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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第二章・勇者と冥王のママは酒場で魔王様と……7
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「ブレイラ、そろそろ行くぞ」
「そうですね、もう少しゆっくり歩きたかったですが……」
ブレイラは少し残念そうに言った。
ハウストもデートをしているうちに楽しくなってきたがフェリクトールに無理を言って出てきたのだ。目的を達成したら早く城に帰らなければならない。
「酒場で食事でもするか? 昼時だ、丁度いいだろう」
「え、酒場で昼食が食べられるんですか? まだお昼ですよ?」
ブレイラが目を丸める。
どうやら酒場は夜だけ開店すると思い込んでいたようだ。
「夜しか開かない店もあるが昼時に食事をだす店もある。そこに行けば酒場も見れるし、食事もできて丁度いい。デートの延長だな」
「延長! ぜひ行きたいです……!」
ブレイラが感激する。二人で食事に行くのもデートなのだ。
笑顔を浮かべるブレイラにハウストは目を細める。
「行くぞ、こっちだ」
「はい!」
ブレイラが大きく頷いて、繋いでいるハウストの手に力を込めた。
ぎゅっと力を込めて照れくさそうに、でも嬉しそうにハウストを見上げる。
ハウストは堪らない気持ちが込み上げて、愛しさのままブレイラの目元に口付けたのだった。
ハウストとブレイラは昼時でも開店している酒場に入った。
酒場に入ったブレイラは興味津々に店内を見回している。
ハウストは緊張と好奇心でソワソワするブレイラに苦笑し、「こっちだ」と窓辺のテーブル席へ促した。
「ここが酒場なんですね。想像していたより明るい雰囲気です」
「まあな」
ハウストはそう答えながら、さり気なく店内を一瞥して確認する。
まず店内にいる客層は一般的で、この酒場自体も娼館を併設している様子はない。メニューは昼用と夜用を分けているようで昼時は酒類も出していないようだ。
当たりだな、とハウストは内心安堵する。
偶然入った店だが大正解。あまり妙な店にブレイラを連れて行きたくなかったのだ。
「食べたいものはあるか?」
「えっと、その……」
ブレイラがメニューを見ながら困惑した顔になる。
ちらちらとハウストとメニューを交互に見て、いかにも迷っていますといったふうだ。
「遠慮するなよ、なんでもいいぞ」
なにを躊躇うことがあるのだろうか。店ごとほしいとねだられても叶えるつもりだというのに。
どれにする? と問いかけたハウストに、ブレイラが意を決したようにメニューを指差す。
「あの、……こ、これが……」
「どれだ。…………え?」
ハウストはメニューを凝視した。
そこにあったのは、大きなグラスにストローが二本差してあるジュースだった。しかもストローはハートの形をしていて、いかにもな雰囲気を演出している。
そう、それはメニュー本に特設ページが設けられた特製ジュース。『恋人同士専用』『二人の時間を熱く演出』『ラブラブな二人をもっとラブラブに』などとふざけた広告タイトルが躍っていた。おそらく酒を出さない昼時の目玉メニューなのだろう。
ハウストの顔が引き攣る。
……冗談はやめてくれ、俺にこれを飲めというのか。とばかりにハウストは頭が痛くなった。いくらブレイラの頼みでもこればかりは。だが。
「……専用、らしいですよ? ハウストと私はもう結婚していますが、好き合っているので飲めますよね?」
ブレイラが恥ずかしそうに、でも嬉しそうに聞いてきた。
長い睫毛に縁取られた琥珀の瞳を期待に輝かせて、頬が仄かに赤くなっている。
「ああ、飲めるに決まっている。これにしよう」
ハウストは即答した。迷いや困惑など消し飛んだ。
愛しい相手にこんな顔でねだられて否と答える男は世界に存在しない。ハウストも例外ではなかった。
