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入学後
それぞれの役目 メルフィス視点
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通話機の向こう側で何人かとやり取りをした後に、最後に繋がったのはアティバだった。
『メルフィス殿下。先ほど臣下から伺った件は本当ですか?』
「はい。キルタズの魔法陣は消えています。目視で確認しました。間違いありません」
『それで……描き直せる魔法使いがいると? それも見習いに?』
「そうです。ですから、大量の魔石が必要なんです。お金は後日払います。ですが、今魔石を譲ってもらえないなら、我々がキルタズを守る事ができません」
そもそも、俺たちの国の話ではない。キルタズを守る必要もない。
『魔法陣の重要性は承知しています。我々がお願いする立場です。費用はラクノーヴァの王家で払います。あるだけの魔石を使って下さい』
ケフィンとブルーノと一緒に顔を見合わせた。
どうにか上手くいった。
ラクノーヴァは、自尊心の高い国だ。出来るだけ自分の国で解決したいと思っているはずだ。これ以上トランダムに貸しを作りたくないと思っているのかもしれない。協力的なのはそのためだろう。
『我々も魔法使いを連れてすぐに向かいます。よろしくお願いします』
「はい。では、後ほど」
通話機を切って店主の女性に向き直る。
顔面蒼白で信じられないといった感じだ。
「我々も急いでいたので、無礼があったなら謝ります」
「「すみませんでした!」」
俺が頭を下げると、ケフィンとブルーノも頭を下げてくれる。
「アティバ殿下にも許可を頂きました。あるだけの魔石を譲って下さい。お願いします」
「あ、頭なんて下げないで下さい! トランダムの王子とは知らずに無礼を働いたのは私です。すぐにお持ちします」
手分けして魔道具から魔石を外した。
袋に入れてもらい、すぐに店を出た。
魔石屋の方にも話が行っていて、そちらでも魔石をすぐに譲ってもらえた。
魔石の袋は、ケフィンとブルーノが持ってくれた。
「俺たち役に立たなかったからな」
「メルフィス様カッコよかったですよ」
なんだか少し照れ臭かった。
◆◇◆
大きな魔石のところまで戻ってきた。
各班も戻ってきていて、町は変化がなく無事だったと報告を受ける。
やっぱり結界が消えてから時間が経ってなかったのだと思えた。
「でもさ……町外れの場所の奴らは、俺たちが魔法陣を消したんじゃないかって怒鳴られちゃった」
「俺たちが来たせいだって、あり得ない事言われたな」
そんな風に言われるなんて……。
トランダムとラクノーヴァはやはり仲が良いとは言えない。
「後は俺たちが出来ることは?」
同級生に言われて少し悩む。
ベルナルド先生へ報告と、大きな魔石へ魔力の補充。魔物も心配だし、魔石も届けたい。
そこで、カルセオが真剣な表情で話しかけて来た。
カルセオは、班長の一人だ。
「僕達の班は、先生達の手伝いに行くよ。みんなで話し合ったんだ。僕達は、こういう時のために勉強していたはずでしょ? 魔物は怖いけど、みんなで協力して先生達に教わった事をちゃんとやれば、僕たちでも役に立つと思う」
「ありがとう。それなら、ベルナルド先生に町の状況を報告して欲しい。俺たちは魔石を持ってディノの所に行く」
カルセオは、班員同士で頷き合って先生達の方を目指して行った。
「俺たちの班も行くよ。攻撃魔法なら得意な方なんだ」
「僕たちは防御魔法が出来るよ」
そうやって何班かが先生達の方へ行った。
「僕たちは、魔法がそこまで得意じゃないから、何もできない……」
残ったがっかりした様子の同級生に手を叩いて注目させる。
「まだ出来る事はある。みんなは、魔石に魔力を込めて欲しい。描き直した魔法陣がまた消えてしまわないようにしたい。それも立派な出来ることだ」
「わかった」
残ったみんなは頷いてくれる。
その場を他の班長に任せてディノ達の所に急いだ。
魔法陣を描いているディノを発見する。
最初の場所より数メートル描き進められている。
ディノが魔法陣を描いたところから白く光っていく様子を見ると、ディノが神秘的に見えた。
真剣な表情なんてあまり見ない。あんな顔もするんだ……。
ブルーノは、エーベルトを発見すると急いで駆けて行った。
「エーベルト! 怪我はないか!?」
「大丈夫だよ。魔物の気配なんて全くないよ。魔力が少し減ったぐらいだ」
「良かった……」
ホッとしたブルーノが微笑ましい。
「ディノ。魔石を持ってきた」
声を掛けたら、ディノがこちらを見た。顔が汚れていたのでそっと手で拭った。
「汚れいていた……」
「メルフィス、ありがとうごうざいます」
笑顔を向けられて照れ臭い。
ケフィンとブルーノが、袋に入った大量の魔石をディノに見せる。
「店主の女が信じてくれなくて、メルフィスが王家から許可取るって通話機で話してくれてさ。カッコよかったぜ」
「メルフィスはすごいですね」
ケフィンの言葉にディノが微笑む。
「あ……いや……ケフィン……あまり言わないでくれ……」
ディノに言うのは、なぜだか恥ずかしい。
「それで、王家の方も魔法陣が消えた事に驚いて、魔法使いを何人か連れてこっちに来るってさ」
「げっ……」
今、ディノからおかしな声が聞こえた気がしたが……気のせいか?
