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第十一章:変化していく距離感
60:偽りの甘い舞台
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音のない室内に、ルカの声だけが響く。スーはしゃきーんと背筋を伸ばした。
「はい! ありがとうございます!」
「スー、今夜はこのまま私に委ねてください」
「え?」
「あなたを抱きたい」
ジャジャジャ、ジャーン!
スーの脳裏で、突如、重厚な楽曲が再生された。
衝撃のあまり、口から魂が半分ほど飛び出てしまう。瀕死の破壊力だった。
絶好の機会だと思うものの、突然目の前に築かれた大人の階段には、異常な段差があった。登るには一段が高すぎる。
「あ、あの……」
「あなたが欲しい」
(あなたが欲しい!?)
思わず心の声が鸚鵡返しになる。
(あなたって、わたし? 本当にわたしのこと?)
これ以上はないほど率直に口説かれて、スーは舞い上がっていた魂が逆にストンと着地した。そんなことがあるはずがない。官能的な舞台から、あっというまに我に返る。
(ルカ様は完全に正気じゃないわ! 酔っておられるのよ!)
わかりきっていたことに改めて気づく。
「あの! ルカ様はお疲れのようなので、本日はもうお休みになった方がよろしいのではないかと思います!」
流されそうな雰囲気を変えるために、わざと元気よく宣言するとルカが頷く。
「そうですね、スーを抱いて一緒に休みます」
「え!?」
長椅子から立ち上がると、ルカは酔っているとは思えないような力強さで、スーの膝裏に腕を通して抱き上げた。
「ルカ様!?」
状況を把握する前に、スーは奥の寝台に連れ込まれてしまう。ルカは寝台にスーを横たえると、邪魔だと言いたげにバサリとシャツを脱ぎ捨てた。
「ひっ!?」
スーは声が裏返る。何も纏わずむき出しになった上半身は、想像以上に筋肉質で逞しい。
(ぎゃーーーーー!)
咄嗟に視線を逸らしたが、スーはうろたえながらも、引き締まった体を脳内にがっつりと刻み込んだ。
(ルカ様は着痩せするんだわ!っていうか、さすが軍人! いや、違う! 酔ったルカ様を相手に既成事実を作るみたいなやり方は、公平じゃない!)
期待と不安で頭が大混乱しているが、スーはこの先の展開をあれこれと考える。
スーが妃になるまで手を出さないと表明していたことを思い出す。
(ルカ様にはルカ様の考えがあるはずだわ。酔った勢いでルカ様に襲ってもらうなんて絶対によくないはず!)
一線を超えてはいけないと答えをはじき出してみたものの、ルカは容赦なくスーを組み敷いてしまう。
逃がさないと言いたげに、スーを挟むように寝台に両手をついた。長く美しい金髪が、スーの頬に落ちかかってくる。
雄の色気があふれ出たルカには、太刀打ちできない迫力があった。
手篭めにされそうになっているのは自分だと、スーは急に焦る。
(どうする? ルカ様を殴り飛ばして逃げる?)
物騒な提案をしてみるものの、大好きな顔面に拳をめり込ませるのは気が進まない。
(とりあえず抜け出して、逃げておこう)
隙を狙って身動きすると、ルカが素早くスーの手首を掴んで寝台に縫い留めるように押さえつけた。
(あ!)
スーはぎくりと気づく。ルカは完全に馬乗りの状態になっている。これでは逃げようにも逃げられない。圧倒的に不利な体勢である。
(これはまずいわ!)
力比べになってしまうと、ルカに勝てるはずもない。退路を絶たれていることに気づくと、急に鼓動が早鐘のように打った。
「スー? 逃げないでください。力を抜いて」
「ルカ様! とにかく今日はもうお休みになった方が!」
「そんな脱がせやすそうなものを着ていて、一緒に眠るだけですか? こんなに肌を見せて誘っておいて? あり得ない」
「ルカ様は酔っぱらっておられます!」
「ええ。今日はかなり飲みました。もう何も考えたくない」
「考えてください!」
「では、あなたを抱くことだけ考えます」
組み敷いたまま、ルカがスーの首筋から胸元へと、つうっと指先を滑らせる。
(ぎゃーーーーー!)
