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カエル化姫と最愛の人
全部あげるから、全部ちょうだい
しおりを挟むママとパパの話をしたあと、藍さんから受け取った映像をPCで再生してみたら、瑠璃也が再び頭を抱えることになり、私もやや微妙な気分になる。
「白那愛してるよ!」
と映像のパパは言ってくれるけれど、何分、顔が蒼真に似ているので、私もどんな顔をして見ていいのか分からない。
「白那にはとっても申し訳ないけど、見るのはかなり苦しい。苦しすぎる!」
と瑠璃也は言う。
「一人でこっそり見てって言いたいところだけど。それも、苦しい。どうしたらいい?」と身もだえしてしまうので、
「しばらくは見るの保留にするよ」と言っておく。
しかし、映像を再生したことにより、瑠璃也に変なスイッチが入ったらしい。映像を止めた後、
「愛してるよ、白那」
と言って瑠璃也が距離を詰めてくる。けれど、しばらく会っていなかったせいか、ドキドキしてしまい、私は思わず後ずさって逃げたくなってしまう。
「なんで逃げるの」
「好みのイケメンに触れられるのってちょっと。雑誌で見たりWEBで見たり、推し活が多かったから、なんか触れられるのは違うかなって」
私がそう言うと、瑠璃也はすぐにスマホの電源を入れて、あちこちに連絡しはじめる。
「何してるの?」
「ソロのメディア系の依頼は断ることにした。意味ないじゃん、白那に距離取られたら」
「えーなんでもったいない!めちゃくちゃカッコイイのに!せめてモデルはやめないで」
「じゃあ一緒に住んで。毎日触ってまた慣れてもらうから」
ハグをしよう、と手を広げてくるのだけれど、私はその中に入っていく気持ちになれない。
「触るのはちょっと」
と言うと、瑠璃也が眉をひそめた。
「決定したから。俺は今日からここに泊まるから」
じりじりと壁に追い詰められて、逃げ場を失う。しよ、と言われて首と横に振る。
「恥ずかしいから無理」
「会わないうちに俺のこと嫌いになった?」
「好き。パパのお姉さんに会って、話を聞いたら、瑠璃也と家族になりたいと思ったよ。でも、こういうのは恥ずかしい」
「俺はずーっと白那不足だったんだけど」
少し強引に抱きしめられて、身体が熱くなる。触れられるのが久しぶりすぎて、ドキドキがとまらない。至近距離に来ると、まともに顔を見れなくなる。
「顔も嫌いになった?」
それだけは、断じてない、と首を横に振った。
「大好き。カッコイイ!毎日暇さえあれば見てる。写真はスクショしてるし、雑誌は奉納用で複数買って、電子書籍版を携帯してる。サイコー!」
「じゃあ、出来る。前も公園で好きな顔じゃないと濡れないって言ってたし」
「そ、そんなこと言ってないよ!」
「好きでも、顔がドンピシャのタイプじゃなければ出来ないって。そこだけは、蒼真に同情しつつマウント取ってる」
好きでも顔が好みじゃなければ、深い関係になれない。言ってしまえばセックス出来ない。それってどんなルールなの?とは思う。でも実際にどんな方法を取ろうとしても、ママの言い方を借りるなら、「無理なものは無理」だったのだ。
素朴な疑問として、
「誰が別の人が瑠璃也の顔に整形したら、どうなるんだろう?」と思う。そのまま言ったら、
「それは絶対他奴に教えたらダメだから、特に静馬とか蒼真はダメだから」
と割と真面目なトーンで言われた。好きな人じゃなければ、触れられたときに寒気がしたり、ビリビリと痺れたりするから、結局は無理だと私は思う。
「するよ」
瑠璃也が顔を寄せてくる。長い睫毛に縁どられたクッキリとキレイな瞳の、アンニュイな表情を間近にして、目が離せなくなった。
「撮って保存版にしたい」と思わす呟いてしまう。
「撮る?何を」
「してるときの全部」
私の言葉に瑠璃也が目を見開いた。唖然とした顔もいいなぁ、と思う。
「まさか。そういうの、あいつとやってた?それで動画収益とか?」
即座に出てくるワードが動画収益ってなに、と思う。
「な、ないよ!瑠璃也の顔がいい感じだから、上手く加工して彼女目線の動画撮ったらバズりそうだなってだけ。私なら鬼リピートするなって」
私の言葉に、瑠璃也がコメントを失った。そして眉根を寄せて、身体を寄せてきたので、私は壁に背中を押し付けられる。
