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第15章 とある御家騒動の話
第529話 デレンダとの再会がもたらすものは
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後宮にいたときに比べると、ここ数ヶ月でかなり『少女』から『女性』の雰囲気を漂わせるようになってはいたが、そこにいたのは紛れもなくオレが皇帝のプロポーズを断ってこの国を出てから久しぶりに会うデレンダだった。
そういえば彼女の実家は裕福な商人で、娘を後宮に入れるため貴族や役人に多額の賄賂を送ったとか言っていたな。
その実家の場所は聞いていなかったけど、まさかこの街だったとは思いもしなかった。
そしてデレンダはその口を大きく開きかける。
「アルタ--」
マズイ!
オレは天下の往来で叫びを挙げかけたデレンダのところに慌てて駆けつけ、その口に手を当てる。
こんなところでオレがいる事が広まったら、大騒動間違いなしだ。
「お願いだから。今はわたしの事は黙っていて」
ここでオレは指で唇を押さえて、沈黙するように頼み込む。
「わ、わかりました」
デレンダは了承した様子で小さく頷く。
さすがにこの世界で出来た最初の友達だけあって、オレの意志は汲んでくれたようだ。しかし当然、それだけでは収まらない。
「おい! お前なにをしている! お嬢さんを離せ!」
周囲にいた面々が血相を変えて怒鳴りつけ迫ってくる。
フードを被った怪しい相手が、裕福な商家のお嬢さんを押さえつけて黙らせていたらそりゃ周囲が血相を変えるのは当たり前だ。
そしてそこでデレンダが連中を制止する。
「お待ちなさい。この人は――」
ここでデレンダはちょっとばかり言葉に詰まる。どう言えばいいのかとっさに思いつかなかったのか。
「わたしたちは友達でしょう」
「え……いいんですか?」
「当然です」
オレが力を込めて頷くと、デレンダもどこか嬉しげに微笑みつつ、迫ってきた周囲に対して説明する。
「こちらの方はあたしの大切な友人です。だから心配する事はありません。あなた達は下がっていて下さい」
「はあ……」
さすがに釈然とはしないようだが、それでも逆らうものもなく、やってきた連中はひとまず引き下がる。
そして先ほどオレのフードを引っぺがした警備員も慌ててやってきて詫びを述べる。
「お嬢さんのお知り合いならば、美人なのは当然でしたな。失礼しました」
「あ……いえ。気にしていませんから」
オレが取りなすと警備員は胸をなで下ろした様子で去って行く。
そういえばデレンダは故郷では『器量よし』で通っていたと言っていたな。その友人だから美人というのも変な理屈な気がするが、適当に弁解しただけなのか。
ここでデレンダは改めて嬉しげに一礼する。
「もう二度と会えないかと思っていましたけど、本当に嬉しいです」
「え……ええ……」
久しぶりで友達に会えたから、こちらも嬉しくないワケではないが、いろいろと面倒な事にもなりそうなのでちょっとばかり身構えつつ返答する。
そしてここでデレンダはチラと視線を動かす。
「ところであちらの方はどちら様ですか?」
状況が分からないらしいミリンサは、少しばかり離れた場所からこちらを心細げに見ていた。
あまりややこしい言い方をして余計な誤解を招いても困るな。
「あなたと同じく、わたしの友達ですよ」
「分かりました」
デレンダにアッサリと納得されると、かえって不安な気がしてくるが今はオレの方が合わせるしか無いな。
「あとわたしの事は『アル』とだけ呼んでくれませんか?」
「え? なるほど。そういうことですか」
やっぱり何か勘違いされていそうだが、今は詳しい事を説明しているわけにもいかない。
そしてここでミリンサも近寄ってくる。
「そちらの人はアルのご友人なのか?」
「ええそうです」
デレンダは特に警戒心を示すことも無く、ミリンサにも礼儀正しく頭を下げる。
「失礼した。私の名前はミリンサ」
「デレンダと言います。よろしくお願いします」
ここでデレンダは改めてオレの方に向き直る。
「今日のところはお二人とも我が家にいらして下さい。是非ともお話を聞かせて欲しいですから」
むう。ありがたい申し出ではあるが、オレが泊まったりしたら迷惑をかけかねない。
やはり遠慮すべきだろう。
「いえ。デレンダの気持ちは嬉しいのですけど――」
「お願いします!」
友人に力を込めて頼まれると、こっちも断りづらいが、オレの背負った厄介事を友達のところに持ち込むわけにはいかない。
しかしデレンダは引き下がらなかった。
「もしも何かお困りでしたら、あたしに出来る事なら喜んで力を貸します! だからなにとぞいらして下さい!」
「しかしあなたや実家の方に迷惑がかかるかもしれないのですよ」
「あなたをお迎えして光栄に思う事はあっても、迷惑などとは決して考えません」
「……分かりました」
ここまで言い切られるとオレとしても言う事を聞くしか無い。
あとここで強引に別れた場合、デレンダが官憲にオレの事を伝えて、今度は軍までやってくるような事にもなりかねない。
ウァリウス皇帝がオレがいることを知れば、何をしてくるか分からないからな。冷静に考えればミツリーンのような大陸を股にかけたストーカーよりも、皇帝の方が遥かに厄介な相手なのは間違い無いのだ。
それにデレンダが裕福な商家の出身ならドズ・カムだけでなく、他の事でもいろいろと情報を得られる見込みもあるだろう。
とりあえず今のところは好意に甘えるしかないか。
しかしこんなところでデレンダと出会うとは、まさに奇縁と言うモノだな。
そういえば彼女の実家は裕福な商人で、娘を後宮に入れるため貴族や役人に多額の賄賂を送ったとか言っていたな。
その実家の場所は聞いていなかったけど、まさかこの街だったとは思いもしなかった。
そしてデレンダはその口を大きく開きかける。
「アルタ--」
マズイ!