「魔石ありがとうございます。博物館から貰った物は使い切った所でした。助かります。シャオ」
名前を呼ばれてコクリと頷いたシャオは、魔石を受け取って魔石を粉末にしていた。
色んな魔法陣を使っていてすごい。
「俺たちが出来ることはあるか?」
「コリーから教わって下さい」
ディノは、また真剣な表情で魔法陣を描き始めた。
◆◇◆
しばらくして、ディノの手が止まった。
「どうした?」
「しー……風の音をよく聞いて」
耳に神経を集中すれば、何かがこちらに向かってくる羽音がする。
バサバサと聞こえる音はなんだ?
「みんな『氷塊蝶』が来ます!」
ディノの掛け声で一気に緊張感が高まる。
『氷塊蝶』は、蝶と言ってもその大きさは、歩き出した子供と同じぐらいある。鱗粉の代わりにキラキラと氷の粒を振り撒く。
普段は辺りを飛んで綺麗なだけの蝶だ。けれど、敵だと判断されれば、人の腕ほどの氷塊を弓ほどの速さで飛ばしてくる。そんな魔物が町へ行ったら大変な事になる。
「どうすればいいんだ……?」
「陣の外へ出してはダメだ。食い止める」
ディノの言葉にみんなゴクリと喉を鳴らした。
────────────
※魔法クイズ(読み飛ばしOKですよ)
今日の出題者は、トマス先生です。ニコニコしながら出題中。
復習は必要ないと思い、問題は一つにしました。
「僕の出番があまりないのでここで活躍できたら嬉しいです。僕は薬学の先生ですが、ある程度は魔法が使えますよ。それでは、問題です。『氷塊蝶』の倒し方はどれでしょう? これは教えた事はありません。少し難しいかもしれませんが、軽いお遊び程度に考えてみて下さい」
①凍らせる
②炎で焼く
③風で切り裂く
④綺麗な鱗粉ですねと口説く
「答えは──次回の小説の中にあります。次回までお預けです。ふふっ、たまにはこういうのもいいでしょう? 正解しているといいですね。──え? ヒントが欲しい? そうですね……『氷塊蝶』は、鱗粉が氷でできている事──ですかね」
『メルフィス殿下。先ほど臣下から伺った件は本当ですか?』
「はい。キルタズの魔法陣は消えています。目視で確認しました。間違いありません」
『それで……描き直せる魔法使いがいると? それも見習いに?』
「そうです。ですから、大量の魔石が必要なんです。お金は後日払います。ですが、今魔石を譲ってもらえないなら、我々がキルタズを守る事ができません」
そもそも、俺たちの国の話ではない。キルタズを守る必要もない。
『魔法陣の重要性は承知しています。我々がお願いする立場です。費用はラクノーヴァの王家で払います。あるだけの魔石を使って下さい』
ケフィンとブルーノと一緒に顔を見合わせた。
どうにか上手くいった。
ラクノーヴァは、自尊心の高い国だ。出来るだけ自分の国で解決したいと思っているはずだ。これ以上トランダムに貸しを作りたくないと思っているのかもしれない。協力的なのはそのためだろう。
『我々も魔法使いを連れてすぐに向かいます。よろしくお願いします』
「はい。では、後ほど」
通話機を切って店主の女性に向き直る。
顔面蒼白で信じられないといった感じだ。
「我々も急いでいたので、無礼があったなら謝ります」
「「すみませんでした!」」
俺が頭を下げると、ケフィンとブルーノも頭を下げてくれる。
「アティバ殿下にも許可を頂きました。あるだけの魔石を譲って下さい。お願いします」
「あ、頭なんて下げないで下さい! トランダムの王子とは知らずに無礼を働いたのは私です。すぐにお持ちします」
手分けして魔道具から魔石を外した。
袋に入れてもらい、すぐに店を出た。
魔石屋の方にも話が行っていて、そちらでも魔石をすぐに譲ってもらえた。
魔石の袋は、ケフィンとブルーノが持ってくれた。
「俺たち役に立たなかったからな」
「メルフィス様カッコよかったですよ」
なんだか少し照れ臭かった。
◆◇◆
大きな魔石のところまで戻ってきた。
各班も戻ってきていて、町は変化がなく無事だったと報告を受ける。
やっぱり結界が消えてから時間が経ってなかったのだと思えた。
「でもさ……町外れの場所の奴らは、俺たちが魔法陣を消したんじゃないかって怒鳴られちゃった」
「俺たちが来たせいだって、あり得ない事言われたな」
そんな風に言われるなんて……。
トランダムとラクノーヴァはやはり仲が良いとは言えない。
「後は俺たちが出来ることは?」
同級生に言われて少し悩む。
ベルナルド先生へ報告と、大きな魔石へ魔力の補充。魔物も心配だし、魔石も届けたい。
そこで、カルセオが真剣な表情で話しかけて来た。