固く目を閉じてスーは覚悟を決める。いずれ妃になるのだ。早いか遅いかだけの問題だと、自分に言い聞かせる。
甘く素敵な夜が訪れるにちがいない。夢のようなひとときに向けて、潔く大人の階段を登ろうとすると、ルカの吐息が触れていた首筋に、熱が灯るような仄かな痛みが走った。熱い手が体に触れる。
(ぎゃーーーーー!)
逞しい体がずっしりとスーにのしかかってきた。ついにルカと結ばれるのだと思いながら目を閉じて固まっていると、それきり何の気配もない。
しばらくすると、すうっと穏やかな呼吸が聞こえてくる。
スーがおそるおそる様子をうかがうと、自分にのしかかったままルカが目を閉じている。
眠っているのだ。
一気に緊張がとけて、スーはほっと心の底から大きく息をついた。
(良かったような、残念だったような……)
複雑な気持ちで、目前にあるルカの顔を眺める。
(やっぱりお疲れなんだわ。毎日お忙しそうだし)
スーはルカの金髪に触れて、指先ですくように動かす。柔らかくなめらかな髪質だった。指先でほどけて、スーの手からさらりと流れ落ちる。
(まつげも長いし、綺麗なお肌。本当に完璧な造形のお顔をされているんだわ)
じっくりとルカの顔を観察してから、スーはごそごそと身動きする。ルカの隣に寄り添うと、そっと体に腕を回した。ぎゅうっとしがみつくと彼の鼓動が響いてくる。頬を寄せた体は熱くて逞しい。
(あたたかい)
大胆なことをしていると気恥ずかしくなりながらも、ルカの体温を感じていられるのは幸せだった。
(せっかくだから、この状態を堪能してから部屋に戻ろう)
目を閉じてルカの鼓動に耳をすます。うっとりと浸っている間に、スーも温もりに抱かれてウトウトしてしまう。部屋に戻らなければいけないと思いながら、そのまま眠りに落ちた。
「はい! ありがとうございます!」
「スー、今夜はこのまま私に委ねてください」
「え?」
「あなたを抱きたい」
ジャジャジャ、ジャーン!
スーの脳裏で、突如、重厚な楽曲が再生された。
衝撃のあまり、口から魂が半分ほど飛び出てしまう。瀕死の破壊力だった。
絶好の機会だと思うものの、突然目の前に築かれた大人の階段には、異常な段差があった。登るには一段が高すぎる。
「あ、あの……」
「あなたが欲しい」
(あなたが欲しい!?)
思わず心の声が鸚鵡返しになる。
(あなたって、わたし? 本当にわたしのこと?)
これ以上はないほど率直に口説かれて、スーは舞い上がっていた魂が逆にストンと着地した。そんなことがあるはずがない。官能的な舞台から、あっというまに我に返る。
(ルカ様は完全に正気じゃないわ! 酔っておられるのよ!)
わかりきっていたことに改めて気づく。
「あの! ルカ様はお疲れのようなので、本日はもうお休みになった方がよろしいのではないかと思います!」
流されそうな雰囲気を変えるために、わざと元気よく宣言するとルカが頷く。
「そうですね、スーを抱いて一緒に休みます」
「え!?」
長椅子から立ち上がると、ルカは酔っているとは思えないような力強さで、スーの膝裏に腕を通して抱き上げた。
「ルカ様!?」
状況を把握する前に、スーは奥の寝台に連れ込まれてしまう。ルカは寝台にスーを横たえると、邪魔だと言いたげにバサリとシャツを脱ぎ捨てた。
「ひっ!?」
スーは声が裏返る。何も纏わずむき出しになった上半身は、想像以上に筋肉質で逞しい。
(ぎゃーーーーー!)
咄嗟に視線を逸らしたが、スーはうろたえながらも、引き締まった体を脳内にがっつりと刻み込んだ。
(ルカ様は着痩せするんだわ!っていうか、さすが軍人! いや、違う! 酔ったルカ様を相手に既成事実を作るみたいなやり方は、公平じゃない!)
