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しおりを挟むパルテ伯爵令嬢ヴィッテは無謀にも公爵令息ディートに告白をして振られた。
ヴィッテは以前、階段を踏み外して落ちそうになったところをディートに助けられたことがある。
彼の方が痛い思いをしたはずなのに、問題ないという素っ気ない態度に心惹かれた。
自分でも、ナニソレ?って思うけどね。
お礼にハンカチを渡して会話をしたかったけれど、公爵家に取り入りたい一人だと思われて相手にしてもらえなかった。
それでもヴィッテはディートをこっそり見ていた。
あからさまな視線は向けたことがない。
告白するつもりもないし、叶わない恋だとわかっているから。
状況が変わったのは少し前。
お父様が暴漢に襲われたところを、通りがかったある侯爵様に助けられた。
実際に助けたのは護衛なんだけど。
お父様は感謝して、是非ともお礼をというと侯爵様の次男と私を婚約させたいと言い出した。
しかも、息子を伯爵家に入れるという。
うちには弟がいるのですが?
うちの伯爵家は事業が上手くいっており、まぁ、お金持ち。
侯爵様は息子を通じて、お金を融通してもらおうとしているようだった。
さすがにそれは困ると父が断ると、助けた恩を返さない薄情な伯爵家だと言いふらすと脅され、事業に関係しているところとの取引が続かないと脅され、また暴漢に襲われると脅され、高位貴族からの正式な婚約の申し込みを断るのかと脅された。
ここまでくると、暴漢も仕込みで助けたのも仕込みだと誰だって理解する。
でも、証拠もないし、脅しを訴えても誰も動いてくれないだろう。
家族や事業に被害が出る前にできることは婚約を認めることしかなかった。
そして、結婚までに婚約破棄できる何かを掴むしかない。
ひとまず、そういう方向でいくと家族で話し合った。
その前に、好きな人に告白したい。
振られるのは想定していた。
ヴィッテはディートが一人になる時を見計らい、話があると声をかけた。
「ディート様。あなたが好きです。付き合ってくれませんか?」
「……悪いが断る。」
「そうですよね。わかりました。ありがとうございました。」
以上、ヴィッテの恋は終了した。清々しい笑顔でヴィッテはディートの前から去った。
残されたのは呆気にとられたディート。
告白と断ると、泣かれたり、縋られたり、抱きつかれたり、怒られたり?
悔しそうでもなく、悲しそうでもなく、あっさりと笑顔で去っていく令嬢は初めてだった。
ディートはヴィッテに見覚えがあった。
確か、階段で落ちそうになっていたところを咄嗟に助けた令嬢だった。
片方の腕でヴィッテを、もう片方で手すりを掴んだ。
さすがに、手すりを掴んだ腕が痛んだので覚えていた。
……胸の柔らかさと大きさ、腰の細さも覚えていたが。
お礼を、と何かを渡されそうになったけど、受け取らないことにしている。
前例を作ると、何を押し付けられるかわからないから。
今の告白は彼女の意思か?それにしては笑顔で去ったけど。
じゃあ、家から指示されたか?だとしたら、あっさり去ったのも謎だけど。
告白を受けていたらどうなっていたんだろう?と今までにない考えが頭に浮かんだ。
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