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58.腕相撲
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『それでは、始め!』
────ミシッ!
最初に聞こえていたのは両者の骨が軋む音。
ガッチリと組んだ手は二人の中央を陣取り、重さの拮抗した天秤のようにどちらにも傾かない。
両者は睨み合いながら笑っている。
その形相ははたから見たら恐ろしい程獰猛に。
そして、好戦的に見えた。
『ははははっ! やるじゃない!? 人族の癖に力があるのね!?』
「私だって、ナイルの力になる為に頑張ってるんだもん! こんな所で負けられないわ!」
ミリアがいつも俺の事を思ってレベルが上がる度にスキル構成に悩んでいたのは俺も見ていたよ。
相談されたら答えるようにはしようとしてたけど、一人で悩んで一人で決めている時は見守るって決めてたんだ。
『私だって、自分がいいと思った人と結ばれたい! あんなゴツゴツのアーマーとなんか結婚したくない!』
「じゃあ、しなければいいじゃない!?」
『そんなに簡単な話じゃないのよぉぉぉ!』
魔力の出力を上げてきたトウカお嬢様。
少しテーブルに手を傾ける。
ミリアの顔が少し歪む。
『お父様はスケルトンだけど、お母様はゾンビなのよ! どっちも細いのに! なんで私の婚約者だけあんなにゴツイのよ!?』
テーブルにまた少しミリアの手が近づく。
ミリアはここに来て初めて魔力を巡らせた。
「だからって、私のナイルを奪わないでよ! そんなお嬢様の都合で私たちを引き裂くなんておかしいでしょぉぉぉがぁぁぁ」
また中央へと両者の手が戻り拮抗する。
両者の気迫からだろうか。
空気が重い。
「私だって! ずっとテイマーとして底辺の生活をして来て! ナイルをテイムして! ナイルのお陰でようやく私は自由を手に入れたの! ナイルは私の王子様なんだからぁぁぁ!」
魔力の出力を上げたミリアが少しテーブルに手を押す。
骨なので顔には出ていないが、トウカお嬢様は今、愕然としている。
それは魔族にとって使役されること程、屈辱を感じることは無いからだ。
それもこんなに弱い人族につかわれる?
トウカはもうこの時正気ではなかった。
自分の素敵だと思ってたスケルトンは実は人族につかわれていて。
ただの戦力として扱き使われている。
そう思ってしまったのだ。
トウカお嬢様の魔力出力は制御の最大値を超え、周りの空間にも影響を及ぼすほどの出力になっていた。
そんな中冷静にまだ手を握っているミリア。
『トウカお嬢様! あまり魔力を出力が高い状態を維持するのはまだお嬢様には無理です! 一旦終わりにしましょう!』
爺やが焦りの声を上げる。
お嬢様の普段の状態を知らないが、もしかして魔力操作をまだ訓練しているところなのか?
それだとまずい。最悪の場合────
『お嬢様! 魔力暴走してしまいます!』
魔力が暴走した場合は膨大な魔力が一気に放出されるため、この前のS級の魔石を割った時のような。それ以上かもしれない爆発に巻き込まれることになる。
そうなればこの屋敷など木っ端微塵に吹き飛び俺達も無事ではすまないだろう。
皆には悪いが、そうなった暁には俺はミリアを全力で守らせてもらう。
『うるさい! 人族如きがナイル様を使役しようなどと烏滸がましいにも程があるわ! 今すぐに解放しろぉぉぉ!』
まだ握られたままの手は中央で再び拮抗する。
トウカお嬢様が手を傾けると思われた。
だが、一人そうは思っていないものがいた。
「それはね、無理なの」
鈴がなるような透き通った声だった。
普段の元気なミリアを忘れさせるようなそんな声。
「私はね、ナイルなしじゃ生きていけないんだ」
それまでの好戦的な雰囲気は散っている。
昼下がりの太陽のように温かな顔をしている。
「ナイルってね、捨てられた私に声を掛けてくれて、剣を貸してっていうの。それでね、モンスターに襲われるところを一人で助けてくれたの。凄くカッコよかった」
『私もさっきナイル様に助けてもらった時、凄くかっこいいと思った。だって、馬の人すごく怖かったから』
トウカお嬢様の魔力は少しずつ収まっていく。
ミリアとの話をする中で少し落ち着いたのかもしれない。
「うん。その気持ちはわかるよ。その時私はお願いしたの。その剣をあげるから、私のテイムモンスターになって欲しいって」
『それで、なの?』
「うん。いいって言ってくれたからテイムしたんだ。トウカちゃん、テイマーって使役するって言うより一緒に戦う仲間を集めることが出来る職業なんだよ?」
『でも、無理やりテイムされそうになった人の話を聞いたことがあるもん!』
「そうだね。人族の中にはそういう人もいる。でも、違う人もいるんだよ? それなのに、皆が悪い人!みたいに言うのは少し違くない?」
『それは違うと思う。魔族の中にも悪い人はいるから』
「でしょ? じゃあ、私は悪い人でしょうか?」
『いい人』
トウカお嬢様がそう言葉を発するのと同時にトウカお嬢様の手がガラスのテーブルに手をついた。
つまり、一本目はミリアの勝ちである。
「いぃぃよっしゃぁぁぁ! 一本んんん!」
ミリアがめちゃくちゃに飛び跳ね。
ガッツポーズしたりして子供のようにはしゃいでいる。
『ホッホッホッ。トウカお嬢様。これは一本取られましたな。まだ決闘を続けられますか?』
『……当たり前よ! ミリアに跪かせるわ!』
なんだが、こちらも吹っ切れたようで有頂天になっている。
目的が違うがまだやるようだ。
────ミシッ!
