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第21章 神の試練と預言者
第964話 神の力を引き出した果てに
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周囲に群れ集う無数のシャンサは次から次へと叫び出す。
『さあ。その力を差し出せ』
『我が一部になれ』
『そうすれば再び栄光の日々が訪れるのだ』
ううむ。部外者だったら、無駄に哲学的なアニメか何かの一シーンかと思いかねない光景だが困った事に迫られているのはオレ自身だ。
過去には幾度も神そのものにすら迫られた経験があるから、これぐらいでは動じない、と言いたいところだが大ピンチなのは変わりは無い。
だがどうにも違和感がある。
最初の頃の余裕のある態度から、ドンドンと狂気じみたものになっている気がするぞ。
迫り来るシャンサの集団が急速に自分自身を見失っていると言うか、暴走していると言うかそんな雰囲気が漂っているのだ。
これはもしかしたら――
「テセル。あの人は自分で引き出した神の力を制御できなくなっていませんか」
先ほどテセルが口にしたところでは、人の身で神の力の器になるのは極めて危険で、心身を共に滅ぼしてしまいかねないという事だった。
もしかすると今のシャンサは力を引き出しすぎて、次第に――と言うよりむしろ急速に――正気を失いつつあるのではないだろうか。
「う~ん。たぶんそうだろうな」
「その頼りにならない返答は何ですか!」
思わずテセルを怒鳴ってしまったが、いつも偉そうな事を口にしている本職の癖に肝心なところで役に立たないのだから、それぐらいはいいだろう。
「お前はそう言うけど、僕だって実例を見るのは初めてだぞ。本職だからこそ、そう簡単に断言など出来ないのだ」
言っていることはそれなりに筋が通っているかもしれないが、こういう場面で言われると『なるほど』と納得はしていられない。
「この僕が説明しても、お前のようなへそ曲がりが存在する事を、他の神造者はすぐには信じてくれなかったからな。直に目の当たりにしなければ、特別な事象を軽々に論じる事が出来ないのは当然なのだ」
まったくこの男はいつもながら一言多い。
「あの男も今までは引き出した力をなるだけ出し惜しみしていたのだろう。実際に解放派がやり過ぎて失敗した事は理解していた筈だからな。だけど自分が得た力がどれほどのものか試してみたいという意識はあったのだろう」
「まあ……人間ならそういうものなのでしょうね」
「それがお前と出会った事をきっかけに吹き出してしまったに違いない……本当にどこまでも『魔性の女』だな」
「どうしてそこでわたしのせいになるんですか!」
思わず叫んだがテセルはまるで動じない。
「あいつもだいたいお前の力は感知していたはずだ。それだけの力を有した存在を目の当たりにすれば『自分も同等の力が使えるのでは』と考えてしまうのは何の不思議も無いだろう」
ううむ。そのあたりは解放派の支持者達と共通するところがあるのかもしれないな。
しかもオレの場合、チートで特に努力もせずに魔法の力を得てしまったわけだ。
不本意だけどシャンサにすればオレはある意味で『解放派が追い求めた理想』とでも言うべき存在だったんだな。
「僕に言わせれば、むしろお前の方が不可思議で理解不能だよ。それだけ信仰の力を有していながら、よくまあ平然としていられるものだ」
「この状況で平然と解説していられるテセルの方が理解不能ですよ!」
周囲に集うシャンサの群れは、口々に勝手な事をわめいている。
『その力を寄こせ……』
『我がずっと追い求めていたものだ』
『それがあれば、我らも故国を追われる事は無かったはずだ』
なんかドンドンと自分の欲求ばかりを叫んでいないか。
加速度的に精神が壊れている、というよりは自分の得ている力に飲み込まれつつあるのは間違いないらしい。
「過去の『解放派』もこんなことになっていたのですか?」
「いや……そういう話は聞いていないが、何か重大な違いでもあったのか……それともあの男の研究の成果がこれなのか?」
テセルもこんな事態は想定していなかったらしい。
そうすると恐らくは――
「過去の話からすると『知恵の泉』を飲む事で知性が向上するというのは、逆を言えば効果はそこまでと言うことではないのですか?」
「それはその通りだが……」
「だからそこに限度があったのに、この聖地にはそれが無かったのかもしれません」
オレの知る限り普通、その手のパワーアップイベントは一度きりだ。
英雄が『試練を乗り越えて強大な力を得た』という伝説は多くとも、それを何度も繰り返してどんどん力を増大させたという話は聞いた事が無い。
言いかえると伝説に連なる効果もそこまでで限定されている事になる。
だから過去の解放派も暴走が抑えられていたのではないだろうか。
しかしサロールから聞いた限りではイル=フェロ神の聖地を訪れる事で、どのような恩恵が与えられるかは明確になっていなかった。
それはイル=フェロ信徒の間で『神の恩恵』の中身が共通認識になっていなかったからだが、言いかえるとその伝説では『引き出せる力の上限』もなかった事になる。
恐らくその点はシャンサにとっても完全に盲点だったのだろう。
今まで力を引き出すのを抑制していたから、そこには気づかなかったのだ。
しかし今は一気にこの聖地の力を引き出した事で、シャンサはその神の力に心身が飲み込まれてしまったに違いない。
相変わらずのロクでもない成り行きにオレが気づいた時、周囲に群れ集うシャンサ達の姿は急速に崩れ集まりだした。