期待と不安で頭が大混乱しているが、スーはこの先の展開をあれこれと考える。
スーが妃になるまで手を出さないと表明していたことを思い出す。
(ルカ様にはルカ様の考えがあるはずだわ。酔った勢いでルカ様に襲ってもらうなんて絶対によくないはず!)
一線を超えてはいけないと答えをはじき出してみたものの、ルカは容赦なくスーを組み敷いてしまう。
逃がさないと言いたげに、スーを挟むように寝台に両手をついた。長く美しい金髪が、スーの頬に落ちかかってくる。
雄の色気があふれ出たルカには、太刀打ちできない迫力があった。
手篭めにされそうになっているのは自分だと、スーは急に焦る。
(どうする? ルカ様を殴り飛ばして逃げる?)
物騒な提案をしてみるものの、大好きな顔面に拳をめり込ませるのは気が進まない。
(とりあえず抜け出して、逃げておこう)
隙を狙って身動きすると、ルカが素早くスーの手首を掴んで寝台に縫い留めるように押さえつけた。
(あ!)
スーはぎくりと気づく。ルカは完全に馬乗りの状態になっている。これでは逃げようにも逃げられない。圧倒的に不利な体勢である。
(これはまずいわ!)
力比べになってしまうと、ルカに勝てるはずもない。退路を絶たれていることに気づくと、急に鼓動が早鐘のように打った。
「スー? 逃げないでください。力を抜いて」
「ルカ様! とにかく今日はもうお休みになった方が!」
「そんな脱がせやすそうなものを着ていて、一緒に眠るだけですか? こんなに肌を見せて誘っておいて? あり得ない」
「ルカ様は酔っぱらっておられます!」
「ええ。今日はかなり飲みました。もう何も考えたくない」
「考えてください!」
「では、あなたを抱くことだけ考えます」
組み敷いたまま、ルカがスーの首筋から胸元へと、つうっと指先を滑らせる。
(ぎゃーーーーー!)
固く目を閉じてスーは覚悟を決める。いずれ妃になるのだ。早いか遅いかだけの問題だと、自分に言い聞かせる。
甘く素敵な夜が訪れるにちがいない。夢のようなひとときに向けて、潔く大人の階段を登ろうとすると、ルカの吐息が触れていた首筋に、熱が灯るような仄かな痛みが走った。熱い手が体に触れる。
(ぎゃーーーーー!)
逞しい体がずっしりとスーにのしかかってきた。ついにルカと結ばれるのだと思いながら目を閉じて固まっていると、それきり何の気配もない。
しばらくすると、すうっと穏やかな呼吸が聞こえてくる。
スーがおそるおそる様子をうかがうと、自分にのしかかったままルカが目を閉じている。
眠っているのだ。
一気に緊張がとけて、スーはほっと心の底から大きく息をついた。
(良かったような、残念だったような……)
複雑な気持ちで、目前にあるルカの顔を眺める。
(やっぱりお疲れなんだわ。毎日お忙しそうだし)
スーはルカの金髪に触れて、指先ですくように動かす。柔らかくなめらかな髪質だった。指先でほどけて、スーの手からさらりと流れ落ちる。
(まつげも長いし、綺麗なお肌。本当に完璧な造形のお顔をされているんだわ)
じっくりとルカの顔を観察してから、スーはごそごそと身動きする。ルカの隣に寄り添うと、そっと体に腕を回した。ぎゅうっとしがみつくと彼の鼓動が響いてくる。頬を寄せた体は熱くて逞しい。
(あたたかい)
大胆なことをしていると気恥ずかしくなりながらも、ルカの体温を感じていられるのは幸せだった。
(せっかくだから、この状態を堪能してから部屋に戻ろう)
目を閉じてルカの鼓動に耳をすます。うっとりと浸っている間に、スーも温もりに抱かれてウトウトしてしまう。部屋に戻らなければいけないと思いながら、そのまま眠りに落ちた。
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