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しおりを挟むクルーシャ伯爵家での新生活は思った以上に自由だった。
先回りしてあれこれダメ出しをする両親がいないのだ。
言いつけに従いサラーナを部屋に戻そうと困った顔をする使用人もいない。
侍女一人連れて来なかったことで話し相手もいないかもしれないと思っていたけれど、そんなことはない。
侍女のエマとニーナはいろいろと教えてくれるし話をしていても楽しい。
なんて幸せで楽な契約結婚なのでしょう。
「サラーナさん、お茶会に招待されたので一緒に行きましょうね。」
「はい。」
お義母様の言葉に了承したが、私を連れて歩いて問題ないのかしら。
義母の知り合いならゲオルド様の愛人のことも知っているだろうから、まぁ、いいかな?
なんて思いながら出席したお茶会は、少し年齢層が高かった。
それも当然。夫のゲオルド様は私より9歳年上なので、義母の年代は実家の母よりも年上になる。
そしてその子供たちも私よりも年上になるので、娘や嫁も私より年上ばかりなのだ。
ゲオルド様との結婚の話については、誰も触れることなく子供や孫、趣味の話などで盛り上がった。
「このハンカチ、素敵だわ!」
サラーナが刺繍してレース編みをしたハンカチをある夫人が絶賛してくれた。
無地のハンカチに刺繍をし、その上にもう一枚レースを重ねたハンカチだった。
透けて見える刺繍の色が控えめに見えることで、使いにくい色も使える。
「すごいわ。これってドレスのデザインでも使えそう。
ねぇ、サラーナさん、このハンカチお借りできないかしら?悪いようにはしないわ。」
「よろしければ差し上げます。まだ使っていないものですので。」
「そう?では有難くいただくわね。どうなるかわからないけれど、楽しみにしていてね。」
意味がわからなかったので笑顔で応えたけれど、後で義母が教えてくれた。
あの夫人はこの国で一番大きな商会と繋がりがあるらしく、目新しいものや需要がありそうなものをデザイナーに見せているのだという。物によっては流行を作り、ドレスメーカーや夫人物の小物と幅広く使用されることになる。
「発案者としてかなりの報酬になるかもしれないわ。素晴らしいことよ。」
「……暇に飽かして作っただけなのに。」
家から出れなければ、部屋でできることは限られている。
本を読むか、刺繍やレース編みをするかくらい。
図案も本に載っていないものを創作したりもしたし。ハンカチ以外にもテーブルランナーとかもある。
自己満足で作っていたけれど、それが人の目に留まることが嬉しいと感じた。
お金が貰えるのなら、離婚後の生活のために蓄えておくわ。
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