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7.いい感じ?

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「いやー。初めて食べたけど最高だったなぁ!」

「あれなら、毎日食べれるわね!」

「たしかに! 毎日食っちゃおうかな!」

「出来そうだから羨ましいわ!」

「はっはっはっ! しないっすよ! あれは、特別な時に食べます」

「特別な時に一緒にいられて幸せだわ」

「そ、そうっすか」

 顔が熱くなるのがわかった。
 こんなに綺麗な人にそんな事言われたら照れないやつなんて居ないんではなかろうか。

「あっ! ねぇ、思ったんだけどさ、武器って買わないの? 武器持ってないのもあって絡まれるのもあるんじゃないかしら?」

「そう……なんっすかねぇ。武器は蘇芳が能力で作れるんですよ。だからいらなかったんですけど……」

「あら、そうなの。それなら要らないかもしれないわねぇ」

「うーん。絡まれた時はさっきみたいにするしかないっすね。まぁ、もう絡まれなければ問題ないんすけど」

「ふふっ。そうね!」

 シルバーに近い金髪を耳にかきあげながらこちらを向く。

 綺麗な人だなぁ。
 ドキドキする。

「ねぇ、ちょっと飲みに行かない?」

「えっ!? い、いいっすけど……」

「もちろん、翔真くんの奢りね!」

「なっ! ハッハッハッ! それ目的っすかぁ!?」

「さっ! 行こう!」

 翔真に腕を組み近づいて歩く。

 この世界の日本は15歳が成人である。
 何故かと言うと、ステータスが見れるようになるのが15歳で、職業を得るからなのだ。

「ち、近すぎないっすか!?」

「いいじゃない?」

 柔らかいものが腕に当たり、幸せな感触に頭が蕩けそうになる。

 なすがままについて行くと。

「ここどう? 気軽でしょ?」

 止まったのは、大衆居酒屋であった。

「ここ、バイトの時配送に来てたなぁ。客としてくるのは初めてだな」

 先に樋口さんが入り、後に続く。
 中に入ると活気のある店員さんの声と楽しそうな笑い声が一気に耳に入ってきた。

「いらっしゃい! こちらにどーぞっ!」

 案内された席は丸テーブルに椅子が3つの席であった。
 後ろが何やらザワついている。
 ドカッと席に座る蘇芳。

「お騒がせしてすみませーん! テイムした魔物ですのでご安心くださーい!」

 そう言うと騒ぎが収まった。

 腕を組んで座ってる蘇芳。
 心なしか不機嫌?

「蘇芳、どうした?」

『僕がいること忘れてたでしょ?』

「ばっ! そんな訳ねぇだろ!」

『いいや、絶対忘れてた』

 不機嫌全開の蘇芳。

「蘇芳ちゃんどしたの?」

「いやー。……ボソッ自分のこと忘れてただろって言って拗ねてるんですよ」

「ふふっ。かわいいわね。蘇芳ちゃん」

「なぁ、蘇芳、ビール飲んで落ち着こうぜ!? うまいぜー?」

ピクッ

『ふ、ふーん。じゃあ、僕も飲んであげようかな』

「樋口さんもビールでいいっすか?」

「美麗」

 こちらも腕を組んで目が不機嫌になった。

「美麗さんも、ビールでどうですか?」

「オッケー!」

 ホッとして店員さんに声をかける。

「すみませーん! 生ビール3つ!」

「あいよぉ!」

 メニューを開く。

「あっ、なんか摘みません?」

「いいの!? ありがと! んー、どれがいいかなぁ」

 美麗さんが悩んでいると、ビールが届いた。

「はい! おまちどー!」

「どうも! あっ、注文いいですか?」

「美麗さん、好きなのどうぞ」

「うん! えーっと、串焼き盛り合わせとたこわさ、あとはイカの一夜干しとポテトフライと塩キャベツで」

 わーっ。すげぇ頼んでる。
 これ、俺が良いように金づるにされてるんじゃねぇのか!?
 色気に惑わされちまったからかぁ。

 密かに落ち込んでいると。

「翔真くん? どうしたの?」

 覗き込んできた美麗さんをふっと見ると。
 目に飛び込んできてしまった美麗さんのワイシャツから覗く有難い山々と間の谷に目がいってしまう。

「なっ! なんでもないです!」

「そう? 乾杯しよう! かんぱーい!」

「かんぱーい」

『かんぱーい?』

ゴクッゴクッゴクッ

「プハーーーッ! うめぇ」

 横ではまだゴクゴク飲んでいる。
 ドンッと空のグラスを置いた。

『ガーーーーーッ』

「大丈夫か!? 蘇芳!」

『……あっ! ごめん。ゲップ出ちゃった。ビール美味しい! もう一杯貰っていい?』

「ゲップかい! 雄叫びかと思ったわ!」

『ごめんごめん』

「えっ!? 翔真くん、蘇芳ちゃんどうしたの?」

「すんません。ゲップだったみたいで……」

「アッハッハッ! 豪快なゲップー!」

 美麗さん、笑ってくれてよかった。
 心は広い人なのは分かってたけど。
 バイト時代俺を受け入れて声掛けてくれた人なんて手で数えれるくらいしか居ないもんな。

「料理お持ちしましたぁ」

「あっ! どうも!」

 テーブル一杯に置かれる料理。

「食べよ食べよぉ!」

「あっ、すみません! ビール1つおかわりください!」

「はーい!」

「あっ! もう1つおかわり!」

 割り込んで注文したのは美麗さんである。

 えっ!? そんなにペース上げて飲んで大丈夫か!?
 潰れるつもり?
 いや、まさかな。
 惑わされないぞ。

「んー! いい匂い! イカ最高!」

 イカの匂いがいい匂い……。
 おい。いかんぞ!

