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アーサーが去ると、入れ違いで友人の使用人が駆けてきた。
彼女は私を心配そうに見つめ、手を握る。
「ローラ様……大丈夫ですか?」
「ええ、私は何とも……」
アーサーの父は彼女を見ると、礼を言うように微かに笑った。
「ローラよ。アーサーの浮気の件を私に教えてくれたのはそこの使用人だ。まあ、私以外の人間には流布していたようだがな。よい友人を持って良かったな」
「え……」
私が彼女を見ると、彼女は涙ながらに頷いた。
「あ、あの……」
今まで黙っていた、アーサーの浮気相手であるエレーナがおずおずと手を上げる。
「わ、私……用事があるのでそろそろ帰りますね……」
そう言ってソファから立ち上がるが、目の前にアーサーの父が立ちふさがった。
彼の凍てつくような鋭い眼光に、エレーナは「きゃっ!」と悲鳴を上げて、再びソファに座った。
「誰が帰っていいと言った?」
「あ……あ……す、すみません……」
エレーナは今にも卒倒しそうなほどに、顔面蒼白で、見ているこっちが気の毒になってくる。
しかしアーサーの父は容赦なく、彼女の頬にビンタをくらわした。
「きゃっ!!!!」
大袈裟に痛がるエレーナだが、誰も彼女を心配する声など上げない。
唯一声を出したのは、アーサーの父だった。
「エレーナよ……お前は妻帯者である私の息子と浮気をした……この意味が分かっておるのか? そこにいるローラに申し訳ないと思わんのか? どうなんだ!!」
彼の怒号に、エレーナは体をびくっと震わすと、私に顔を向けた。
「ご、ごめんなさい……こ、こんなつもりじゃなかったの……す、少しだけ……少しだけのつもりだったのよぉ……」
挙句の果てに子供のように泣きだしてしまったエレーナ。
私は彼女を見てため息をつくと、静かに口を開いた。
「私はあなたとアーサーのことを許せません。だから然るべき裁きを受けて頂きます。それでいいですね?」
私の言葉に、エレーナは何度も頷いた。
十分に反省しているようなので、私はそれ以上は何も言わずに、アーサーの父へ顔を向けた。
「アーサーを叱って頂きありがとうございました。このご恩は忘れません」
アーサーの父は首を横に振る。
「ローラ。本当に愚息が迷惑をかけた。申し訳ない。アーサーとは迅速に離婚として、正当な額の慰謝料を払う。もちろんエレーナにも払わせる。それで手を打ってはくれないだろうか?」
「……分かりました」
正直それ以上に求めるものは何も無かった。
罪を犯した人間に、正しい罰が下ればそれで良かった。
私がそう言うと、アーサーの父は頷き、エレーナを連れて応接間を後にした。
……一か月後。
アーサーと離婚した私は、実家に帰っていた。
浮気の果てに離婚となった私を、両親は快く迎えてくれて、落ち着くまでゆっくりしていればいいと言ってくれた。
しかしこのまま部屋に籠り続けていても意味がない気がして、私は部屋を飛び出し、庭に向かった。
庭につくと、綺麗に整えられた木々が風に揺らめいていた。
いつまでも変わらない実家の風景に、私は安心感を覚えて息をはく。
アーサーとの結婚で、私は絶望を味わった。
この心の傷はすぐには消えないだろうし、いつか私を苦しめるかもしれない。
しかし、それでも私は前を向いて歩かねばならない。
そうしなければ何も変わらないし、幸せになれるわけがないのだ。
「ローラ!!!」
父の声がして振り返る。
父は何やら手に紙を持っていた。
「ローラ……お前に縁談の申し込みが来た……もし良かったら顔合わせだけでもしてみないか?」
「縁談……」
アーサーとの一件を考えると、すぐには返事を出来ない私がいた。
しかし、前を向くと決めたのだ。
ここで怖気づいていてはいけない気がして、私は紙を手に取った。
そこには優しい笑顔の男性の写真があった。
「どうだローラ……もしお前が嫌だというのなら、すぐに返事はしなくても……」
「受けます」
堂々とした私の声に、父はふっと笑みをこぼす。
そんな父を見て、私も思わず笑顔になった。