「店主、注文したい」
ハウストは屈強な体躯の店主をテーブルに呼ぶと数品の料理とドリンクを注文した。もちろんドリンクはブレイラにねだられた恋人専用のジュースだ。
店主は意外そうな顔でハウストを見る。
その視線にハウストは無言で目を据わらせた。店主が言いたいことは分かっている。この浮かれたドリンクを飲むのか? お前が? と言いたいのだろう。そんなのは重々承知だ。
「……なにか問題でもあるのか?」
ハウストが低い声で言うと、「い、いいえ、ご注文承りました」と店主は下がっていった。
店主を見送りつつ内心舌打ちする。貴様こそ屈強な体躯に似合わぬメニューをと逆恨みする勢いだ。夜の酒場の店主としては似合いだが、昼時の浮かれたメニューのイメージとは程遠い。
ハウストは店主を遠目に睨んだが、目の前のブレイラが嬉しそうにしている姿に癒される。あの浮かれたドリンクには抵抗を覚えるが、それでも注文して良かった。
「まさか酒場で食事をする日がくるとは思いませんでした。私が想像していたような場所とは違っていたんですね。勘違いしていて、恥ずかしい……」
「気にするな、勘違いは誰にでもある。ここは友と酒を酌み交わし、語らい、日々の疲れを気軽に癒す場所というだけだ」
「あなたにとっても酒場はそういう場所だったんですか?」
「ああ、そうだ。俺も友との語らいと酒を純粋に楽しんでいた。嘘じゃないぞ?」
「そうでしたか。先代魔王の困難な時代に、あなたに少しでも安らげる場所があったことに安心しました」
「そういうことだ。今はお前がいる場所こそが俺の安らげる場所だがな」
「嬉しいことを」
「本気だ」
ハウストは身の潔白を主張するかのように力強く頷いた。
これをフェリクトールや先代魔王時代の戦友が見たら呆れかえっていただろうが、ハウストはブレイラの誤解さえ解ければいいのである。
「やはり私が耳にしたイスラの一件も根も葉もない噂だったのでしょう。たしかに出入りしているのかもしれませんが、ここは想像していたより健全な場所のようですから」
ブレイラは店内を見回してほっと安堵の表情になる。
昼時の店内は窓から明るい陽射しが差して、とても明るく健全な雰囲気だ。今まで酒場に対して懐疑的だったが今では「普通の料理屋のようですね」と安心しきっている。
ハウストはそれに対して否定も肯定もしなかった。
今はあくまで昼時であり、夜は夜でまったく別の雰囲気になるのだが、そんな事をわざわざ教えたくない。知る必要もない。夜の酒場など立ち入らせる気はさらさらないのだ。
「お待たせしました」
少しして店主が注文した品を運んできた。
テーブルに料理とドリンクを丁寧に並べていく。
ブレイラは目の前に置かれる一品一品に目を輝かせる。料理は店主の手作りのようだが、屈強な体躯に似合わぬ繊細な盛り付けの料理だ。
「美味しそうですね。ありがとうございます」
「ごゆっくりお過ごしください」
店主は一礼してカウンターへ戻っていった。
こうして料理が揃い、ブレイラがストロー二本のグラスをいそいそとテーブルの中央に持ってくる。
「ハウスト、これを」
「あ、ああ……」
ブレイラの期待に満ちた眼差しに、躊躇しながらも頷く。
大きなグラスにはハート型のストローが二本。丁寧にも吸い口はちゃんと互いの方に向いている。
ハウストは内心困惑するが、ブレイラの願いを無碍にできるはずがない。しかも先にブレイラの小さな唇がストローを咥えて恥ずかしそうに待っているのだから尚更だ。
どうぞと視線で促される。ハウストは意を決したように頷き、ゆっくりとストローを口にした。そして。
ちゅーーーーーーっ。
二人は至近距離で見つめ合ったままストローを吸う。グラスのジュースがみるみる減って、なぜかそれが妙に照れ臭い。
あっという間にグラスが空になって、ブレイラの唇から吐息とともにストローが離れる。一気にジュースを吸いこんだせいで呼吸が僅かに乱れ、ふぅっと漏れた吐息が妙に艶っぽかった。
