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ルキウスと結婚したソフィアナは、父から『ディオン殿下の名前を口にしてはいけない』と言いつけられていた。

お腹の中の子供がディオンの子供だと口にすると大変なことになるからだ。

お腹の中の子供はルキウスとの子供。それを忘れないように、と。


ソフィアナも、さすがにそれはわかっているので一度も口にしたことはない。心の中で思うだけだった。

侯爵家の使用人は、ソフィアナの記憶のことはピア以外知らない。
侯爵公認で、ルキウスがソフィアナのお世話をしていたことは誰もが知っており、ソフィアナの傷心を慰めたのがルキウスだとわかっているので、お腹の子供もルキウスの子供だとわかっている。

社交界でも、ディオンとの婚約解消から次の結婚が早いことを、『再び婚約して解消されることを恐れたため』と説明しているので、さほど噂にはならなかった。妊娠と入籍のどちらが早いか、とは言われたが。

つまり、ディオンの子供だと思っているのは自分で記憶を改ざんしたソフィアナだけ。

なので、特に問題はなかった。



ソフィアナにはルキウスと親しくなっていた記憶がない。

それに、お腹の子供に夢中で、妊娠中にルキウスとの時間はほとんど取らなかった。

やがて産まれたライリーは、もちろんルキウスの実子。
ルキウスは遠慮することなく可愛がった。
ソフィアナはそれを不思議に思ったが子供が好きなのだろうと深く考えなかった。

そして、ライリーを通してルキウスとソフィアナの接する時間も増える。

ルキウスは、単なる形だけの夫から頼れる兄くらいの関係を築こうと距離を縮めた。
いつしか、ソフィアナが段々とルキウスを見る時間が長くなる。

記憶を改ざんしたまま、ライリーがディオンの子供だと思い込んだままでもいい。
それでも形だけでなく、夫婦になれる可能性があるのではないか。
 
そう思い、ルキウスは徐々にソフィアナとの距離を縮め続けたのだ。


「思い出して、どう?僕と離婚したい?ディオン殿下にまだ未練がある?」


いつの間にか、ルキウスはソフィアナにピッタリと寄り添って手を握っていた。
座った時は少し距離を空けたはずなのに。
そして自分も寄り添うようにルキウスの熱を当たり前のように感じていた。

それを違和感がないと思えるほど、最近の二人の距離は近かったのだ。

もちろん、ルキウスは何があっても逃がさないつもりで隣に座らせたのだが。


「ディオン様に未練はもうないわ。さっき言ったでしょ?あなたが教えてくれたって。
あの人の行為は暴力的だったわ。初めての私にはそれがわからなかった。痛くて辛くてそれが当たり前なのだと思っていたの。だけど、あなたとの行為は違った。優しく包まれて気持ちよくて、愛を感じたわ。
ディオン様はそれがなかった。帰る時なんて、今思えばさっさと逃げようとした感じだったわ。元気で?さよなら?名残惜しさも何もない別れに、私もどこか騙された気がしていたの。それを認めたくなかった。だから妊娠していることに縋った。育てる約束に縋ったのよ。バカよね。」
 

自嘲するように言ったソフィアナを、ルキウスは抱き上げて自分の膝に乗せた。


「ソフィがそれまで殿下に向けていた気持ちが強かった証拠だ。それは悪くない。悪いのは殿下だ。
僕はソフィを愛している。離婚したくないし、できれば形だけの夫婦ではなく本当の夫婦になりたい。」

「ルキウス様………嬉しい。私もあなたを愛しているわ。だから思い出せたの。」


ルキウスに好意を抱き始めたことを自分が認めたことで、深く考えないようにしていたことを逃げてはいけないと思えるようになったのだ。

ルキウスの膝の上で、二人はキスを繰り返した。

そのキスは、ソフィアナのベッドの上で深いものとなり、やがて体も一つに交わった。



翌日からは夫婦の寝室が整えられて、二人は毎晩一緒に眠ることになった。


 



 
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