それはこれから起こるとんでもない事態の先触れに思えるものだった。
『さあ。その力を差し出せ』
『我が一部になれ』
『そうすれば再び栄光の日々が訪れるのだ』
ううむ。部外者だったら、無駄に哲学的なアニメか何かの一シーンかと思いかねない光景だが困った事に迫られているのはオレ自身だ。
過去には幾度も神そのものにすら迫られた経験があるから、これぐらいでは動じない、と言いたいところだが大ピンチなのは変わりは無い。
だがどうにも違和感がある。
最初の頃の余裕のある態度から、ドンドンと狂気じみたものになっている気がするぞ。
迫り来るシャンサの集団が急速に自分自身を見失っていると言うか、暴走していると言うかそんな雰囲気が漂っているのだ。
これはもしかしたら――
「テセル。あの人は自分で引き出した神の力を制御できなくなっていませんか」
先ほどテセルが口にしたところでは、人の身で神の力の器になるのは極めて危険で、心身を共に滅ぼしてしまいかねないという事だった。
もしかすると今のシャンサは力を引き出しすぎて、次第に――と言うよりむしろ急速に――正気を失いつつあるのではないだろうか。
「う~ん。たぶんそうだろうな」
「その頼りにならない返答は何ですか!」
思わずテセルを怒鳴ってしまったが、いつも偉そうな事を口にしている本職の癖に肝心なところで役に立たないのだから、それぐらいはいいだろう。
「お前はそう言うけど、僕だって実例を見るのは初めてだぞ。本職だからこそ、そう簡単に断言など出来ないのだ」
言っていることはそれなりに筋が通っているかもしれないが、こういう場面で言われると『なるほど』と納得はしていられない。
「この僕が説明しても、お前のようなへそ曲がりが存在する事を、他の神造者はすぐには信じてくれなかったからな。直に目の当たりにしなければ、特別な事象を軽々に論じる事が出来ないのは当然なのだ」
まったくこの男はいつもながら一言多い。
「あの男も今までは引き出した力をなるだけ出し惜しみしていたのだろう。実際に解放派がやり過ぎて失敗した事は理解していた筈だからな。だけど自分が得た力がどれほどのものか試してみたいという意識はあったのだろう」
「まあ……人間ならそういうものなのでしょうね」
「それがお前と出会った事をきっかけに吹き出してしまったに違いない……本当にどこまでも『魔性の女』だな」
「どうしてそこでわたしのせいになるんですか!」
思わず叫んだがテセルはまるで動じない。
「あいつもだいたいお前の力は感知していたはずだ。それだけの力を有した存在を目の当たりにすれば『自分も同等の力が使えるのでは』と考えてしまうのは何の不思議も無いだろう」
ううむ。そのあたりは解放派の支持者達と共通するところがあるのかもしれないな。
しかもオレの場合、チートで特に努力もせずに魔法の力を得てしまったわけだ。
不本意だけどシャンサにすればオレはある意味で『解放派が追い求めた理想』とでも言うべき存在だったんだな。
「僕に言わせれば、むしろお前の方が不可思議で理解不能だよ。それだけ信仰の力を有していながら、よくまあ平然としていられるものだ」
「この状況で平然と解説していられるテセルの方が理解不能ですよ!」
周囲に集うシャンサの群れは、口々に勝手な事をわめいている。
『その力を寄こせ……』
『我がずっと追い求めていたものだ』
『それがあれば、我らも故国を追われる事は無かったはずだ』
なんかドンドンと自分の欲求ばかりを叫んでいないか。
加速度的に精神が壊れている、というよりは自分の得ている力に飲み込まれつつあるのは間違いないらしい。
「過去の『解放派』もこんなことになっていたのですか?」
「いや……そういう話は聞いていないが、何か重大な違いでもあったのか……それともあの男の研究の成果がこれなのか?」
テセルもこんな事態は想定していなかったらしい。
そうすると恐らくは――
「過去の話からすると『知恵の泉』を飲む事で知性が向上するというのは、逆を言えば効果はそこまでと言うことではないのですか?」
「それはその通りだが……」
「だからそこに限度があったのに、この聖地にはそれが無かったのかもしれません」
オレの知る限り普通、その手のパワーアップイベントは一度きりだ。
英雄が『試練を乗り越えて強大な力を得た』という伝説は多くとも、それを何度も繰り返してどんどん力を増大させたという話は聞いた事が無い。
言いかえると伝説に連なる効果もそこまでで限定されている事になる。
だから過去の解放派も暴走が抑えられていたのではないだろうか。
しかしサロールから聞いた限りではイル=フェロ神の聖地を訪れる事で、どのような恩恵が与えられるかは明確になっていなかった。
それはイル=フェロ信徒の間で『神の恩恵』の中身が共通認識になっていなかったからだが、言いかえるとその伝説では『引き出せる力の上限』もなかった事になる。
恐らくその点はシャンサにとっても完全に盲点だったのだろう。
今まで力を引き出すのを抑制していたから、そこには気づかなかったのだ。
しかし今は一気にこの聖地の力を引き出した事で、シャンサはその神の力に心身が飲み込まれてしまったに違いない。
相変わらずのロクでもない成り行きにオレが気づいた時、周囲に群れ集うシャンサ達の姿は急速に崩れ集まりだした。
それはこれから起こるとんでもない事態の先触れに思えるものだった。
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