…………これはこれで悪くないな。ハウストはふむと頷き、ストローから口を離した。
最初は冗談じゃないぞと思ったが、いざ二人で飲んでみるとなかなか悪いものじゃなかった。まず距離が良い。呼吸が届きそうな距離で見つめ合いながら、ブレイラは時折恥じらいに目を伏せ、横髪を耳に掛けて頬を赤らめながらストローを吸っていた。
そして二人で一つの作業をするというのも良かった。ただジュースを飲むだけだが特別な作業をしているように感じた。
それはブレイラも同じだったようで少し高揚した顔でハウストを見つめている。
「ハウスト、今すごくドキドキしています。一緒にジュースを飲んだだけなのに、こんなに楽しいなんて……」
「そうだな。俺も同じことを思っていた」
「ふふふ、一緒ですね」
ブレイラは嬉しそうに微笑すると窓から外を眺める。
大通りに面したそこからは賑やかな王都の光景が臨めた。その光景にブレイラはどこか遠い目をする。
「王都にはこんな楽しい場所があるのですね、知りませんでした。それに私は酒場に行ったこともなかったのに、今まで危険な場所だと決めつけて……。私が近づかなかった人間界の酒場も本当は思っていたような場所ではなかったのかもしれませんね」
ブレイラはそう言うと、ハウストに向き直って眩しそうに目を細める。
それは嬉しくて楽しくて、とても幸福なのだとハウストに伝えてくれる微笑だ。
「今日は初めての店に来て、初めての飲み物をハウストと飲むことができて嬉しいです。ありがとうございます」
「ブレイラ……」
ハウストはハッとする。
ハウストと出会う前のブレイラは人間界の片隅にある小国の山奥でひっそり暮らしていた。その暮らしも慎ましく、大人一人が生きていくのがやっとの生活だ。しかも孤児だったので近親者はなく、又、自分から他人と距離を縮める性格でもないので孤独だった。
そうして一人で山暮らしをしていたブレイラだったがハウストと愛しあうようになり、山暮らしから魔界の城暮らしへと環境が一変したのである。ブレイラが王都の民の暮らしを知らないのは当然だった。ブレイラが知るのは貧民層か王侯貴族の生活だけなのだから。
「そうですね、もう少しゆっくり歩きたかったですが……」
ブレイラは少し残念そうに言った。
ハウストもデートをしているうちに楽しくなってきたがフェリクトールに無理を言って出てきたのだ。目的を達成したら早く城に帰らなければならない。
「酒場で食事でもするか? 昼時だ、丁度いいだろう」
「え、酒場で昼食が食べられるんですか? まだお昼ですよ?」
ブレイラが目を丸める。
どうやら酒場は夜だけ開店すると思い込んでいたようだ。
「夜しか開かない店もあるが昼時に食事をだす店もある。そこに行けば酒場も見れるし、食事もできて丁度いい。デートの延長だな」
「延長! ぜひ行きたいです……!」
ブレイラが感激する。二人で食事に行くのもデートなのだ。
笑顔を浮かべるブレイラにハウストは目を細める。
「行くぞ、こっちだ」
「はい!」
ブレイラが大きく頷いて、繋いでいるハウストの手に力を込めた。
ぎゅっと力を込めて照れくさそうに、でも嬉しそうにハウストを見上げる。
ハウストは堪らない気持ちが込み上げて、愛しさのままブレイラの目元に口付けたのだった。
ハウストとブレイラは昼時でも開店している酒場に入った。
酒場に入ったブレイラは興味津々に店内を見回している。
ハウストは緊張と好奇心でソワソワするブレイラに苦笑し、「こっちだ」と窓辺のテーブル席へ促した。
「ここが酒場なんですね。想像していたより明るい雰囲気です」
「まあな」
ハウストはそう答えながら、さり気なく店内を一瞥して確認する。
まず店内にいる客層は一般的で、この酒場自体も娼館を併設している様子はない。メニューは昼用と夜用を分けているようで昼時は酒類も出していないようだ。
当たりだな、とハウストは内心安堵する。
偶然入った店だが大正解。あまり妙な店にブレイラを連れて行きたくなかったのだ。