カルセオは、班長の一人だ。
「僕達の班は、先生達の手伝いに行くよ。みんなで話し合ったんだ。僕達は、こういう時のために勉強していたはずでしょ? 魔物は怖いけど、みんなで協力して先生達に教わった事をちゃんとやれば、僕たちでも役に立つと思う」
「ありがとう。それなら、ベルナルド先生に町の状況を報告して欲しい。俺たちは魔石を持ってディノの所に行く」
カルセオは、班員同士で頷き合って先生達の方を目指して行った。
「俺たちの班も行くよ。攻撃魔法なら得意な方なんだ」
「僕たちは防御魔法が出来るよ」
そうやって何班かが先生達の方へ行った。
「僕たちは、魔法がそこまで得意じゃないから、何もできない……」
残ったがっかりした様子の同級生に手を叩いて注目させる。
「まだ出来る事はある。みんなは、魔石に魔力を込めて欲しい。描き直した魔法陣がまた消えてしまわないようにしたい。それも立派な出来ることだ」
「わかった」
残ったみんなは頷いてくれる。
その場を他の班長に任せてディノ達の所に急いだ。
魔法陣を描いているディノを発見する。
最初の場所より数メートル描き進められている。
ディノが魔法陣を描いたところから白く光っていく様子を見ると、ディノが神秘的に見えた。
真剣な表情なんてあまり見ない。あんな顔もするんだ……。
ブルーノは、エーベルトを発見すると急いで駆けて行った。
「エーベルト! 怪我はないか!?」
「大丈夫だよ。魔物の気配なんて全くないよ。魔力が少し減ったぐらいだ」
「良かった……」
ホッとしたブルーノが微笑ましい。
「ディノ。魔石を持ってきた」
声を掛けたら、ディノがこちらを見た。顔が汚れていたのでそっと手で拭った。
「汚れいていた……」
「メルフィス、ありがとうごうざいます」
笑顔を向けられて照れ臭い。
ケフィンとブルーノが、袋に入った大量の魔石をディノに見せる。
「店主の女が信じてくれなくて、メルフィスが王家から許可取るって通話機で話してくれてさ。カッコよかったぜ」
「メルフィスはすごいですね」
ケフィンの言葉にディノが微笑む。
「あ……いや……ケフィン……あまり言わないでくれ……」
ディノに言うのは、なぜだか恥ずかしい。
「それで、王家の方も魔法陣が消えた事に驚いて、魔法使いを何人か連れてこっちに来るってさ」
「げっ……」
今、ディノからおかしな声が聞こえた気がしたが……気のせいか?
「魔石ありがとうございます。博物館から貰った物は使い切った所でした。助かります。シャオ」
名前を呼ばれてコクリと頷いたシャオは、魔石を受け取って魔石を粉末にしていた。
色んな魔法陣を使っていてすごい。
「俺たちが出来ることはあるか?」
「コリーから教わって下さい」
ディノは、また真剣な表情で魔法陣を描き始めた。
◆◇◆
しばらくして、ディノの手が止まった。
「どうした?」
「しー……風の音をよく聞いて」
耳に神経を集中すれば、何かがこちらに向かってくる羽音がする。
バサバサと聞こえる音はなんだ?
「みんな『氷塊蝶』が来ます!」
ディノの掛け声で一気に緊張感が高まる。
『氷塊蝶』は、蝶と言ってもその大きさは、歩き出した子供と同じぐらいある。鱗粉の代わりにキラキラと氷の粒を振り撒く。
普段は辺りを飛んで綺麗なだけの蝶だ。けれど、敵だと判断されれば、人の腕ほどの氷塊を弓ほどの速さで飛ばしてくる。そんな魔物が町へ行ったら大変な事になる。
「どうすればいいんだ……?」
「陣の外へ出してはダメだ。食い止める」
ディノの言葉にみんなゴクリと喉を鳴らした。
────────────
※魔法クイズ(読み飛ばしOKですよ)
今日の出題者は、トマス先生です。ニコニコしながら出題中。
復習は必要ないと思い、問題は一つにしました。
「僕の出番があまりないのでここで活躍できたら嬉しいです。僕は薬学の先生ですが、ある程度は魔法が使えますよ。それでは、問題です。『氷塊蝶』の倒し方はどれでしょう? これは教えた事はありません。少し難しいかもしれませんが、軽いお遊び程度に考えてみて下さい」
①凍らせる
②炎で焼く
③風で切り裂く
④綺麗な鱗粉ですねと口説く
「答えは──次回の小説の中にあります。次回までお預けです。ふふっ、たまにはこういうのもいいでしょう? 正解しているといいですね。──え? ヒントが欲しい? そうですね……『氷塊蝶』は、鱗粉が氷でできている事──ですかね」
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