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翌日、ジェファーソン先生と息子の若先生がクルーシャ伯爵家を訪れた。


「わざわざこちらまでお越しいただくことになり、お手数をおかけします。」

「いえいえ、お呼び下さればどこにでも参りましょう。サラーナ様とは長い付き合いですからね。」
 

ジェファーソン先生は、元は侯爵家の次男だったらしい。医師になりたくてその道に進んだ。
奥様も貴族だったらしく、こうして貴族の主治医や時々平民も診ているらしい。
若先生はサラーナよりも5歳年上で現在23歳。クルズという。

数年前から、見習いとしてジェファーソン先生について習い、昨年からは一人でも診ているという。
サラーナの元に往診に来るのは、最近ではクルズ先生の方が多かった。
なぜなら、特に病気ではないサラーナの元を訪れると、息抜きができることと美味しいお茶とお菓子が出てくるから、らしい。
 
 
「サラーナ様の往診は、息子のクルズに任せようと思っています。」

「クルズと申します。よろしくお願いいたします。」

「よろしく頼む。」
 

ゲオルド様が答えた。挨拶をすると言っていた夫は、本当に同席した。
これも契約の一環だからかしら?夫人として扱うという項目の。

そこまで頑張ってくれなくてもいいのですけどね?線引きがわからないわ。

伯爵夫人はゲオルド様を気の利かない男だと言っていた。
気の利かないというのとは少し意味合いは違うけれど、彼はわかっていないだろう。

普通、結婚翌日の朝に来客を許可するべきではない。
通常であれば、昨夜は初夜で翌朝はのんびり過ごすものとされている。
 
しかも医師を招いては、初夜がなかったことなどお見通しなのでは?と思ってしまうのは考えすぎだろうか。

初夜がなかったことは事実でそういう契約だから私は構わないのだけど。
 
毎月の往診予定日を確認して、ジェファーソン先生たちは帰って行った。 




伯爵夫人改めお義母様の命令により、夜会用のドレスとお茶会用のドレスを何着も仕立てた。

サラーナが持って来ていたドレスではどこにも行けないからだ。

そもそも、親から社交を禁止されていたサラーナはドレスを仕立てる必要もなく、日常で着る服があれば十分だったから実家から持って来なかったのではなく、もともと持っていなかったのだ。

ドレスを持っていないと聞くと、貧乏なのか、あるいは虐待か、と疑われそうだがどちらでもない。
いや、ある意味、過保護すぎたという虐待だったのかもしれない。

その犠牲者はサラーナと弟のリックス。

病弱だからと大事にされすぎた姉と、元気だからと甘えることも許されず放っておかれた弟。

サラーナがいなくなったあの家族は、今頃どう過ごしているのだろうか。

リックスのことを何も知らない両親は、弟とどういう会話をするのだろうか。

少し覗いてみたい気がする。 
 
 

 
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