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第14章 拳の王
第505話 役人の糺弾を受けて
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むう。これはちょっとマズい。
ここでビネース達が役人の言葉を真に受けて、いきなり手の平を返すとも思えないが、それでも役人達とのトラブルはなるだけ避けたい。
せっかく『地獄の轟き』を一時でも追い払って、どうにか真人間への道を少しでも歩ませられるかと思ったのに、そこでいきなり『お尋ね者』に逆戻りではお話にならない。
また不本意ながら彼らは『女神の化身』とオレを仰いでいるわけで、ここでオレが『詐欺師』という事になれば、また元の木阿弥になってしまうかもしれん。
あとオレをかばえばビネース達も罪に問われかねないし、そうそう逃げ出すワケにもいかないし、公権力の相手は本当に面倒臭いな。
そう思っている最中にも役人はオレを指差しつつ、血相を変えて叫んでいた。
「お前達も騙されるな! そいつが偽者なのは間違い無いのだぞ!」
「待ってくれ。どうしてそこまで言い切れるのだ」
「そうです。愚僧が先ほど申し上げた通り、彼女はいま大勢のもの達を改心させたのですよ。そんな事が偽者に出来るはずがありません」
ミーリアやマクラマンは抗議の声を挙げるが、役人の方は聞く耳を持たないようだ。
「それは……とにかくこの私が言うのだから確実なのだ!」
オレを指差しつつ糺弾している役人だが、さすがに自分が賄賂を受け取ったとは言えないらしく、マクラマンの問いかけにも応じずる様子は無いようだ。
「ええい。そこをどけ!」
役人はマクラマンを押しのけて、こちらに駆け寄ってくる。
一応は『調和』をかけてあるので、暴力的な行動には出られないが、それでも身体を掴む事ぐらいは出来る。
「お待ちなさい。そんな事はさせられません」
今度はビネースがオレをかばうように前に立つ。
「だからどけと言っただろう! 貴様らもあのような偽者に騙されるな!」
「そこまで言い切るなら、あなたは彼女が偽者だとする根拠があるのですね? しかしあなたは昨晩も彼女と対面し、話をしていたはずですが」
ビネースの突っ込みに対し、役人は少しばかり困った様子で息を呑むが、それも一瞬だった。
「確かに昨晩は気がつかなかったのはこちらの不覚だったが、しかしそいつが偽者なのは間違いないのだ。そしてお前達がそやつに騙され、利用されようとしているのを見過ごすワケにもいかん!」
う~ん。元々彼らはビネースに《招集》されたガイザー信徒達を解散させるためにやってきたはずなんだが、目的が完全に変わっているな。
ひょっとすると役人にとってガイザー信徒達を解散させても、特に実績にはならないけど『アルタシャを名乗る偽者』を捕らえたら成果として認められるのかもしれない。
それにたぶんこの役人も決して悪意でオレを偽者呼ばわりしているわけじゃない。
まあ賄賂を受け取るような人だから、清廉潔白ではないだろうけど、少なくとも自分の管轄地でろくでもない教団がつくられて、人々を悩ませる事を危惧するぐらいには真っ当な人間なのかもしれない。
しかし困ったな。
もちろんオレは無実であり『アルタシャ本人』そのものだ――まあ確かに『収賄の罪』はあるけどな――しかし相手がオレを偽者と決めつけている以上、口先でどうこう言っても通じるとは思えない。
その気になれば身元を保証してくれる知り合いなど大陸中に幾らでもいるけど、電話一本で造作なく連絡がつく元の世界とは違い、こっちでは少し離れたところに行くだけで何日も時間がかかるのだ。
いかがわしい偽者が捕まった場合、ハッタリでお偉いさんとの繋がりを口にする事などありふれているだろうし、そんなのをいちいち聞き入れるはずも無い。
そうすると現状ではこの場から尻に帆かけてとっとと逃げ出すのが、一番賢い選択肢なんだろう。
その場合『偽者確定』で公権力からオレが追われるのはまだいいが、ビネース達が『犯罪者をかばった』と罪に問われるような事になれば何とも心苦しい。
軽い気持ちで、ビネース達に解散を迫る役人達を引き下がらせ、あの場を収めるため渡した賄賂だったけど、それが実に困った事になってしまったな。
やっぱり人間、そうそう悪い事は出来ないモノだ。
「これ以上、邪魔をするならお前達も全員、同罪と見なすぞ!」
「そう言われても、あなたが彼女を偽者だと断言する根拠を示して下さらない以上、こちらも恩義あるお方を、引き渡すワケにはまいりませんな」
そう言ってビネースはチラと振り向き、オレに対して目配せをする。
たぶん『後の事は任せて、ここから逃げろ』と言っているのだろう。
何ともありがたい心遣いです。やっぱり持つべきものは友人だね。
しかしその言葉通りにしてビネース達を罪人にするわけにいきません。
「待って下さい。とにかくこちらに話をさせてくれますか?」
「しかしそれではあなたが――」
「大丈夫です。ここは任せて下さい」
いちおう『調和』はかけてあるので、暴力的な行動には出られない。だからいきなり身柄を押さえ込まれるはずもないので、ここは役人と話をしてどうにか凌ぐしか無いな。
そんなわけでオレは役人達の前に立って、その容姿がよく見えるように姿をさらした。