最初に聞こえていたのは両者の骨が軋む音。
ガッチリと組んだ手は二人の中央を陣取り、重さの拮抗した天秤のようにどちらにも傾かない。
両者は睨み合いながら笑っている。
その形相ははたから見たら恐ろしい程獰猛に。
そして、好戦的に見えた。
『ははははっ! やるじゃない!? 人族の癖に力があるのね!?』
「私だって、ナイルの力になる為に頑張ってるんだもん! こんな所で負けられないわ!」
ミリアがいつも俺の事を思ってレベルが上がる度にスキル構成に悩んでいたのは俺も見ていたよ。
相談されたら答えるようにはしようとしてたけど、一人で悩んで一人で決めている時は見守るって決めてたんだ。
『私だって、自分がいいと思った人と結ばれたい! あんなゴツゴツのアーマーとなんか結婚したくない!』
「じゃあ、しなければいいじゃない!?」
『そんなに簡単な話じゃないのよぉぉぉ!』
魔力の出力を上げてきたトウカお嬢様。
少しテーブルに手を傾ける。
ミリアの顔が少し歪む。
『お父様はスケルトンだけど、お母様はゾンビなのよ! どっちも細いのに! なんで私の婚約者だけあんなにゴツイのよ!?』
テーブルにまた少しミリアの手が近づく。
ミリアはここに来て初めて魔力を巡らせた。
「だからって、私のナイルを奪わないでよ! そんなお嬢様の都合で私たちを引き裂くなんておかしいでしょぉぉぉがぁぁぁ」
また中央へと両者の手が戻り拮抗する。
両者の気迫からだろうか。
空気が重い。
「私だって! ずっとテイマーとして底辺の生活をして来て! ナイルをテイムして! ナイルのお陰でようやく私は自由を手に入れたの! ナイルは私の王子様なんだからぁぁぁ!」
魔力の出力を上げたミリアが少しテーブルに手を押す。
骨なので顔には出ていないが、トウカお嬢様は今、愕然としている。
それは魔族にとって使役されること程、屈辱を感じることは無いからだ。
それもこんなに弱い人族につかわれる?
トウカはもうこの時正気ではなかった。
自分の素敵だと思ってたスケルトンは実は人族につかわれていて。
ただの戦力として扱き使われている。
そう思ってしまったのだ。
トウカお嬢様の魔力出力は制御の最大値を超え、周りの空間にも影響を及ぼすほどの出力になっていた。
そんな中冷静にまだ手を握っているミリア。
『トウカお嬢様! あまり魔力を出力が高い状態を維持するのはまだお嬢様には無理です! 一旦終わりにしましょう!』
爺やが焦りの声を上げる。
お嬢様の普段の状態を知らないが、もしかして魔力操作をまだ訓練しているところなのか?
それだとまずい。最悪の場合────
『お嬢様! 魔力暴走してしまいます!』
魔力が暴走した場合は膨大な魔力が一気に放出されるため、この前のS級の魔石を割った時のような。それ以上かもしれない爆発に巻き込まれることになる。
そうなればこの屋敷など木っ端微塵に吹き飛び俺達も無事ではすまないだろう。
皆には悪いが、そうなった暁には俺はミリアを全力で守らせてもらう。
『うるさい! 人族如きがナイル様を使役しようなどと烏滸がましいにも程があるわ! 今すぐに解放しろぉぉぉ!』
まだ握られたままの手は中央で再び拮抗する。
トウカお嬢様が手を傾けると思われた。
だが、一人そうは思っていないものがいた。
「それはね、無理なの」
鈴がなるような透き通った声だった。
普段の元気なミリアを忘れさせるようなそんな声。
「私はね、ナイルなしじゃ生きていけないんだ」
それまでの好戦的な雰囲気は散っている。
昼下がりの太陽のように温かな顔をしている。
「ナイルってね、捨てられた私に声を掛けてくれて、剣を貸してっていうの。それでね、モンスターに襲われるところを一人で助けてくれたの。凄くカッコよかった」
『私もさっきナイル様に助けてもらった時、凄くかっこいいと思った。だって、馬の人すごく怖かったから』
トウカお嬢様の魔力は少しずつ収まっていく。
ミリアとの話をする中で少し落ち着いたのかもしれない。
「うん。その気持ちはわかるよ。その時私はお願いしたの。その剣をあげるから、私のテイムモンスターになって欲しいって」
『それで、なの?』
「うん。いいって言ってくれたからテイムしたんだ。トウカちゃん、テイマーって使役するって言うより一緒に戦う仲間を集めることが出来る職業なんだよ?」
『でも、無理やりテイムされそうになった人の話を聞いたことがあるもん!』
「そうだね。人族の中にはそういう人もいる。でも、違う人もいるんだよ? それなのに、皆が悪い人!みたいに言うのは少し違くない?」
『それは違うと思う。魔族の中にも悪い人はいるから』
「でしょ? じゃあ、私は悪い人でしょうか?」
『いい人』
トウカお嬢様がそう言葉を発するのと同時にトウカお嬢様の手がガラスのテーブルに手をついた。
つまり、一本目はミリアの勝ちである。
「いぃぃよっしゃぁぁぁ! 一本んんん!」
ミリアがめちゃくちゃに飛び跳ね。
ガッツポーズしたりして子供のようにはしゃいでいる。
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