温かな春の風が、私たちを包み込むように吹いていた……
彼女は私を心配そうに見つめ、手を握る。
「ローラ様……大丈夫ですか?」
「ええ、私は何とも……」
アーサーの父は彼女を見ると、礼を言うように微かに笑った。
「ローラよ。アーサーの浮気の件を私に教えてくれたのはそこの使用人だ。まあ、私以外の人間には流布していたようだがな。よい友人を持って良かったな」
「え……」
私が彼女を見ると、彼女は涙ながらに頷いた。
「あ、あの……」
今まで黙っていた、アーサーの浮気相手であるエレーナがおずおずと手を上げる。
「わ、私……用事があるのでそろそろ帰りますね……」
そう言ってソファから立ち上がるが、目の前にアーサーの父が立ちふさがった。
彼の凍てつくような鋭い眼光に、エレーナは「きゃっ!」と悲鳴を上げて、再びソファに座った。
「誰が帰っていいと言った?」
「あ……あ……す、すみません……」
エレーナは今にも卒倒しそうなほどに、顔面蒼白で、見ているこっちが気の毒になってくる。
しかしアーサーの父は容赦なく、彼女の頬にビンタをくらわした。
「きゃっ!!!!」
大袈裟に痛がるエレーナだが、誰も彼女を心配する声など上げない。
唯一声を出したのは、アーサーの父だった。
「エレーナよ……お前は妻帯者である私の息子と浮気をした……この意味が分かっておるのか? そこにいるローラに申し訳ないと思わんのか? どうなんだ!!」
彼の怒号に、エレーナは体をびくっと震わすと、私に顔を向けた。
「ご、ごめんなさい……こ、こんなつもりじゃなかったの……す、少しだけ……少しだけのつもりだったのよぉ……」
挙句の果てに子供のように泣きだしてしまったエレーナ。
私は彼女を見てため息をつくと、静かに口を開いた。
「私はあなたとアーサーのことを許せません。だから然るべき裁きを受けて頂きます。それでいいですね?」
私の言葉に、エレーナは何度も頷いた。
十分に反省しているようなので、私はそれ以上は何も言わずに、アーサーの父へ顔を向けた。
「アーサーを叱って頂きありがとうございました。このご恩は忘れません」
アーサーの父は首を横に振る。
「ローラ。本当に愚息が迷惑をかけた。申し訳ない。アーサーとは迅速に離婚として、正当な額の慰謝料を払う。もちろんエレーナにも払わせる。それで手を打ってはくれないだろうか?」
「……分かりました」
正直それ以上に求めるものは何も無かった。
罪を犯した人間に、正しい罰が下ればそれで良かった。
私がそう言うと、アーサーの父は頷き、エレーナを連れて応接間を後にした。
……一か月後。
アーサーと離婚した私は、実家に帰っていた。
浮気の果てに離婚となった私を、両親は快く迎えてくれて、落ち着くまでゆっくりしていればいいと言ってくれた。
しかしこのまま部屋に籠り続けていても意味がない気がして、私は部屋を飛び出し、庭に向かった。
庭につくと、綺麗に整えられた木々が風に揺らめいていた。
いつまでも変わらない実家の風景に、私は安心感を覚えて息をはく。
アーサーとの結婚で、私は絶望を味わった。
この心の傷はすぐには消えないだろうし、いつか私を苦しめるかもしれない。
しかし、それでも私は前を向いて歩かねばならない。
そうしなければ何も変わらないし、幸せになれるわけがないのだ。
「ローラ!!!」
父の声がして振り返る。
父は何やら手に紙を持っていた。
「ローラ……お前に縁談の申し込みが来た……もし良かったら顔合わせだけでもしてみないか?」
「縁談……」
アーサーとの一件を考えると、すぐには返事を出来ない私がいた。
しかし、前を向くと決めたのだ。
ここで怖気づいていてはいけない気がして、私は紙を手に取った。
そこには優しい笑顔の男性の写真があった。
「どうだローラ……もしお前が嫌だというのなら、すぐに返事はしなくても……」
「受けます」
堂々とした私の声に、父はふっと笑みをこぼす。
そんな父を見て、私も思わず笑顔になった。
温かな春の風が、私たちを包み込むように吹いていた……
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