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 その翌日。
 夫のダレンは私を部屋に呼びつけた。
 昨日の不倫現場がまだ脳内にこびりついていたが、私は何とかダレンの部屋の扉を開ける。

「やっと来たかエマ」

 そこにはニヤリと笑うダレンがいた。
 そして隣には、森の泉で昨日愛しあっていた令嬢がいた。
 いつの間に部屋に連れ込んだのだろう。

「……か、彼女は誰ですか?」

 恐る恐る口を開く。
 叶うことなら、昨日のあれが嘘であったと証明してほしい。
 彼女に魔法で操られていたんだと言って欲しい。
 しかし、ダレンは不気味な笑みを共に、私に告げる。

「彼女はウララ。僕の新しい妻だ」

 雷に打たれたように体に痛みを感じた。
 昨日のあの地獄の光景がフラッシュバックして、思わず吐きそうになる。
 口に手を当てその場にうずくまった私を、助ける者なんて誰もいなかった。

 全部真実だった。
 アーランが見せてくれたあれは夢ではなかった。
 ダレンは不倫をしていて、私は裏切られていたのだ。

「どうして……」

 しかし私は絶望の最中、何とか立ち上がる。
 床に這いつくばっていても何も変わらないから。
 ゾンビのように立ち上がった私を見て、ウララと呼ばれた女性は嫌悪感で顔をいっぱいにした。

「ダレン。この人なんか気持ち悪いよ?」

 初対面の人間に向かってなんて口をきくのだろう。
 礼儀のなっていない彼女に怒りは覚え、私は睨みつける。
 すると彼女は急に怯えた顔になって、ダレンの腕にしがみついた。

「きゃっ! 私今睨まれた! 恐ぁい!」

「おお、大丈夫かい? エマ! 初対面の人間を睨むなんて礼儀知らずめ! 恥を知れ!」

 どうやらウララが私を気持ち悪いと言ったのは、礼儀知らずにあたらないらしい。
 ダレンはその勢いのまま言葉を続ける。

「エマ。先ほども言ったように彼女は僕の新しい妻だ。つまりお前とは離婚させてもらう。いいな?」

 そんなにすぐに受け入れられるはずもなく、即答など出来なかった。
 しかし私は何とか口を開いて、言葉を発する。

「私のことは愛していないのですね?」

 するとダレンは頷き、ウララの肩を抱いた。

「お前は真面目で頭脳明晰な女だ。だから家の領地管理や会計業務も任せていた。しかし、お前はそれだけの女だ。経営手腕では合格かもしれないが、妻としては不合格だ。お前との三年間の結婚生活は本当につまらないものだったよ」

 ショックだった。
 政略結婚とはいえ、私たちは少しずつお互いのことを認めあっていたと思っていたから。 
 長い時間がかかっても幸せな家庭を作ることができれば、それで十分だと思っていたから。

 しかし、ダレンは私の生活に嫌気が差し、ウララと不倫をした。 
 そして彼女を新しい妻として迎え入れるというのだ。

「……分かりました」

 不思議と先ほどまでの絶望感は消え去っていた。
 色んなことが同時に起こり過ぎたせいで、感覚がマヒしてしまったのかもしれない。
 
「ふん、やっと了承したか。来週までに家は出ていけよ。分かったな?」

 もう何も感じない。
 この最低な元夫と、礼儀も知らない略奪女には。
 
「ええ、もちろんです。さようなら、旦那様」

 私が笑顔を繰り出したので、二人は驚いたように目を見開いた。
 私はそれ以上の言葉を紡ぐことはなく、部屋を後にした。
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