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94.南門にて

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「ハッハッハッ! いいザマね! 死になさい!」

 その女は手からウォーターレーザーを出しながら人々を切り刻んでいた。人々の今まで生きてきた生活を踏みにじるように。

「おうおう! やめやがれ! あんた、女なのにひでえ事しやがる! うちのミリーとアリーとルリーとフルルを見習え! 良い子だぞぉ?」

 なんとも腑抜けたことを言いながら登場したのは、ガイだ。

「おい。お前、ホントに頭がいかれちまったんじゃねぇのかぁ?」

「あぁ? うるせえ! うちの可愛い子達を褒めて何が悪い!?」

 ガイの発言に突っ込んだのはジンだ。
 ジンは呆れた顔をして頭を手で抑えている。
 ガイが親バカだったのは知ってはいたんだが、戻ってきたガイはさらに厄介になっていて困り果てていた。

「うるさいわよ!? ここは、戦場よ!? ふざけないで!」

「「だってコイツがよォ!?」」 

 互いを指さして抗議しているのはサナだ。
 この三人で再び烈火として活動し始めていた。
 ミリーはお留守番である。

「はぁぁ。ミリーが居てくれれば締まるんだけど……」

 頭を抱えながら敵と相見える。

「サイクロン!」

 敵を竜巻が襲いかかる。
 敵は前に手をかざして。

「ウォータースパウト!」

 水の竜巻が風の竜巻を相殺する。
 かき消された魔力が周りに広がっていく。

「オラァァ!」

 大剣を担いだガイが切りかかる。
 女が斜めにズバッと切れる。

「はっ! あっけねぇな!」

 振り返って戻ろうとする。

「バカ!しゃがめ!」

 素早く横からガイにタックルをして、横に転がす。

「なにしやが────」

ズババババッ

 水弾が横を掠めた。
 後ろを振り返ると、女が無傷でそのまま立っていた。

「無傷だと!?」

「お前は見てなかったかも知れねぇが、切られたらそのままくっついたんだよ! 信じられねぇがな」

 ガイとジンが動転している。

「二人とも落ち着いて! 何か、カラクリがあるはずよ!」

 サナが落ち着いて提案する。
 ガイとジンの二人は女をジィッと見つめるだけだ。
 見つめる先の女は切られた部分の服は切られたままなので、かなり際どい見た目になっている。

「あんた達……」

 サナの冷たいオーラが二人を刺激する。
 ビクビクする二人。

「おい! ジン! 変なとこ見てねぇで早く何とかしろよ! 頭使うのはお前の役割だろ!?」

「俺だってわかんねぇんだよ! でも……切れた時……透明だったような……」

「はぁ? 水じゃあるめぇし! そんな訳あるかよ!?」

 ガイのその言葉にジンはハッとしたようだ。

「それだよ! あの女自体が水になってんだよ!」

 驚いたように目を見開くガイ。

「それ、本当か!?」

「あらぁ? ようやく気づいたのかしらぁ? そう。私達の国ではエレメント化と言われているわ。まぁ、出来るのは、私達六芒星だけだけれどねぇ」

 女は当然と言うように肯定した。

「ホントにそんな事できるのか!?」

「知らねぇよ! 俺は出来ねぇ!」

 ガイの問いに当然のように否と答えるジン。
 サナは無言で、真面目にどうしたらいいのかを考えているようだ。

 二人が不真面目な訳では無いが、緊張感がないのはその通りだろう。

「ふふっ。あたな達じゃ私には勝てないわよ? さっさとお帰りなさい? ただ切り刻まれるだけよ?」

「そういう訳にもいかねぇんだよなぁ。この国にはテツの親友が居るらしいじゃねぇか。俺の息子の親友は俺の親友も同じ! 助けねぇ訳にはいかねぇ!」

 また、訳の分からない理屈を話し始めたガイだが、表情は真面目だ。
 ジンもニヤリと口角を上げる。

 誰も逃げるつもりなどない。
 自分達は逃げる為に来た訳では無いのだと、態度が物語っていた。

「逃げる気はないようね。では、死になさい? ダイダルウェーブ!」

 女の後ろから水が現れ、津波のように襲いかかってきた。

「くっ! ジェットストーム!」

 サナが風の噴射で水を押し流そうとするが、拮抗している。しばらく拮抗していたが、あちらが魔力量が勝っているようで、押され始めた。

「サナ! 無理すんな! 俺が切り裂く!」

「えぇ!? あんなの切り裂けるのぉ!?」

 ガイは大剣を空に掲げた。
 水が押し流される。
 サバァッとかかって来た。

「絶空剣!」

ズバァァァァァァンッッッ!

 水が真っ二つに割れ。
 横に流れて行った。

「ハッハッハッ! 甘いわ!」

 ガイは剣を担ぎながら得意げに笑いだした。

「おい! まだ終わったわけじゃねぇんだからな!」

 ジンが焦った様に言うが、ガイは余裕の笑みを浮かべている。

「大丈夫だ! 俺に任せろ!」

 自信満々のガイを心配そうに見つめるジンとサナ。
 二人の気持ちにお構いなく女の所へ歩いていく。

「ふん! さっきの魔法を止めたくらいでいい気にならない事ね! ウォーターレーザー!」

 水のレーザーがガイに襲いかかる。

「フゥゥゥ。熱発《ねっぱ》!」

 大剣で水を受け止めているが、その大剣からフシュュュという音が聞こえてくる。
 湯気が立ちこめる。

「俺の大剣はどんな熱にも耐えれる! そうできてるんだ!」

 それは、即ち。
 どんな高温にも耐えれるということ。
 魔法で大剣の温度を上げているようだ。

「ふんっ! だから何よ!?」

「お前は終わりだと言うことだ! ハッ!」

 突然の素早い踏み込みに対処出来ていない女。

「ウォーターレ─────」

 スブッっと身体に大剣が刺さる。
 そのまま抜こうとはしない。

「喰らえ! 烈火!」

ドオオオゥゥッ

 赤い灼熱がガイの身体中と大剣から吹き出し、熱で支配される。

「なっ!? なに!? 早く抜いて! 熱い!」

「蒸発しろ! 最大出力だ!」

 ボコボコと女の身体が沸騰し、シュゥゥという音と共に、湯気だけを残し、蒸発した。

「ハッ! 呆気なかったな!」

 そう言い放つガイ。

「いやいや、さすが規格外だなお前は!」

「本当……ガイって感じ」

 ジンとサナは呆れるばかり。

「ガッハッハッ! この国は負けねぇぞ!」

 ガイは大きい声で宣言するのであった。
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