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なんだかグロイ。

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「うわぁ…」
現場に到着して、高瀬は思わず呻いた。
部屋の中央で倒れ込む男性。
意識を失ったその人物の全身を包むのは、地面から無数に生えた真っ白い幼い手―――――。
ぐろい。ぐろすぎる。これぞオカルトだよ。
思わずドン引きしてしまったが、AEDを使って懸命に処置を始めようとする部長の姿を見つけ、なんとか意識を現実に引き戻す。
必死のあまり、こちらにはまだ気がついていないようだ。
周囲にもたくさんの部下らしき人物がいるが、誰も高瀬には気づいていない模様。
あ、アレクくん発見。
唸りながら、心配そうに部長を見ていたが、高瀬の姿を見てそれがぴたりと止んだ。
「部長、部長…」
しゃがみこんで器具を体に取り付けている部長の耳元に、こそこそと話しかける。
あ。こっち見た。
でも迂闊なことは口に出せないらしいので、そのままお口にチャックしておいてもらう。
「部長、今のままだと何をしても蘇生は無理ですよ」
その言葉に、目を見開く部長。
はいはい、わかってます分かってますって。
というか、部長には見えていないのか、この手は。
つまり高瀬にだけ見えている、ということは――――。
「これは霊体じゃなくて、無意識に呪いを可視化してるだけ…ってとこかな」
誰がって、そりゃあ自分がだろうが、にしても見た目がオカルティック。
強引にナウ○カのラストシーンだと思い込んでみようか。
触手に囲まれた例のシーンに、見ようによっては見えるような気も…。
あぁ、ロマンティック―――――な訳が無い。
「いかん、つい私まで現実逃避しちゃったよ…」
よし、逃げちゃダメだ。
「どうしたら蘇生する…?」
部長がこちらを見ずに、あくまで独り言を装ってぼそりとつぶやく。
小さなその言葉は、幸いにしてざわめく周囲の耳には入らなかったらしい。
それ幸いと、考え込んだ高瀬。
そして、思いついたのは我ながら名案だった。
「部長」
名前を呼び、部長の意識をこちらに向けさせる。
顔が完全にこちらに向いた瞬間。
――――ちゅ。
「……は?」
「んでもって………いってらっしゃい!!」
ドンッ!!!!!
突然、高瀬から頬にキスをされた部長が間抜け顔を晒し…。
その一瞬の隙をついて、トゥ!っとばかりに助走をつけた高瀬が、豪快に部長の背中を蹴り飛ばす。
「な…!?」
周囲からは、突然振り向いた部長がなぜかいきなり顔ごと室井社長に突っ込んだ、そう見えているだろう。
ざわついている。
まぁ当然だが…。
「一体何を……!!」
マウスとぅマウスで口から突っ込んだ部長が、自身の唇をゴシゴシとこすりながら怒鳴りつける。
だがそれ、きっと事情を知らない周りの部下さんたちが言いたいセリフだと思います。
周囲から見たら今のは完全に部長の異常行動だ。
「まぁまぁ、人工呼吸だと思って…」
「人工呼吸は直接行わない!専用の器具があるんだ…!!」
それでもなんとか押し殺した声で文句を言う部長だが、ここは人助けだと思って諦めて欲しい。
――――ほら。
部長がキスをした途端、室井社長に纏わりついていた白い手がすっと姿を消した。
完全にいなくなったわけではあるまいが、少なくともこれで――――。
「ゲホッ…!!ゴホッ…!!」
「社長…!!」
「大丈夫ですか、社長!!!」
盛大にむせ込みながら息を吹き返す室井社長に、群がる社員達。
――部長、そんなにキスが嫌だったんですか。
感動のシーンの筈なのに、一人だけ忌々しそうにこちらを見ないでください。
目立つ目立つ!
その後、ようやく到着した救急車に乗せられ、病院へと姿を消した室井社長。
部長は命の恩人とばかりに社員たちから崇められている。
流石は部長だ。
救いのキスなんてまぁ素敵……って、きっとごまかされてはくれないだろうな。
あぁ、絶対怒られる。
「アレク君、助けてください…」
『くぅん…?』
『きゅ!!』
「…あれ、ハムちゃんもいつの間に来たの?ってことは主任が…」
うん、到着したらしい。
部屋に入ってくるなり、一瞬で目線がこっちを向いた。
だが、既に室井社長が無事に蘇生したことは部長から連絡済みの為、少し顔がホッとしているようだ。
まずは部長と話をすると、こっそりこちらまでやってきて小声で話しかけられる。
「後で詳しく話を」
――ー了解です。
こくりとうなづき、ついでにこちらも交換条件を出しておく。
「部長がお怒りなので、是非一緒に怒られてください…」
ちらりと部長を一瞥した主任。
その渋面に気づき、訝しげに一言。
「及川くん、一体なにしたの…?」
――強いて言えば人助け?
「まぁ、軽く人口呼吸的な……」
ごにょごにょごにょ…。
「ってまさかそれ……」
ええ、そのまさかです。
ついでに生でな。
その答えにプッと吹き出す主任。
あなたも相当人が悪いです。
「でもそのおかげで、室井が助かったんだな?」
「まぁ、そう思っていただいていいかと…」
部長さまさまです。
「そうか……よかった…」
幼馴染だけあって、本当に心配はしていたらしい。
よかったですね、主任。
そう言おうとした高瀬だが、ふいに妙な違和感に気づいた。
部屋の奥に設置されたデスクに、妙な気配を感じる。
先ほどの白い腕の気配とも別だが…。
「主任主任、ちょっとバレないようにあのデスクの中を探ってもらえます?」
「え?無茶を言うなぁ…」
そう言いながら、なんとか周囲の目を盗んでデスクまで近寄っていく主任。
「そうそう、その二番目の引き出し…」
その背中から指示を出す高瀬は、そっと開けられられた引き出しの中にあったそれに、妙に納得してしまった。
先ほど室井社長を襲った呪詛の原因の一つが、これだ。
デスクの中に入った、2枚の写真。
「………これは…」
1枚は、主任がスーツ姿で写っているだけのもの。
――主任が冥婚用にと渡したものだろう。
そしてもう1枚は……。
「室井……」
先程までこの場所にいたあの室井社長と、見知らぬ女性とが映った、結婚写真。
まったく違和感なく一つに収まったその写真だが、実際にはそこに映った一人は、既にこの世に存在しない。
これが、冥婚だ。
結局――――彼は自身と妹との冥婚を選んだ。
「主任、とりあずそれを持ち逃げしましょう」
目立つのはまずい。
あまりうろちょろしていてスパイを疑われてもまずいし、今はひとまず部長を連れてトンズラだ。
その高瀬の提案に従ってか、それともほとんど無意識にか、写真をポケットに突っ込んだ主任は、その足でまだ人に囲まれている部長のもとへ歩いていく。
「…よし」
これで、出番は終わっただろう。
「二人共ご苦労様…」
よしよし、と功労者の2匹を撫でてやると、嬉しそうに鳴き声をあげる。
さて、とりあえず緊急事態は回避したが…。
「さっちゃんは、今どこにいるんだろうね…?」
部長はこの社内でその姿を見たという。
ならば、一応ここも探ってみるべきだろうか。
まだ話し込んでいる部長たちを一瞥し、高瀬はすっと、足を一歩踏み出した――――。
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