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番外編

イタズラ1【verヴァン】

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 精霊に加護のある石というのは、精霊に気に入られた一族しか作り出せない。
 これは古くから伝わるもので、その一族も、世代によってはぷつりと途切れる事は多々ある。

 そのため、加護の石を生み出せる世代は国に、王に大事にされて然るべき存在なのである。

 加護付きの石というのは、その一族の意図を読み取って、精霊から授かるものなのである。
 その仕組みを知っているのは、代々この屋敷を受け継いだ者のみなのである——




「ん?」
 薄暗い洞窟の中、ホワホワと光が舞っている。
 普段から精霊の光と、地面に埋まった石の光でそれなりに明るいが、今日に限っては目の前に精霊の光の塊が集まっているため、手元がよく見えた。

 いつもであれば、光を帯びた部分から宝石を掘り出していくのだけれど、光の塊の中から小さな石がコロンと手の上に置かれた。
 
「宝石……?」

 手の上に置かれた石を、見ろと言わんばかりに精霊が全身でツンツンと突いてくる。
 全身と言っていいのかわからないが、小石ほどの大きさの光の塊がいくつかツン、と宝石や手にぶつかっては跳ね返る、というを続けている。
 


 手の中にある石をよく見れば、ピンクの中に、紫色が浮遊している。ころりと転がすごとに中の紫がとぷんと揺れた。
 こんな石は見たことがない。
 いや、見たことある気がするがそれはいつだったか。
 このような色ではなかったが、それも色が混ざっていた気がする。

 うっとりとするほどに美しい石に見惚れていると、精霊も隣でぴょんぴょんと跳ねる。

「どうしたの? ベリル」
「旦那様……それが、これを精霊に頂いたんです……なんでしょうか?」
「ちょっといいかい?」

 宝石を渡せば、旦那様はその宝石をまじまじと見る。しばらく転がして見ていたかと思うと「ピンクに、紫……?あっコレ……!」と焦ったような声で私と精霊を見た!

 そう言うと同時に、突如、眩い光が旦那様を中心にピカリと光り、私は眩しさで思わず目を閉じた。ボフン、と音が鳴り、次に目を開いた時には、あたり一面に光の粉が広がり、まるで卵のように旦那様を包みこんでいた。

 一瞬間、驚いて何もできずにいると、金の粉の卵がてっぺんからとろりと、とろけていった


 金の粉の卵の中から出てきたのは旦那様、ではなく、なんだか少し背も小さく、体が細くなった、幼い顔つきの、旦那様のような少年だった。



 気を失っている少年を、ベルさんやレオンさんの所に連れていくのは容易ではなかった。
 このおそらく旦那様であるだろう少年は、普段の旦那様に比べて、多少身長も低いし、体も細いようだったので、容易に運べるだろうとお姫様抱っこを試みたが、やはりそこは男の子だった。

 細いながらも筋肉がついているのかずしりと重い。
 背もおそらく今の旦那様よりは低いのだろうけれどそれでも私よりははるかに高い。

 仕方なく肩に腕を引っ掛けるようにして引き摺りながら運ぶと、ようやくベルさんやレオンさんのもとにたどり着いた時には、旦那様の服はドロドロになってしまっていた。
 二人とも驚いた様子で、ベルなんてクラクラと頭を回していた。
 しかしすぐに「着替えをお持ちします!」と準備を始めるとあっという間に旦那様を清潔な服に着替えさせることに成功した。

 もちろん着替えさせたのはレオンさんだ。
 「奥様が着替えさせますか?」なんて言っていたが、丁重にお断りした。そんなことをしたら、次に顔を合わせた時になんて顔をすればいいのかわからない。

 レオンんさんはニヤつきながらテキパキと、まるで魔法のようにパパパと着替えさせていたのでもしかしたらこの屋敷の人たちは魔法使いばかりなのかもしれない。


「ん、」

「旦那様?」

 ベッドに寝転んだ旦那様がみじろいだ。
 寝苦しそうに苦悶の表情を浮かべているので、額に浮かんだ汗を拭おうと手を伸ばし、ハンカチが額に触れた瞬間、パシリ、と腕が掴まれた。
 
 青い瞳と視線が合う。
 ベッドがきしり、としなる音と共に、旦那様がゆっくりと起き上がる。 

 その瞳はいまだに私を捉えている。
 そこには戸惑いと、疑心に満ちた色が映し出されている。


「君は、——誰だ?」

「え?」


 どうやら、体が縮んだ、のではなく、私のことも全く知らない時の子供時代に『戻った』ようだった。




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