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みんなで渡ろう赤信号!
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「関わるなって……主任と?」
そりゃ無理な話だ。
なにしろ直属の上司は部長ではなく主任。
「仕事上は構いませんが、個人的な事情に首を突っ込まぬように、と言ってるんですよ。
下手に関わって、またぞろ例の男と顔を合わせたらどうするんです」
と、いうことはだ。
「今回の件は、あいつが関わってくる可能性がある…ってこと?」
「あくまで可能性ですがね」
「君子危うきに近寄らず、ってな。タカ子は賢いデキる女になるんだろ?」
だったら黙っていろ、と。
「我々の牽制も十分に通じたでしょうし、あの男の方から君に直接なにかしてくることはないでしょう」
「牽制って…」
まさか、今日来たのはその為でもあったのか?
穿った目で二人を見る高瀬に、賢治が持っていたおもちゃのゼンマイを回しながら答える。
「石橋を叩いて渡るどころか、そんな危ない橋は鉄筋コンクリートに変えちまえってのが竜児の持論な」
「叩いて壊れるかもしれない橋を渡ろうとすることががまず理解できませんね」
「言われてみりゃあ確かに」
うんうん、と納得する賢治。
その前をゆっくりしたスピードで動いていくゼンマイじかけのチープなおもちゃ。
テーブルの隅をよたよたと移動していたそれが、やがてぽとりとテーブルの下に落ちる。
反動でひっくり返ったまましばらく動き続けていた玩具は、やがて高瀬の足元で沈黙した。
「拾わ…ないの?」
「だってもうゴミだろ?壊れてるぜ、それ」
言われてみれば、プラスチックの本体が軽く欠けている。
「いけませんね。子供用のおもちゃなら、このくらいの高さから落として壊れるようでは失格です」
「JAS規格ってやつな~」
「片付けさせましょう」
そういった竜児が呼ぶまでもなく、やってきたウェイターがさっさおもちゃを回収していく。
「こちらはどういたしますか?」
「あぁ、処分してくださ…」
「待って!!」
そのままゴミとして扱われそうになったおもちゃに、慌てて高瀬が声を上げた。
「まだ動いてたよね、それ。だったら私が持って帰るよ。ハム太郎のおもちゃになるかもしれないし」
「ハム太郎?」
「あぁ、最近飼い始めたペットだろ。確か前に聞いたぞ」
「そういえばそんな話をしていましたね…」
言われてみると、確かにこの2人とハム太郎が直接顔を合わせたことはなかった。
今日も気づけばいなくなっていたし…。
恐らく部長についていったのだと思うが。
「使えますか、こんな壊れたおもちゃ。触って怪我をしたらどうするんです」
「いや、子供じゃないから大丈夫だって」
「まぁハムスターが怪我することはないだろうけどよ」
なにしろハムスター(霊)だ。
「壊れたからってすぐゴミにするのはよくないと…思う」
一寸の虫にも五分の魂、ア○ボにだって供養祭が執り行われる時代なのだ。
いくらおまけでもらったようなおもちゃでも、この場に捨てて帰るというのはちょっと違うと思う。
「壊れたものに情をかけても仕方ありませんよ、いずれは捨てられるんですから」
「そうそ。よくあるだろ?いつか使おうと思って結局はゴミになるとかさ」
捨てて帰ったほうがいいと促す二人。
彼らの言いたいことはよくわかる。
そして、なぜ今高瀬の前でこんなことをしてみせたのかも。
「壊れる前に……落ちる前に止めるって手段もあったはずだよね」
「そうですね。その価値があればですが」
「止めたって勝手にこぼれ落ちてく可能性はあるぜ?」
確かにその通り。
救おうと差し出した手をすり抜けていくものはある。
関わらないほうがいいことは、重々承知の上で、だ。
「彼に、そこまでする価値はありますか?」
尋ねられたその問に、高瀬はちょっと考えて、頷いた。
「むしろこれで弱みを握ったと考えて、これから融通を効かせられる!」
これで職場が私の天下だぜ!
「おぉ、賢い」
「……タカ子にしては利口ですね?」
「しかしゲスいな?普通そこ、理由なんてなくても助けたいとかいわね?」
「それがタカ子らしさです」
「なるほどこれがゲス可愛い」
おい。聞いたことのない言葉を勝手に捏造するんじゃない。
もちろん冗談だとも。7:3くらいで。
どちらが7でどちらが3かは聞かないでくれ。
「というわけで、ふたりの意見は参考にしても実際どうするかはその時に決める!
だってほら、死なばもろともじゃん?」
この場合は道連れが前提条件だ。
「完全に開き直ったな」
「仕方ない。ではこれからは積極的に彼の弱みを集めていくことにしましょう」
「追加料金弾んでくれよ~。あの主任さんガード固いんだぜ」
「成功報酬で考えておきます」
「やった~」
「ついでに例の部長についてももっと徹底的に洗いなさい」
「やめてあげて!?部長は何も悪くないよ!」
一体どっちが本当にゲスいのか。
いつかはっきりさせてやりたいと思いながら、高瀬は心の中で主任に頭を下げる。
――ー成仏してくれ、主任。
君の弱みはもれなくまるっと掴まれそうだが、きっと悪いようにはしないと思う。
多分。きっと。恐らく……。
死なばもろとも、とはいうが。
同じ地雷原にこれから強制的に引っ張りこまれるであろう部長に、心の中で涙がこぼれた。
主任は自業自得として、あまりに気の毒すぎる。
だが、今回の場合、中心にいるのは残念ながら部長(についている幼女の霊)。
巻き込まれるのは必須。
部長、どんまい。
そりゃ無理な話だ。
なにしろ直属の上司は部長ではなく主任。
「仕事上は構いませんが、個人的な事情に首を突っ込まぬように、と言ってるんですよ。
下手に関わって、またぞろ例の男と顔を合わせたらどうするんです」
と、いうことはだ。
「今回の件は、あいつが関わってくる可能性がある…ってこと?」
「あくまで可能性ですがね」
「君子危うきに近寄らず、ってな。タカ子は賢いデキる女になるんだろ?」
だったら黙っていろ、と。
「我々の牽制も十分に通じたでしょうし、あの男の方から君に直接なにかしてくることはないでしょう」
「牽制って…」
まさか、今日来たのはその為でもあったのか?