「俺も貰っていいっすか?」

「皆で食べよぉよ!」

『僕、この串焼き食べたい!』

「美麗さん、この串焼き1本蘇芳にもらっていいっすか?」

「だぁかぁらぁ! 好きに食べなって! そもそも、翔真くんの奢りだよ!? 好きに食べなよ!」

「はい! ありがとうございます!」

「なぁんか固いんだよなぁ」

 いや、固くはなってませんよ。

 おい! 自重しろ! 俺!

「そうですか?」

「まず、美麗さんってのが気になるのよねぇ」

「えっ? 美麗様が良かったっすか?」

ビタンッ

 両手で顔をサンドされる。

「違うわよ! 美麗とか、美麗ちゃんとかさぁ! 呼んで欲しいわけよ!」

「いや、でも年上……」

「はぁぁ!? 私がオバサンだって言いたいの!?」

「ち、違いますよ! 年上だからさん付けと敬語は普通かなって……」

「ふーん。まだ他人だってことね?」

 息がかかる位の距離に顔を寄せて言う。

 えっ? 唇くっついちゃうよ?

「飲もう」

 再びグビグビビールを飲み出す美麗さん。

「ねぇ、ダンジョンはどうだったの?」

「あっ、それが……」

 今日のダンジョンの話をしたり、バイト時代の思い出を話したりして2時間がたった。

 人が更に増えてきた。
 二次会で来る人が多いんだろう。
 酔っ払った輩がやって来るのだ。

「いらっしゃい!」

 店に入ってきたのは3人組で近くのテーブルに座った。
 美麗さんと蘇芳と雑談していると。

「なぁ、お姉さん! ギルドの姉ちゃんだよな!? そんな小僧と飲んでねぇで俺達と飲もうぜ?」

 美麗さんの横に来て話しかけてきた。

「私は、翔真くんと楽しく飲んでるの! 邪魔しないで!」

「こんなシャバ僧より俺らと飲んだ方が楽しいぜ?」

「そうだぜ! こんな小僧放っておこうぜ?」

 彼等には蘇芳が目に入ってないらしい。

「あのー。美麗さんは、俺と飲んでるんで……」

「あぁ!? ガキがうるせえんだよ! なぁ、俺らと飲もうぜ!」

 肩に手を伸ばそうとする。

ブチンッ

 自分の中で何かが切れる音がした。

 ガッと腕を掴む。

「何すんだガキ!」

 なんでこんなにイライラするんだろう。

「きたねぇ手で俺の女に触るんじゃねぇ。ゴブリン見てぇな面しやがって恥ずかしくねぇのか? 今日はどいつもこいつも俺に絡んできやがっていい加減にしろやゴラァ!」

 怒りの余り力が入りすぎた。

ボギッ

「がぁぁぁぁ!」

「あ、あにき! てめぇ、なにしやがる!?」

 取り巻きが喚くが俺には関係ない。

「あぁ!? お前達が絡んできたんじゃろうがい!? 違ぇか!? おぉ!?」

「いや、そ、そうだけど……」

 腕を折ったやつが冷静になったようだ。

「おい! この青い髪の短髪にでけぇ魔物連れてるやつ! 例のテイマーじゃねぇか! やべぇやつだ!」

 逃げる輩。
 後を追う取り巻き。

 それを見た店員さんが出てきて怒鳴る。

「酒頼んどいて逃げるなぁ!」

「どした?」

 奥から店主が出てきた。

「お客さん、酒頼んだのに帰っちゃったんですよ!」

「あのー。俺のせいなんで、お金払います」

 自分が払うと言いに行くと。

「あれ? 君、ずっと配達に来てた……何君だっけ?」

「名乗ったことなかっすもんね! 翔真です!」

「君が原因ってのは?」

「絡まれちゃって、ちょっと力入れすぎちゃって……」

「えっ!? 君テイマーじゃなかった?」

「ちょっと、事情があってパワーアップしました!」

「そうなの!? 凄げぇじゃん! あっ! 魔物連れてる! めっちゃ強そうだね!?」

「ありがとうございます」

「翔真くんが払ってくれるの? なんか悪いからいいよ。絡まれちゃったんでしょ? 勿体ないから飲んで?」

「えっ!? いいんですか!?」

「うん。いいよ。うちの店で不快な思いさせてごめんね!」

「い、いえ!」

 そこから先は美麗さんともちろん蘇芳とも楽しい時間を過ごしたのであった。

 帰り際。

「あーーーっ! 今日は楽しかった!」

「良かったっす!」

「また飲もうね!」

「はい! 是非!」

 不意に近づいてきた美麗さん。
 耳元に顔を寄せる。

「……ボソッ……今日はありがと。翔真カッコよかったよ? あと、清純かと思ったらエッチなんだね? 胸元、見てたでしょ?」

 バッと離れた美麗さん。

「じゃあ、またねぇー!」

 手を振って帰っていく美麗さん。

「気をつけて!」

 後ろを向きながら手を振っていく。

 その細い背中が、寝るまで目に焼き付いて離れなかった。
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