しかし曲がりなりにも神の一部だった先ほどの『地獄の轟き』よりも、賄賂を受け取る木っ端役人の方がずっと厄介で面倒くさい相手というのは相変わらず世知辛い話だな。
ここでビネース達が役人の言葉を真に受けて、いきなり手の平を返すとも思えないが、それでも役人達とのトラブルはなるだけ避けたい。
せっかく『地獄の轟き』を一時でも追い払って、どうにか真人間への道を少しでも歩ませられるかと思ったのに、そこでいきなり『お尋ね者』に逆戻りではお話にならない。
また不本意ながら彼らは『女神の化身』とオレを仰いでいるわけで、ここでオレが『詐欺師』という事になれば、また元の木阿弥になってしまうかもしれん。
あとオレをかばえばビネース達も罪に問われかねないし、そうそう逃げ出すワケにもいかないし、公権力の相手は本当に面倒臭いな。
そう思っている最中にも役人はオレを指差しつつ、血相を変えて叫んでいた。
「お前達も騙されるな! そいつが偽者なのは間違い無いのだぞ!」
「待ってくれ。どうしてそこまで言い切れるのだ」
「そうです。愚僧が先ほど申し上げた通り、彼女はいま大勢のもの達を改心させたのですよ。そんな事が偽者に出来るはずがありません」
ミーリアやマクラマンは抗議の声を挙げるが、役人の方は聞く耳を持たないようだ。
「それは……とにかくこの私が言うのだから確実なのだ!」
オレを指差しつつ糺弾している役人だが、さすがに自分が賄賂を受け取ったとは言えないらしく、マクラマンの問いかけにも応じずる様子は無いようだ。
「ええい。そこをどけ!」
役人はマクラマンを押しのけて、こちらに駆け寄ってくる。
一応は『調和』をかけてあるので、暴力的な行動には出られないが、それでも身体を掴む事ぐらいは出来る。
「お待ちなさい。そんな事はさせられません」
今度はビネースがオレをかばうように前に立つ。
「だからどけと言っただろう! 貴様らもあのような偽者に騙されるな!」
「そこまで言い切るなら、あなたは彼女が偽者だとする根拠があるのですね? しかしあなたは昨晩も彼女と対面し、話をしていたはずですが」
ビネースの突っ込みに対し、役人は少しばかり困った様子で息を呑むが、それも一瞬だった。
「確かに昨晩は気がつかなかったのはこちらの不覚だったが、しかしそいつが偽者なのは間違いないのだ。そしてお前達がそやつに騙され、利用されようとしているのを見過ごすワケにもいかん!」
う~ん。元々彼らはビネースに《招集》されたガイザー信徒達を解散させるためにやってきたはずなんだが、目的が完全に変わっているな。
ひょっとすると役人にとってガイザー信徒達を解散させても、特に実績にはならないけど『アルタシャを名乗る偽者』を捕らえたら成果として認められるのかもしれない。
それにたぶんこの役人も決して悪意でオレを偽者呼ばわりしているわけじゃない。
まあ賄賂を受け取るような人だから、清廉潔白ではないだろうけど、少なくとも自分の管轄地でろくでもない教団がつくられて、人々を悩ませる事を危惧するぐらいには真っ当な人間なのかもしれない。
しかし困ったな。
もちろんオレは無実であり『アルタシャ本人』そのものだ――まあ確かに『収賄の罪』はあるけどな――しかし相手がオレを偽者と決めつけている以上、口先でどうこう言っても通じるとは思えない。
その気になれば身元を保証してくれる知り合いなど大陸中に幾らでもいるけど、電話一本で造作なく連絡がつく元の世界とは違い、こっちでは少し離れたところに行くだけで何日も時間がかかるのだ。
いかがわしい偽者が捕まった場合、ハッタリでお偉いさんとの繋がりを口にする事などありふれているだろうし、そんなのをいちいち聞き入れるはずも無い。
そうすると現状ではこの場から尻に帆かけてとっとと逃げ出すのが、一番賢い選択肢なんだろう。
その場合『偽者確定』で公権力からオレが追われるのはまだいいが、ビネース達が『犯罪者をかばった』と罪に問われるような事になれば何とも心苦しい。
軽い気持ちで、ビネース達に解散を迫る役人達を引き下がらせ、あの場を収めるため渡した賄賂だったけど、それが実に困った事になってしまったな。
やっぱり人間、そうそう悪い事は出来ないモノだ。
「これ以上、邪魔をするならお前達も全員、同罪と見なすぞ!」
「そう言われても、あなたが彼女を偽者だと断言する根拠を示して下さらない以上、こちらも恩義あるお方を、引き渡すワケにはまいりませんな」
そう言ってビネースはチラと振り向き、オレに対して目配せをする。
たぶん『後の事は任せて、ここから逃げろ』と言っているのだろう。
何ともありがたい心遣いです。やっぱり持つべきものは友人だね。
しかしその言葉通りにしてビネース達を罪人にするわけにいきません。
「待って下さい。とにかくこちらに話をさせてくれますか?」
「しかしそれではあなたが――」
「大丈夫です。ここは任せて下さい」
いちおう『調和』はかけてあるので、暴力的な行動には出られない。だからいきなり身柄を押さえ込まれるはずもないので、ここは役人と話をしてどうにか凌ぐしか無いな。
そんなわけでオレは役人達の前に立って、その容姿がよく見えるように姿をさらした。
しかし曲がりなりにも神の一部だった先ほどの『地獄の轟き』よりも、賄賂を受け取る木っ端役人の方がずっと厄介で面倒くさい相手というのは相変わらず世知辛い話だな。
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