「なんかムカついてきた。目の前にいるのに、自分でします宣言みたいで」
「し、しないよ。おこがましい。瑠璃也は綺麗すぎて、そういうのには」
「じゃあ、どういうのなら使うわけ。てか、少し離れてただけでカエル化してるとか、聞いてないし」
瑠璃也はそう言って、私のルームウェアパンツにおへそ側から手を入れてきて、下着の上から足の間をなぞる。思わず、あぁ、と甘い声が上がるけれど、瑠璃也の顔を見たら、これは違う、場違いな声だ、と思った。
「ダメ、脳が崩壊する。紫陽瑠璃也担当として、抜け駆けしている感じするし、これ絶対ご法度だ」
「うるさい、推し活女子!もう分かった!明日結婚するから。で、今から子ども作るから」
「え?」
「寿命の分けあいとか言ったじゃん。全部あげるから、全部もらう」
「いや、でも」
私はルームウェアパンツの中の手をどかそうと必死に抵抗するのだけれど、逆に、一気に引きずりおろされ、下着姿になってしまう。慌てて見上げれば、瑠璃也と目が合うけれど、涼しげな表情をしているので悔しい。
「白那は少し離れただけで推しメンとしか見てくれなくなるから。もう、1日だって離さない」
「私が実は余命1ヶ月かもよ?」
「いいじゃん、それなら俺の寿命から何十年もとって。数年間幸せに暮らせば、同じときに逝ける」
私の足の間に瑠璃也は身体を入れ込んできて、足を閉じさせないようにしてくるので、私は私で追い出そうと動く。真面目な話をしているのに何で、と少し腹が立つので、
「瑠璃也は他の人とも、出来るのに」と少し引き離したことを言ってみる。
「この期に及んで、それ。白那ってやっぱりバカ?」
そしたらそれ以上の攻撃がやって来て、
「うるさいな!本当のことじゃん」
つい応戦してしまう。
そしたら、瑠璃也のイライラスイッチを押してしまったらしい。
「じゃ、俺の遍歴話してあげるわ。自分からはこれっぽっちも食指が動かなかった、無理やり、あり得ない状況で頑張らされる経験を全部。克明に丁寧に、描写して。その上で白那以外無理だって、立証するから。出来るとしたいは違う。勃つからって好きだとか、本気でやりたいと思うなよって、各所に言いたい!」
「そ、それまったく聞きたくない。ごめんなさい、本当やめて」
これまで、瑠璃也は何かすごい経験をしてきたのかもしれないけれど、これっぽっちも聞きたくはない。
そして瑠璃也は長いため息をつく。それから、正面から向き合ってきて、言った。
「結婚してください、水樹白那さん」
「え。今?下心があるときの、男の人の告白は信じちゃダメって、ママが」
私の言葉に、瑠璃也はまたため息をついた。
「朱那さんは応援してくれてるから、問題ない。で、返事は?」
グイグイと詰め寄ってきて、鼻の先同士が当たるくらいの距離になる。ココナッツみたいな甘い香りがして、クラっとした。でも、何だか不服だ。
「今の瑠璃也、ちょっと俺様入ってて嫌。それにこの距離感って推し活あけには、刺激が強すぎる」
「返事」
多分私の言葉に腹を立てたのだろう、不遜な調子で言ってくる。
吐息がかかる距離感で見つめ合っているのが苦しくて、目を閉じたくなった。
でも、黒い瞳がこちらの様子を伺うように揺れたから、目を閉じないで、
「いいよ」
と言う。そしたら、深く口づけられた。
その後は抱きあげられて、私の部屋に移動する。
ベッドの上に横たえられて、瑠璃也が覆いかぶさるように上になって来ると、下着の中にダイレクトに手を入れて、腿の間に触れてきた。問答無用で指を差し込んでくるので、異議を申し立てたくなる。
「初めてのときは優しかったのに」
あまり覚えていないくせに、そう言ってみると、無言で強引にかき回されて、甘い声が出てしまう。手際よく下着をおろされて、上も脱がされた。
瑠璃也のいつものサービス精神はどこにいったのだろう?と思っていたら、瑠璃也はシャツもボトムスもさっさと脱ぎすてて、完全に臨戦態勢になっていくのだ。
「早くない?」
とコメントをするけれど、これもスルーされてしまう。
瑠璃也の全身裸の姿は目のやり場に困る。とはいえ、均整のとれたこの姿は、グラビア印刷にして保存版にしたいなぁ、とぼんやりと思ってしまう。そしたら、瑠璃也は眉根を寄せて、噛みつくみたいなキスをされた。
「集中して」
「何に」
「今から入れて動くから、それに集中」
「何で?」
