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「ブラック様。話があります」
ヨハンが寝静まった深夜。
ブラックが帰宅したタイミングを見計らって、私は彼の部屋をノックした。
少し遅れて「入れ」と疲れたような声が聞こえてくる。
「失礼します」
私が恐る恐る扉を開けると、椅子に腰を下ろしたブラックがいた。
ネクタイを外し、ワインを飲んでいた。
「何の用だエリザベス。僕は疲れているから手短にしろ」
彼は私の顔など見ずに、グラスに注がれたワインを見つめている。
「ではさっそく本題に入らせて頂きます。ブラック様、浮気していますよね?」
ブラックの目が大きく見開かれ、こちらを見つめた。
氷のように冷たい瞳だった。
「……何のことか分からない。僕は浮気なんてしていない」
微塵も動揺しないのが逆に怪しかった。
ブラックの眼光は恐怖を感じさせるほどに鋭かったが、私は勇気を出して次の言葉を放つ。
「ヨハンが見ていたんです。あなたがご友人のレベッカさんと寝室に入っていくのを……」
私がそう言うと、彼は顎に手を当て考え始めた。
きっと上手い言い訳でも考えているに違いない。
そう思ったからこそ、ブラックが言ったことに驚いた。
「そうか。あいつに見られていたとは……僕もまだまだだな。ははっ……」
「……は?」
なにこれ。
なんでこの人は笑っているの?
私とヨハンを裏切ったのよ、そしてそれがバレたのよ?
何がそんなに可笑しいの?
私の気持ちを察したようにブラックが苦笑しながら告げる。
「僕が素直に謝罪するとでも思ったのか?それとも馬鹿みたいに焦って隠蔽しようとするとでも?ははっ……それこそ馬鹿の考え方だな」
ブラックは椅子から立ち上がった。
こうして対面するのは久しぶりだ。
妙な緊張感に体が重くなった気がした。
「いいかエリザベス。僕は最初に言ったはずだ。お前はお飾りの妻なのだと、表面上最愛の妻を演じていればいいのだと」
初めてこの家にやって来た時のことが思い出される。
苦く、辛く、そして忌々しい記憶。
私は恐る恐る口を開く。
「しかし、だからといって浮気するのは……」
「いいんだよ」
「え?」
ブラックがニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「僕は公爵子息のブラックだ。お前みたいな平凡貴族が歯向かえる人間じゃない。この家では僕のすること為すことが絶対で、ルールだ。だから僕が浮気をしようがそれが罪になることはない」
「そんなの滅茶苦茶です!!!」
感情のまま叫ぶも、ブラックは呆れたように鼻を鳴らした。
「じゃあ全てを公表するか?僕はそれでもかまわないよ。ただヨハンはどうだろうな?どうせ君のことだから浮気しているとまでは言っていないのだろ?適当にごまかしているはずだ。あいつは悲しむだろうなぁ……家族がバラバラになったら」
「な……」
衝撃で言葉が出なかった。
この人は自分の息子を盾にして、自分の悪事を無かったことにしようとしているのか。
しかし、ヨハンがこの事実を知ったら悲しむであろうことは明白だった。
父親のいないヨハンのこれからを思うと、離婚という選択肢は懸命でない気がしてくる。
「エリザベス。これからも僕の最愛の妻を演じてくれ。分かったな?」
悔しさを滲ませながら、私は頷くしかなかった。
ヨハンが寝静まった深夜。
ブラックが帰宅したタイミングを見計らって、私は彼の部屋をノックした。
少し遅れて「入れ」と疲れたような声が聞こえてくる。
「失礼します」
私が恐る恐る扉を開けると、椅子に腰を下ろしたブラックがいた。
ネクタイを外し、ワインを飲んでいた。
「何の用だエリザベス。僕は疲れているから手短にしろ」
彼は私の顔など見ずに、グラスに注がれたワインを見つめている。
「ではさっそく本題に入らせて頂きます。ブラック様、浮気していますよね?」
ブラックの目が大きく見開かれ、こちらを見つめた。
氷のように冷たい瞳だった。
「……何のことか分からない。僕は浮気なんてしていない」
微塵も動揺しないのが逆に怪しかった。
ブラックの眼光は恐怖を感じさせるほどに鋭かったが、私は勇気を出して次の言葉を放つ。
「ヨハンが見ていたんです。あなたがご友人のレベッカさんと寝室に入っていくのを……」
私がそう言うと、彼は顎に手を当て考え始めた。
きっと上手い言い訳でも考えているに違いない。
そう思ったからこそ、ブラックが言ったことに驚いた。
「そうか。あいつに見られていたとは……僕もまだまだだな。ははっ……」
「……は?」
なにこれ。
なんでこの人は笑っているの?
私とヨハンを裏切ったのよ、そしてそれがバレたのよ?
何がそんなに可笑しいの?
私の気持ちを察したようにブラックが苦笑しながら告げる。
「僕が素直に謝罪するとでも思ったのか?それとも馬鹿みたいに焦って隠蔽しようとするとでも?ははっ……それこそ馬鹿の考え方だな」
ブラックは椅子から立ち上がった。
こうして対面するのは久しぶりだ。
妙な緊張感に体が重くなった気がした。
「いいかエリザベス。僕は最初に言ったはずだ。お前はお飾りの妻なのだと、表面上最愛の妻を演じていればいいのだと」
初めてこの家にやって来た時のことが思い出される。
苦く、辛く、そして忌々しい記憶。
私は恐る恐る口を開く。
「しかし、だからといって浮気するのは……」
「いいんだよ」
「え?」
ブラックがニヤリと不気味な笑みを浮かべた。
「僕は公爵子息のブラックだ。お前みたいな平凡貴族が歯向かえる人間じゃない。この家では僕のすること為すことが絶対で、ルールだ。だから僕が浮気をしようがそれが罪になることはない」
「そんなの滅茶苦茶です!!!」
感情のまま叫ぶも、ブラックは呆れたように鼻を鳴らした。
「じゃあ全てを公表するか?僕はそれでもかまわないよ。ただヨハンはどうだろうな?どうせ君のことだから浮気しているとまでは言っていないのだろ?適当にごまかしているはずだ。あいつは悲しむだろうなぁ……家族がバラバラになったら」
「な……」
衝撃で言葉が出なかった。
この人は自分の息子を盾にして、自分の悪事を無かったことにしようとしているのか。
しかし、ヨハンがこの事実を知ったら悲しむであろうことは明白だった。
父親のいないヨハンのこれからを思うと、離婚という選択肢は懸命でない気がしてくる。
「エリザベス。これからも僕の最愛の妻を演じてくれ。分かったな?」
悔しさを滲ませながら、私は頷くしかなかった。
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