ場所に立っている気がした。
「久しぶり」
私はミルエルの向かいのソファに腰を下ろした。
何を話せばいいのだろうか……迷っているとミルエルが口を開く。
「結婚生活はどうだった?」
「予想を大きく越えてきた」
両親にこんな返答を返そうものなら、即座に母のヒステリックな声が飛んでくるだろう。
しかし彼は違った。
驚いたように微かに目を大きく見開くと、突然笑い始めた。
「ははっ……そうか……それは良かったな」
「何が?」
「ああ……新たな発見ができて良かったなってことだよ。結婚前のジルじゃ想像もつかないことが起きたのなら、きっとそれは君を成長させてくれる」
「なるほど……」
今回の離婚に関して、あんまりそういう風な見方をしていなかった。
反省を微かに感じ、私は顎に手を当てた。
「確かに私の中の結婚に対する見方が変わったわ。そういう捉え方もできるのね」
今まで靄がかかっていたように居心地が悪かった。
しかしミルエルの一言でそれが半分ほど消えてなくなった。
幾分か過ごしやすくなって、私は口を開く。
「ミルエルは最近何をしているの?」
単純に気になった。
「最近は親の仕事を手伝っているよ。ほら、貿易関連のやつ。外国の言語も覚えさせられたし大変だよ」
「へぇ……でもそれはあなたが昔にサボっていたせいでしょう? あの頃の不真面目が今になってあなたを苦しめているんじゃないの?」
少し厳しい意見を言ったつもりだったが、ミルエルはまたも笑い声を上げた。
「ははっ……そうかもしれない。もっと勉強しておけば良かったよ。ジルみたいに」
「そうね。あなたは明らかに勉強の時間が足りなかった。いつも遊んでばかりで……いつも私に迷惑をかけて。だから私は……」
言葉が止まった。
私は……その続きに一体何を言おうとしていたのだろう。
「ジル? 大丈夫か?」
ミルエルが珍しく私を心配そうに見つめていた。
すぐに返答ができず、結局数秒かかってしまう。
「大丈夫よ。つまりその……もっと勉強をした方がいいということ」
「ああ……そうだな」
ミルエルは訝しそうに私を見ていた。
しかしすぐに小さく息をはくと、席を立つ。
「今日はそろそろ帰ると。ジルの顔を見ることもできたし……また来てもいいか?」
「ええ」
ミルエルが応接間を去ると、なぜか心臓がキュッと痛んだ。
胸に手を当てるもそれは収まらず、言い難い苦しみが襲ってくる。
「なにこれ……」
……その日からミルエルは毎日のように家を訪れてきた。
本当は仕事で忙しいはずなのに、なぜかこっちを優先しているようだった。
そんなになぜ家に来るの?
試しに聞いてみると、彼は「秘密」と珍しく嬉しそうに笑った。
その笑顔がなぜか、私の脳裏にいつまでも残っていた。
エルモンドと離婚して半年が過ぎた。
その日も、ミルエルは応接間にやってきた。
しかしそんな私にも幼い時には友人と呼べるかもしれない人が、たった一人だけいた。
それがミルエルという男の子だった。
「ジル。久しぶりだね。色々君のことは聞いているよ……大変だったね」
鏡で見る自分のように、彼の瞳は影を帯びていた。
幼少期に見たあの瞳と全く同じだった。
あれからもう長い年月が経っているというのに、私たちはずっと同じ場所に立っている気がした。
「久しぶり」
私はミルエルの向かいのソファに腰を下ろした。
何を話せばいいのだろうか……迷っているとミルエルが口を開く。
「結婚生活はどうだった?」
「予想を大きく越えてきた」
両親にこんな返答を返そうものなら、即座に母のヒステリックな声が飛んでくるだろう。
しかし彼は違った。
驚いたように微かに目を大きく見開くと、突然笑い始めた。
「ははっ……そうか……それは良かったな」
「何が?」
「ああ……新たな発見ができて良かったなってことだよ。結婚前のジルじゃ想像もつかないことが起きたのなら、きっとそれは君を成長させてくれる」
「なるほど……」
今回の離婚に関して、あんまりそういう風な見方をしていなかった。
反省を微かに感じ、私は顎に手を当てた。
「確かに私の中の結婚に対する見方が変わったわ。そういう捉え方もできるのね」
今まで靄がかかっていたように居心地が悪かった。
しかしミルエルの一言でそれが半分ほど消えてなくなった。
幾分か過ごしやすくなって、私は口を開く。
「ミルエルは最近何をしているの?」
単純に気になった。
「最近は親の仕事を手伝っているよ。ほら、貿易関連のやつ。外国の言語も覚えさせられたし大変だよ」
「へぇ……でもそれはあなたが昔にサボっていたせいでしょう? あの頃の不真面目が今になってあなたを苦しめているんじゃないの?」
少し厳しい意見を言ったつもりだったが、ミルエルはまたも笑い声を上げた。
「ははっ……そうかもしれない。もっと勉強しておけば良かったよ。ジルみたいに」
「そうね。あなたは明らかに勉強の時間が足りなかった。いつも遊んでばかりで……いつも私に迷惑をかけて。だから私は……」
言葉が止まった。
私は……その続きに一体何を言おうとしていたのだろう。
「ジル? 大丈夫か?」
ミルエルが珍しく私を心配そうに見つめていた。
すぐに返答ができず、結局数秒かかってしまう。
「大丈夫よ。つまりその……もっと勉強をした方がいいということ」
「ああ……そうだな」
ミルエルは訝しそうに私を見ていた。
しかしすぐに小さく息をはくと、席を立つ。
「今日はそろそろ帰ると。ジルの顔を見ることもできたし……また来てもいいか?」
「ええ」
ミルエルが応接間を去ると、なぜか心臓がキュッと痛んだ。
胸に手を当てるもそれは収まらず、言い難い苦しみが襲ってくる。
「なにこれ……」
……その日からミルエルは毎日のように家を訪れてきた。
本当は仕事で忙しいはずなのに、なぜかこっちを優先しているようだった。
そんなになぜ家に来るの?
試しに聞いてみると、彼は「秘密」と珍しく嬉しそうに笑った。
その笑顔がなぜか、私の脳裏にいつまでも残っていた。
エルモンドと離婚して半年が過ぎた。
その日も、ミルエルは応接間にやってきた。
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