穿った目で二人を見る高瀬に、賢治が持っていたおもちゃのゼンマイを回しながら答える。
「石橋を叩いて渡るどころか、そんな危ない橋は鉄筋コンクリートに変えちまえってのが竜児の持論な」
「叩いて壊れるかもしれない橋を渡ろうとすることががまず理解できませんね」
「言われてみりゃあ確かに」
うんうん、と納得する賢治。
その前をゆっくりしたスピードで動いていくゼンマイじかけのチープなおもちゃ。
テーブルの隅をよたよたと移動していたそれが、やがてぽとりとテーブルの下に落ちる。
反動でひっくり返ったまましばらく動き続けていた玩具は、やがて高瀬の足元で沈黙した。
「拾わ…ないの?」
「だってもうゴミだろ?壊れてるぜ、それ」
言われてみれば、プラスチックの本体が軽く欠けている。
「いけませんね。子供用のおもちゃなら、このくらいの高さから落として壊れるようでは失格です」
「JAS規格ってやつな~」
「片付けさせましょう」
そういった竜児が呼ぶまでもなく、やってきたウェイターがさっさおもちゃを回収していく。
「こちらはどういたしますか?」
「あぁ、処分してくださ…」
「待って!!」
そのままゴミとして扱われそうになったおもちゃに、慌てて高瀬が声を上げた。
「まだ動いてたよね、それ。だったら私が持って帰るよ。ハム太郎のおもちゃになるかもしれないし」
「ハム太郎?」
「あぁ、最近飼い始めたペットだろ。確か前に聞いたぞ」
「そういえばそんな話をしていましたね…」
言われてみると、確かにこの2人とハム太郎が直接顔を合わせたことはなかった。
今日も気づけばいなくなっていたし…。
恐らく部長についていったのだと思うが。
「使えますか、こんな壊れたおもちゃ。触って怪我をしたらどうするんです」
「いや、子供じゃないから大丈夫だって」
「まぁハムスターが怪我することはないだろうけどよ」
なにしろハムスター(霊)だ。
「壊れたからってすぐゴミにするのはよくないと…思う」
一寸の虫にも五分の魂、ア○ボにだって供養祭が執り行われる時代なのだ。
いくらおまけでもらったようなおもちゃでも、この場に捨てて帰るというのはちょっと違うと思う。
「壊れたものに情をかけても仕方ありませんよ、いずれは捨てられるんですから」
「そうそ。よくあるだろ?いつか使おうと思って結局はゴミになるとかさ」
捨てて帰ったほうがいいと促す二人。
彼らの言いたいことはよくわかる。
そして、なぜ今高瀬の前でこんなことをしてみせたのかも。
「壊れる前に……落ちる前に止めるって手段もあったはずだよね」
「そうですね。その価値があればですが」
「止めたって勝手にこぼれ落ちてく可能性はあるぜ?」
確かにその通り。
救おうと差し出した手をすり抜けていくものはある。
関わらないほうがいいことは、重々承知の上で、だ。
「彼に、そこまでする価値はありますか?」
尋ねられたその問に、高瀬はちょっと考えて、頷いた。
「むしろこれで弱みを握ったと考えて、これから融通を効かせられる!」
これで職場が私の天下だぜ!
「おぉ、賢い」
「……タカ子にしては利口ですね?」
「しかしゲスいな?普通そこ、理由なんてなくても助けたいとかいわね?」
「それがタカ子らしさです」
「なるほどこれがゲス可愛い」
おい。聞いたことのない言葉を勝手に捏造するんじゃない。
もちろん冗談だとも。7:3くらいで。
どちらが7でどちらが3かは聞かないでくれ。
「というわけで、ふたりの意見は参考にしても実際どうするかはその時に決める!
だってほら、死なばもろともじゃん?」
この場合は道連れが前提条件だ。
「完全に開き直ったな」
「仕方ない。ではこれからは積極的に彼の弱みを集めていくことにしましょう」
「追加料金弾んでくれよ~。あの主任さんガード固いんだぜ」
「成功報酬で考えておきます」
「やった~」
「ついでに例の部長についてももっと徹底的に洗いなさい」
「やめてあげて!?部長は何も悪くないよ!」
一体どっちが本当にゲスいのか。
いつかはっきりさせてやりたいと思いながら、高瀬は心の中で主任に頭を下げる。
――ー成仏してくれ、主任。
君の弱みはもれなくまるっと掴まれそうだが、きっと悪いようにはしないと思う。
多分。きっと。恐らく……。
死なばもろとも、とはいうが。
同じ地雷原にこれから強制的に引っ張りこまれるであろう部長に、心の中で涙がこぼれた。
主任は自業自得として、あまりに気の毒すぎる。
だが、今回の場合、中心にいるのは残念ながら部長(についている幼女の霊)。
巻き込まれるのは必須。
部長、どんまい。
応援ありがとうございます!
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