オレは天下の往来で叫びを挙げかけたデレンダのところに慌てて駆けつけ、その口に手を当てる。
こんなところでオレがいる事が広まったら、大騒動間違いなしだ。
「お願いだから。今はわたしの事は黙っていて」
ここでオレは指で唇を押さえて、沈黙するように頼み込む。
「わ、わかりました」
デレンダは了承した様子で小さく頷く。
さすがにこの世界で出来た最初の友達だけあって、オレの意志は汲んでくれたようだ。しかし当然、それだけでは収まらない。
「おい! お前なにをしている! お嬢さんを離せ!」
周囲にいた面々が血相を変えて怒鳴りつけ迫ってくる。
フードを被った怪しい相手が、裕福な商家のお嬢さんを押さえつけて黙らせていたらそりゃ周囲が血相を変えるのは当たり前だ。
そしてそこでデレンダが連中を制止する。
「お待ちなさい。この人は――」
ここでデレンダはちょっとばかり言葉に詰まる。どう言えばいいのかとっさに思いつかなかったのか。
「わたしたちは友達でしょう」
「え……いいんですか?」
「当然です」
オレが力を込めて頷くと、デレンダもどこか嬉しげに微笑みつつ、迫ってきた周囲に対して説明する。
「こちらの方はあたしの大切な友人です。だから心配する事はありません。あなた達は下がっていて下さい」
「はあ……」
さすがに釈然とはしないようだが、それでも逆らうものもなく、やってきた連中はひとまず引き下がる。
そして先ほどオレのフードを引っぺがした警備員も慌ててやってきて詫びを述べる。
「お嬢さんのお知り合いならば、美人なのは当然でしたな。失礼しました」
「あ……いえ。気にしていませんから」
オレが取りなすと警備員は胸をなで下ろした様子で去って行く。
そういえばデレンダは故郷では『器量よし』で通っていたと言っていたな。その友人だから美人というのも変な理屈な気がするが、適当に弁解しただけなのか。
ここでデレンダは改めて嬉しげに一礼する。
「もう二度と会えないかと思っていましたけど、本当に嬉しいです」
「え……ええ……」
久しぶりで友達に会えたから、こちらも嬉しくないワケではないが、いろいろと面倒な事にもなりそうなのでちょっとばかり身構えつつ返答する。
そしてここでデレンダはチラと視線を動かす。
「ところであちらの方はどちら様ですか?」
状況が分からないらしいミリンサは、少しばかり離れた場所からこちらを心細げに見ていた。
あまりややこしい言い方をして余計な誤解を招いても困るな。
「あなたと同じく、わたしの友達ですよ」
「分かりました」
デレンダにアッサリと納得されると、かえって不安な気がしてくるが今はオレの方が合わせるしか無いな。
「あとわたしの事は『アル』とだけ呼んでくれませんか?」
「え? なるほど。そういうことですか」
やっぱり何か勘違いされていそうだが、今は詳しい事を説明しているわけにもいかない。
そしてここでミリンサも近寄ってくる。
「そちらの人はアルのご友人なのか?」
「ええそうです」
デレンダは特に警戒心を示すことも無く、ミリンサにも礼儀正しく頭を下げる。
「失礼した。私の名前はミリンサ」
「デレンダと言います。よろしくお願いします」
ここでデレンダは改めてオレの方に向き直る。
「今日のところはお二人とも我が家にいらして下さい。是非ともお話を聞かせて欲しいですから」
むう。ありがたい申し出ではあるが、オレが泊まったりしたら迷惑をかけかねない。
やはり遠慮すべきだろう。
「いえ。デレンダの気持ちは嬉しいのですけど――」
「お願いします!」
友人に力を込めて頼まれると、こっちも断りづらいが、オレの背負った厄介事を友達のところに持ち込むわけにはいかない。
しかしデレンダは引き下がらなかった。
「もしも何かお困りでしたら、あたしに出来る事なら喜んで力を貸します! だからなにとぞいらして下さい!」
「しかしあなたや実家の方に迷惑がかかるかもしれないのですよ」
「あなたをお迎えして光栄に思う事はあっても、迷惑などとは決して考えません」
「……分かりました」
ここまで言い切られるとオレとしても言う事を聞くしか無い。
あとここで強引に別れた場合、デレンダが官憲にオレの事を伝えて、今度は軍までやってくるような事にもなりかねない。
ウァリウス皇帝がオレがいることを知れば、何をしてくるか分からないからな。冷静に考えればミツリーンのような大陸を股にかけたストーカーよりも、皇帝の方が遥かに厄介な相手なのは間違い無いのだ。
それにデレンダが裕福な商家の出身ならドズ・カムだけでなく、他の事でもいろいろと情報を得られる見込みもあるだろう。
とりあえず今のところは好意に甘えるしかないか。
しかしこんなところでデレンダと出会うとは、まさに奇縁と言うモノだな。
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