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公爵夫人を抱えたニコラス様が室内に駆け込んで行き、直ぐに一人でテラスに戻って来た。
ニコラス様に運ばれながらも笑顔で手を振っていた公爵夫人はいずこに?
「何も見なかった。誰も来なかった。いいねっ!?」
公爵夫人の登場はなかった事にするらしい。
「ぷっ!んんっ、ごほんっ!」
笑い出しそうになり咳払いで誤魔化して、何とか自分を立て直した。
「クロエは……そのぉ、あれだ」
背を向けながら言葉を探すニコラス様の耳が赤くなっているのを見て、なぜか瞼が熱くなる。
この人が好きだ。どうしても好き。初めての嫉妬を私にくれたこの人が愛おしい。
「あれだよ、その……ああいうのがタイプなら、少々努力が必要だが、研究すればできなくも無いと思うんだ」
あぁ、愛おしい。なんて可愛い人なのだろう。
「少しばかり僕とはタイプが違うが、時間さえもらえれば習得できると思うんだ。彼とそっくりな性格になれると思う」
「無理ですよ。全く違いますもの。正反対です」
「努力すればっ!え!?なんで?なんで泣いてるの?」
勢いよく振り返ったあと、慌てて駆け寄って来たニコラス様に顔を覗き込まれる。
「僕、また間違ったんだね。それで泣いてるんだね?彼が好きなんだね?」
確かにこの状況で泣くのはおかしいけど、その思考回路はもっとおかしい。
「ニコラス様のせいです」
「うん、僕が悪い。ごめんね、泣かせてごめんね」
子供にするようによしよしと頭を撫でながら、あたふたと謝る姿まで可愛く見えてしまう。
「ぐすっ。理由が分からないなら謝っちゃダメですよ」
「うん、うん、それも僕が悪い。今度はちゃんと謝ったことが悪いと分かって謝っているよ。ほんとにごめんね」
緩く抱きしめて背中をポンポンと叩かれる。
まるで子供時代に戻ったみたい。両親が亡くなってから、こんな風にされたことはなかった。
「もう大丈夫です。ありがとうございます。それにいきなり泣き出して申し訳ございません」
「それはいいんだけど……なぜ泣いたのか教えてもらえるのかな?」
聞いていいのかどうか迷っていたのだろう。自信なさげに質問してきた。
言っていいのか知りたいのは私の方だわ。だって半日後には馬車に乗って王都へと向かっている。
次にお会いするのは何年も先になるだろう。
ニコラス様はこの家から出ないし、私も王都から出る機会はほとんどない。
次にお会いする頃には忘れ去られているかもしれない。
何か思い出が欲しいと思うのは我が儘だと分ってはいるけれど……。
「クロエ、僕が察することが苦手だって知っているだろ。教えてもらわないとなぜ泣かせてしまったのだろうと眠れなくなるよ」
今夜だけ、今夜だけ自分勝手になりたい。
「あなたが……ニコラス様が……」
「うん、僕が?」
「愛おしくて」
「うん、僕がいとおしいんだね。……ん?いとおしい?僕が糸欲しい?」
「違いますよ。愛おし過ぎて涙が溢れたんです。ニコラス様が好きなんです」
「す……き?クロエが……僕を好き?」
「はい」
「本当に?本当の本当?」
「はい」
なぜか後ろを振り返りきょろきょろと何かを探すと、次は頬をつねり出した。
「マーガレットに騙されてるのか?いや夢か?」
「私はニコラス様が好きなんです」
今夜だけ、あと数時間だけ一夜の夢を見たい。
「クロエ……嬉しい。これほどの幸せはないよ……」
感極まったように私をきつく抱きしめる。
あぁ、もっとよ。これでは足りない。
年老いても色鮮やかに思い出せる幸せな記憶が欲しい。
「ニコラス様、部屋に行きましょう」
【マーガレット様、申し訳ございません……】
ニコラス様に運ばれながらも笑顔で手を振っていた公爵夫人はいずこに?
「何も見なかった。誰も来なかった。いいねっ!?」
公爵夫人の登場はなかった事にするらしい。
「ぷっ!んんっ、ごほんっ!」
笑い出しそうになり咳払いで誤魔化して、何とか自分を立て直した。
「クロエは……そのぉ、あれだ」
背を向けながら言葉を探すニコラス様の耳が赤くなっているのを見て、なぜか瞼が熱くなる。
この人が好きだ。どうしても好き。初めての嫉妬を私にくれたこの人が愛おしい。
「あれだよ、その……ああいうのがタイプなら、少々努力が必要だが、研究すればできなくも無いと思うんだ」
あぁ、愛おしい。なんて可愛い人なのだろう。
「少しばかり僕とはタイプが違うが、時間さえもらえれば習得できると思うんだ。彼とそっくりな性格になれると思う」
「無理ですよ。全く違いますもの。正反対です」
「努力すればっ!え!?なんで?なんで泣いてるの?」
勢いよく振り返ったあと、慌てて駆け寄って来たニコラス様に顔を覗き込まれる。
「僕、また間違ったんだね。それで泣いてるんだね?彼が好きなんだね?」
確かにこの状況で泣くのはおかしいけど、その思考回路はもっとおかしい。
「ニコラス様のせいです」
「うん、僕が悪い。ごめんね、泣かせてごめんね」
子供にするようによしよしと頭を撫でながら、あたふたと謝る姿まで可愛く見えてしまう。
「ぐすっ。理由が分からないなら謝っちゃダメですよ」
「うん、うん、それも僕が悪い。今度はちゃんと謝ったことが悪いと分かって謝っているよ。ほんとにごめんね」
緩く抱きしめて背中をポンポンと叩かれる。
まるで子供時代に戻ったみたい。両親が亡くなってから、こんな風にされたことはなかった。
「もう大丈夫です。ありがとうございます。それにいきなり泣き出して申し訳ございません」
「それはいいんだけど……なぜ泣いたのか教えてもらえるのかな?」
聞いていいのかどうか迷っていたのだろう。自信なさげに質問してきた。
言っていいのか知りたいのは私の方だわ。だって半日後には馬車に乗って王都へと向かっている。
次にお会いするのは何年も先になるだろう。
ニコラス様はこの家から出ないし、私も王都から出る機会はほとんどない。
次にお会いする頃には忘れ去られているかもしれない。
何か思い出が欲しいと思うのは我が儘だと分ってはいるけれど……。
「クロエ、僕が察することが苦手だって知っているだろ。教えてもらわないとなぜ泣かせてしまったのだろうと眠れなくなるよ」
今夜だけ、今夜だけ自分勝手になりたい。
「あなたが……ニコラス様が……」
「うん、僕が?」
「愛おしくて」
「うん、僕がいとおしいんだね。……ん?いとおしい?僕が糸欲しい?」
「違いますよ。愛おし過ぎて涙が溢れたんです。ニコラス様が好きなんです」
「す……き?クロエが……僕を好き?」
「はい」
「本当に?本当の本当?」
「はい」
なぜか後ろを振り返りきょろきょろと何かを探すと、次は頬をつねり出した。
「マーガレットに騙されてるのか?いや夢か?」
「私はニコラス様が好きなんです」
今夜だけ、あと数時間だけ一夜の夢を見たい。
「クロエ……嬉しい。これほどの幸せはないよ……」
感極まったように私をきつく抱きしめる。
あぁ、もっとよ。これでは足りない。
年老いても色鮮やかに思い出せる幸せな記憶が欲しい。
「ニコラス様、部屋に行きましょう」
【マーガレット様、申し訳ございません……】
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