「食べたいものはあるか?」
「えっと、その……」
ブレイラがメニューを見ながら困惑した顔になる。
ちらちらとハウストとメニューを交互に見て、いかにも迷っていますといったふうだ。
「遠慮するなよ、なんでもいいぞ」
なにを躊躇うことがあるのだろうか。店ごとほしいとねだられても叶えるつもりだというのに。
どれにする? と問いかけたハウストに、ブレイラが意を決したようにメニューを指差す。
「あの、……こ、これが……」
「どれだ。…………え?」
ハウストはメニューを凝視した。
そこにあったのは、大きなグラスにストローが二本差してあるジュースだった。しかもストローはハートの形をしていて、いかにもな雰囲気を演出している。
そう、それはメニュー本に特設ページが設けられた特製ジュース。『恋人同士専用』『二人の時間を熱く演出』『ラブラブな二人をもっとラブラブに』などとふざけた広告タイトルが躍っていた。おそらく酒を出さない昼時の目玉メニューなのだろう。
ハウストの顔が引き攣る。
……冗談はやめてくれ、俺にこれを飲めというのか。とばかりにハウストは頭が痛くなった。いくらブレイラの頼みでもこればかりは。だが。
「……専用、らしいですよ? ハウストと私はもう結婚していますが、好き合っているので飲めますよね?」
ブレイラが恥ずかしそうに、でも嬉しそうに聞いてきた。
長い睫毛に縁取られた琥珀の瞳を期待に輝かせて、頬が仄かに赤くなっている。
「ああ、飲めるに決まっている。これにしよう」
ハウストは即答した。迷いや困惑など消し飛んだ。
愛しい相手にこんな顔でねだられて否と答える男は世界に存在しない。ハウストも例外ではなかった。
「店主、注文したい」
ハウストは屈強な体躯の店主をテーブルに呼ぶと数品の料理とドリンクを注文した。もちろんドリンクはブレイラにねだられた恋人専用のジュースだ。
店主は意外そうな顔でハウストを見る。
その視線にハウストは無言で目を据わらせた。店主が言いたいことは分かっている。この浮かれたドリンクを飲むのか? お前が? と言いたいのだろう。そんなのは重々承知だ。
「……なにか問題でもあるのか?」
ハウストが低い声で言うと、「い、いいえ、ご注文承りました」と店主は下がっていった。
店主を見送りつつ内心舌打ちする。貴様こそ屈強な体躯に似合わぬメニューをと逆恨みする勢いだ。夜の酒場の店主としては似合いだが、昼時の浮かれたメニューのイメージとは程遠い。
ハウストは店主を遠目に睨んだが、目の前のブレイラが嬉しそうにしている姿に癒される。あの浮かれたドリンクには抵抗を覚えるが、それでも注文して良かった。
「まさか酒場で食事をする日がくるとは思いませんでした。私が想像していたような場所とは違っていたんですね。勘違いしていて、恥ずかしい……」
「気にするな、勘違いは誰にでもある。ここは友と酒を酌み交わし、語らい、日々の疲れを気軽に癒す場所というだけだ」
「あなたにとっても酒場はそういう場所だったんですか?」
「ああ、そうだ。俺も友との語らいと酒を純粋に楽しんでいた。嘘じゃないぞ?」
「そうでしたか。先代魔王の困難な時代に、あなたに少しでも安らげる場所があったことに安心しました」
「そういうことだ。今はお前がいる場所こそが俺の安らげる場所だがな」
「嬉しいことを」
「本気だ」
ハウストは身の潔白を主張するかのように力強く頷いた。
これをフェリクトールや先代魔王時代の戦友が見たら呆れかえっていただろうが、ハウストはブレイラの誤解さえ解ければいいのである。
「やはり私が耳にしたイスラの一件も根も葉もない噂だったのでしょう。たしかに出入りしているのかもしれませんが、ここは想像していたより健全な場所のようですから」
ブレイラは店内を見回してほっと安堵の表情になる。
昼時の店内は窓から明るい陽射しが差して、とても明るく健全な雰囲気だ。今まで酒場に対して懐疑的だったが今では「普通の料理屋のようですね」と安心しきっている。