「白那の家族にして欲しい。でもそれは、手続きとかだけじゃ無理だし、白那はすぐにカエル化するし。全部注ぎ込むから」
下腹部を優しく撫でてくるので、その言葉の意味が分かった。瑠璃也の言葉に私は首を横に振る。
「ダメだよ、ママたちの場合とはまた違うし、どんな風になるのか分からない」
「それでいいんだよ。俺はそれがいい」
「怖い、そんなの。もし瑠璃也が先にいなくなっちゃったら、生きてけない」
「俺は悪運強いから、結構生きると思うよ」
「今はよくても、嫌いになったら?幻滅したり、気まぐれに盛り上がって、急に冷めてきたりしたら……。もう、立ち直れない。一人になるの、怖いよ」
大切な人がいつまでも、同じようにそばにいてくれるとは限らない。
ママだっていなくなってしまったから。
瑠璃也もいついなくなるのか、と思うと怖い。
好き人といる心地よさを知ってしまったら、一人になるのは、もう、耐えられない。
「いなくならないで、欲しい」
自然と涙が出てきてしまって、自分の手で拭こうとしたら、瑠璃也が目元に浮かんだ涙を舐めとっていく。
瑠璃也は何も言わずに、ゆっくりと、そして強く抱きしめてきて、素肌が重なる。
静かに体温が重なるのを感じて、そう、もうこれでいいんだ、と思った。
そう。
もう瑠璃也が何か言う必要はなかった。
今の言葉への返事はすでに、瑠璃也が全部言ってくれている。
瑠璃也は一度だって、気まぐれに動いたことなんてなかったし、勝手に盛り上がって、冷めていくことなんてなかった。
いつだって、私のそばにいて、護ってくれていたのだ。
「瑠璃也のこと、信じちゃうよ。絶対に離さないでくれる?」
瑠璃也は頷いて、
「最初からそう言ってるじゃん、信じてよ」と言って柔らかく笑う。
瑠璃也は私の両足を立てさせて、腿の間に身体を滑りこませてくる。やや強引に押し込まれるボリューム感に、声が漏れた。
「きつ。でも、周りはトロトロ」
と言われて恥ずかしくなる。動くよ、と言って瑠璃也が腰を引いて、押しつけてきたとき、ダイレクトに中を擦れ
る音があまりにも生々しい。いたたまれなさに耳を手で覆う。
「ダメ」
と瑠璃也が囁いた。強引に耳から手を離され、その手を背中に回させられる。私は首を何回も横に振った。ダメ、ヤダ、恥ずかしい、と言うのだけれど、
「ちゃんと五感で味わって」
と甘い声で言われる。そのままグイっと入り込んで来られたら、身体の芯がきつく絞り込まれる感覚があって、自分でも聞いたこともない声が出た。深くキスをされて、熱い吐息が交ざる。
そのまま両胸の先を強くこすられたら、繋がっている部分が、ビリビリと痺れるのを感じた。なにこれ、なんでこんなこと、と私は思って、瑠璃也を見上げる。いつもならクールに見える黒い瞳は熱で潤んでいて、私を見つめていた。
大好きな人で、大好きな顔の人だ。推しメンの面と恋人の面とが交ざって、頭が混乱した。その混乱によって、いつもなら制御している部分が緩んでくる。
往復する中への刺激で、腰の奥が甘く痺れるようだった。
「気持ちいい」
と声が漏れたら、瑠璃也が息を飲んだ。
もう一度胸の先をこすられて、中のある場所を強く突かれたとき、ぎゅん、と中の奥の部分が痙攣する。悲鳴みたいな声があがって、思わず瑠璃也にしがみついてしまう。
そして、身体の力が急に抜けた。
瑠璃也が驚いた顔をしているのが分かったから、「ごめん」と言う。
そしたら瑠璃也は一度強く抱きしめてきた。
頬に熱いものが流れるのを感じて、自分が泣いていることを知る。
そう、初めて気持ちいいと感じた。
「よかった」
と瑠璃也が私の涙を舐めとり、続けて「でも、ごめん、まだ」と言って来たので、私は頷いた。
その後腰の打ち付けが早まっていき、お互いに途切れ途切れな吐息があがる。
瑠璃也が最も奥底を突いてきて、中でふるえたのを感じたとき、もう、全部もらおうと思った。
だから、もう、全部あげるのだ、と思う。
色んな感情や経験を、全てもらってしまって、全てあげてしまう。
そんな風にきっとこの先も一緒にいるのだと思った。
それは、とても幸せな想像だ。
「白那、愛してるよ」
「私も、愛してる」
何度も繋がって、そして一緒に眠った。
応援ありがとうございます!
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