ハウストはそれに対して否定も肯定もしなかった。
今はあくまで昼時であり、夜は夜でまったく別の雰囲気になるのだが、そんな事をわざわざ教えたくない。知る必要もない。夜の酒場など立ち入らせる気はさらさらないのだ。
「お待たせしました」
少しして店主が注文した品を運んできた。
テーブルに料理とドリンクを丁寧に並べていく。
ブレイラは目の前に置かれる一品一品に目を輝かせる。料理は店主の手作りのようだが、屈強な体躯に似合わぬ繊細な盛り付けの料理だ。
「美味しそうですね。ありがとうございます」
「ごゆっくりお過ごしください」
店主は一礼してカウンターへ戻っていった。
こうして料理が揃い、ブレイラがストロー二本のグラスをいそいそとテーブルの中央に持ってくる。
「ハウスト、これを」
「あ、ああ……」
ブレイラの期待に満ちた眼差しに、躊躇しながらも頷く。
大きなグラスにはハート型のストローが二本。丁寧にも吸い口はちゃんと互いの方に向いている。
ハウストは内心困惑するが、ブレイラの願いを無碍にできるはずがない。しかも先にブレイラの小さな唇がストローを咥えて恥ずかしそうに待っているのだから尚更だ。
どうぞと視線で促される。ハウストは意を決したように頷き、ゆっくりとストローを口にした。そして。
ちゅーーーーーーっ。
二人は至近距離で見つめ合ったままストローを吸う。グラスのジュースがみるみる減って、なぜかそれが妙に照れ臭い。
あっという間にグラスが空になって、ブレイラの唇から吐息とともにストローが離れる。一気にジュースを吸いこんだせいで呼吸が僅かに乱れ、ふぅっと漏れた吐息が妙に艶っぽかった。
…………これはこれで悪くないな。ハウストはふむと頷き、ストローから口を離した。
最初は冗談じゃないぞと思ったが、いざ二人で飲んでみるとなかなか悪いものじゃなかった。まず距離が良い。呼吸が届きそうな距離で見つめ合いながら、ブレイラは時折恥じらいに目を伏せ、横髪を耳に掛けて頬を赤らめながらストローを吸っていた。
そして二人で一つの作業をするというのも良かった。ただジュースを飲むだけだが特別な作業をしているように感じた。
それはブレイラも同じだったようで少し高揚した顔でハウストを見つめている。
「ハウスト、今すごくドキドキしています。一緒にジュースを飲んだだけなのに、こんなに楽しいなんて……」
「そうだな。俺も同じことを思っていた」
「ふふふ、一緒ですね」
ブレイラは嬉しそうに微笑すると窓から外を眺める。
大通りに面したそこからは賑やかな王都の光景が臨めた。その光景にブレイラはどこか遠い目をする。
「王都にはこんな楽しい場所があるのですね、知りませんでした。それに私は酒場に行ったこともなかったのに、今まで危険な場所だと決めつけて……。私が近づかなかった人間界の酒場も本当は思っていたような場所ではなかったのかもしれませんね」
ブレイラはそう言うと、ハウストに向き直って眩しそうに目を細める。
それは嬉しくて楽しくて、とても幸福なのだとハウストに伝えてくれる微笑だ。
「今日は初めての店に来て、初めての飲み物をハウストと飲むことができて嬉しいです。ありがとうございます」
「ブレイラ……」
ハウストはハッとする。
ハウストと出会う前のブレイラは人間界の片隅にある小国の山奥でひっそり暮らしていた。その暮らしも慎ましく、大人一人が生きていくのがやっとの生活だ。しかも孤児だったので近親者はなく、又、自分から他人と距離を縮める性格でもないので孤独だった。
そうして一人で山暮らしをしていたブレイラだったがハウストと愛しあうようになり、山暮らしから魔界の城暮らしへと環境が一変したのである。ブレイラが王都の民の暮らしを知らないのは当然だった。ブレイラが知るのは貧民層か王侯貴族の生活だけなのだから。
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